清水真澄(2014.2)「『万葉集』における接続表現:「なへ(に)」の機能と意味関係」『中央大学大学院 大学院研究年報 文学研究科篇』43
要点
ナへニ
- 上代の接続助詞ナヘ(ニ)(中古には衰退)は、同時性で捉える解釈が多いが、その解釈には限界がある
- 語源には並ムの連用形説、ナ+上説などがある。連体形を承けること、格助詞ニがつくことから形式名詞由来であると考えられる
ナへニとツツ
- ツツの上接品詞と比較して考える。
- 動詞の場合、ツツは人を動作主とする動詞が多く、ナヘニはそれほど多くない
- すなわち、ツツは同時並行の動作主体に人を取るという制約を持つが、ナヘニは同時並行の関係でつなぐ蓋然性は低い
- ツツは視覚表現を、ナヘニは聴覚表現を取りやすい
- 異なる時間・動作・主体の関係性が、表現者によって関連付けられている
- 来鳴きになへに、…もみちそめたり(2194)
- 形容詞の場合、形容詞ツツはなく、形容詞ナヘニは「雁(が音)の寒きなへ」の例のみ
- 触覚を聴覚的にとらえている(転移)のであり、ナヘニが個人の感覚・感情に用いられることを示す
- 助動詞の場合、ツツにつかないキ・ツがナヘニにはつく
- 雁が音寒く聞きしなへ野辺の浅茅そ色付きにける(1540)
- 過去に体験した事実を情報としてとりあげ、その結果どういうことが起きたか、という関係性(聞き取る→色づきに気付く)を示す
- ツ*1、連体ナリも同様で、後件の認識、判断の根拠として、体験した事実を前件に提示するという関係構成の役割を担うのではないか
- 雁が音寒く聞きしなへ野辺の浅茅そ色付きにける(1540)
- 以上よりナヘニは条件表現であり、判断の根拠を示す理由の表現であると考えられる
- 季節歌においては、後件の実現の原因・理由を、前件に示す過去の事実(季節の前触れ)と結びつけて捉える
まとめ
- ナヘニは形式名詞+格助詞ニ。ナヘ型は上代の一時期にのみ現れる
- ナヘニは同時並行を表すものではなく、継時的な関係性を表現者の中で関連付ける表現である
- 前件の実現が後件の実現の根拠を示すという相互依存関係を持つ、主観的判断による理由表現であると考える
雑記
- こんなのきたら喜々として不可出しちゃうな
*1:ツ+ツツが不可なのは意味的にもそうだが、ツツがツ由来であることと関係する?