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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

小田勝(1991.6)成分モダリティ:中古和文における特殊な句

小田勝(1991.6)「成分モダリティ:中古和文における特殊な句」『国学院雑誌』92(6)

要点

  • 以下がいわゆる「はさみこみ」と異なる、特殊な句であることを示す
    • 白き衣の萎えたると見ゆる着て、掻練の張綿なるべし、腰よりしもに引きかけて、側みてあれば、顔は見えず(落窪)

挿入句と成分モダリティ

  • 挿入句の解釈は「除去してもその前後が問題なく連続する」ことに支えられ、以下の4分類が可能
    • 1 下文に対する補足説明
    • 2 上の語句に対する補足説明
    • 3 文脈上必要な事柄の追加的な補足説明
    • 4 詠嘆など
    • 挿入句と下文の関係は、1が接続(狭義的修飾)、2が対等、3,4が独立の関係にある
  • 上の落窪の例は、一見挿入句1のようであるが、そうではない
    • 下文に対する原因・理由の推量ではない
    • 用言の補充成分(「掻練の張綿なるべし」、それを引きかけて…)という関係になる
    • すなわち、はさみこまれたものではなく、必須成分として文の意味を補完する機能を持ち、
    • 「掻練の張綿を引きかけて」の目的格成分が、不確かなものとして取り立てられたものと考える
  • 文中のある成分が特別な心的態度をもって取り立てられるとき、これを「成分モダリティ」と呼んで、見ていく

成分モダリティの種類

  • 成分モダリティとなる成分は補充成分(主格・目的格・ニ格)、(時の)連用修飾成分、連体修飾成分の3種
  • 補充成分モダリティ:主格・目的格・ニ格が不確かなものとして取り立てられたもの
    • 曙にしも、曹司におるる女房なるべし、「いみじう積りにける雪かな」と言ふを聞きつけたまへる…(源氏)
    • いわゆる強展叙のみで、弱展叙は成分モダリティにならない
  • 連用修飾成分モダリティ:時の修飾成分が不確かなものとして取り立てられたもの
    • 侍従といひし人は、ほのかにおぼゆるは、五つ六つばかりなりしほどにや、にはかに胸を病みて亡せにきとなむ聞く(源氏)
    • 時の連用修飾成分のみが連用修飾成分モダリティとなる。桐壷の冒頭もこれと同様
  • 連体修飾成分モダリティ
    • 紫の上は、葡萄染にやあらむ濃き小桂、薄蘇芳の細長に、御髪のたまれるほど、(源氏)
      • =葡萄染の濃き小桂 の意

提示文

  • 成分モダリティが存在し得た背景に、提示文の存在がある
    • 石作りの皇子には、仏の石の鉢といふ物あり、それをとりて賜べ(竹取)
    • 下文の補充成分が句の形で提示され、後続の指示語が句中体言を受けるもの
  • また、提示文的な文の連続も見られる
    • 子供の古衣やある。着せたまへ。(落窪)
      • =それを着せたまへの意
  • 成分モダリティはこの提示文と、提示文的な文の連続の形式を背景として、中古和文に存在し得たと考えられる

雑記

  • 成モって呼びたい