ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

徳本文(2017.3)複合動詞の後項「こむ」の変遷

徳本文(2017.3)「複合動詞の後項「こむ」の変遷」『立教大学日本語研究』24

要点

  • Vコムは中世から近世にかけて発達する

前提

  • 現代語のVコム*1の用法を参考に、本動詞の意味を保つかどうかを基準として、以下の分類を立てる
    • 内部移動:落ちこむ、食いこむ、駆けこむ
    • 密である:立てこむ、取りこむ(取り込んでいるの意)
    • 程度の強調:黙りこむ、老けこむ、使いこむ
    • 転義:打ちこむ、(弱みに)つけこむ
  • 古典語の辞書記述によれば、
    • 本動詞コムの基本義は「密である」ことで、単体では内部への移動は表さない
    • 複合動詞の例が多く、それが増加したのは中世以降

変遷

  • 上代・中古には源氏の6例しかなく、内部への移動は「取りこむ」1例のみ
  • 中世には、
    • 混雑の意の「立ちこむ」「来こむ」に加え、
    • 主体の内部移動(逃げ込む)、対象の内部移動(投げ込む)がほぼ同時期に現れるほか、
    • 補助動詞的用法の「打ちこむ」(何度も打つの意)もある*2
  • 近世には、
    • 混雑の意は「取りこむ」が多忙の意で用いられるほかはなく、
    • 主体の移動・対象の移動はどちらも語数が増えて生産力が上がっている
    • 補助動詞的用法には「思いこむ」「寝込む」があるが、こちらの生産力は高くはない
    • 転義のものに「見こむ」「付けこむ」がある

雑記

  • 「科研が書けん」て言った瞬間呪われて、一生書けなくなるらしいです

*1:マルコムXっぽい

*2:「オンラインデータベース「日本古典文学全集」を使用し」と書いてあって、趣がある