山際彰(2018.10)「時間的意味から空間的意味への意味変化の可能性:「端境」の変遷を通して」『国立国語研究所論集』16
要点
- 「端境」は、一般的傾向に反する「時間的意味から空間的意味」という意味変化のように見えて、そうではない
前提
- 語の意味変化の方向性に「空間的意味から時間的意味」がある
- 最近、近々など
- 端境はその反例となるのではないか
- 以下問題提起
- (a) 「端境」はどのような過程を経て現代のような意味を表すようになるのか。
- (b) 「端境」は時間的意味から空間的意味への意味変化の事例といえるか。
- (c) もし(b)がいえるならば,その変化パターンは普遍的なものといえるか。
- 辞書類によれば、
- 「米の入れ替わりの時期」の意義を有し、米以外にも使われることがある
- 端境が1900、端境期が1911
- 「境目」の意は方言にしか見られないので、現代の用例を参考に以下の語義分類を設ける
- 時期(先週を端境に)、抽象的概念(生と死の端境)、空間(地区と地区の端境)
- 「米の入れ替わりの時期」の意義を有し、米以外にも使われることがある
通時変遷
- 戦前において、
- 端境は時・米の意、次第に農産物、物事の意へ拡張する
- 境目の意はほぼない
- 端境期は1910年代の段階で既に端境よりも出現率が高い
- 端境は時・米の意、次第に農産物、物事の意へ拡張する
- 戦後も使用頻度が低く、
- 国会会議録においては、端境期の使用数が端境をさらに凌駕する傾向があり、概念の境を表す例(年度の端境)が目立つ
- 地方会議録においては米の意がないことが特に注目され、空間の境の意(○○市との端境)も見られる
- その他、
- 民族的内容では境界を古め化した言い方で用いられ、
- 理工系の学術文章にも端境領域の形で慣用化
- ブログ、Twitterでも端境
- 米の意での端境期も減少傾向にあり、それはそもそも端境期における流通量の減少が戦前・戦後すぐほど問題にならなかったためか
時間的意味から空間的意味へ
- 以上より、時間的意味から空間的意味への拡張があったようにも見えるが、同語形の別語ではないだろうか
- 近代と現代の端境は使用される位相が異なるので、変
- 「端境」の不使用による空白に対し、「転換期:転換」のような「時期:ものごと」の対応関係から、「境目の時期:境目」という類推が働いたのではないか*1
- 冒頭のa-cは、bがそう言えないためcもそう言えないが、もし端境が時間→空間の変化を起こしたとしても、他にX期:Xの対応関係が時間・空間の意を持つものは想定できないので、やはり普遍的とはいい難く、空間→時間の方向性は妥当であると言える
雑記
- おめでとう🎉
*1:2000年代の例は、位相が完全に異なって「端境期」の意味すら分からなくて、字義から「ギリギリの境」を想定したものと考えてはいけないのか?これなんか、すごく「端」感が出ていると思う
ウチは大洲なんですよ。端境みたいな感じでして。何故か本籍は内子にありますが。(^^;;