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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

三宅俊浩(2018.11)近世後期尾張周辺地域における可能表現

三宅俊浩(2018.11)「近世後期尾張周辺地域における可能表現」『名古屋大学国語国文学』111

要点

  • 近世後期の尾張において、以下の交替が確認される
    • 五段動詞はレルから可能動詞へ(1)
    • 一段・カ変はラレルからラ抜きへ(2)
    • サ変はナルからデキルへ(3)
  • 1,3は上方・江戸と同時だが、2は尾張が相対的に早い

前提

  • 現代においてら抜きが豊富な尾張方言の可能表現史を考えたい
  • 現代共通語と尾張の可能表現形式は以下のように整理される
  • 使用資料は尾張板洒落本と雑俳資料

調査結果

  • 現代ではほぼ使用されないレル・ナル・副詞エが確認され、現代にはあるレ足すは確認される
  • 可能動詞とレル
    • 幕末に交替する動きがあり、
    • 特に2拍動詞において可能動詞の使用が進行する
    • 可能動詞は肯否どちらも用いられるが、レルは否定の可能に偏る*1
    • 能力可能・状況可能の別はない
  • ラレルとら抜き
    • 洒落本には「ねよといったとて、どうまアねれるもんでや」(夢中角菴戯言)の1例、雑俳ではら抜きが優勢に
      • この点、共通語に比して早い
    • 2拍動詞に偏り、洒落本・雑俳ともに否定が多い
    • 状況可能に偏るが、意味的分担があったわけではない
  • ナルとデキル
    • 幕末にはナルが衰退し、デキルに集中する
    • 油断ならんに慣用表現化する兆候あり
    • ナルには肯定可能が見られない(*油断なる)
  • エとヨー
    • ヨーは自らの心情に起因する不可能であるというが、尾張洒落本では必ずしもそうではない
    • ヨーが肯定で使われることがあり、幕末に「ヨー否定」の拘束がなくなったと考えられる
      • 近世後期・昭和前期大阪ではヨー肯定は報告されていない

雑記

  • 論文の最後に著者の生育歴が載っていますね

*1:肯定可能の意は持っているはずなのに、なんで?