ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

宮腰賢(2007.11)自動詞「思ひ出づ」について

宮腰賢(2007.11)「自動詞「思ひ出づ」について」『国学院雑誌』108(11)

要点

  • 中古の「思ひ出づ」には自動詞の用法もある

前提

  • 他動詞としての「思ひ出づ」
    • 君をあはれと思ひ出でける(竹取)
  • 次の歌は「あの人を」「そのことを」などを補って解釈されるが、ややズレがある
    • 思ひ出づるときはの山の岩つゝじ言はねばこそあれ恋しきものを(古今495)
    • 今朝はしもおきけむ方も知らざりつ思ひ出づるぞ消えてかなしき(古今643)

「出づ」と「思ひ出づ」

  • 「出づ」には自動詞「出る」相当、他動詞「出す」相当の用法を持つ
  • 古今集の「思ひ出づ」5例中、ヲ格名詞の明示されるのは1例のみ
    • 神世のことも思ひ出づらめ
  • とすると、643で「思ひ」が「出づる」と大意があてられるように、複合動詞ではなく2語の連接と見るのがよいのではないか*1
  • 万葉集の5例にも「思い出す」の訳が充てられるが、やはりこれらもほぼ連接と見てよく、
  • 源氏の場合は230例がいずれも他動詞の用法である
    • ラルの付く例があることが、他動詞になっていることを示す
    • 思ひ出できこゆ・思ひ出でたてまつるなど、これも1語化を示す例*2

雑記

  • 激烈に面白い

当時,私が何か特別な紙を使って連続採択されているらしい,という噂が学科内で広がり,その紙(科研費通る紙)が欲しいと言われたりもした。

www.jsps.go.jp

*1:この箇所、「現代語の思い出すは忘れていたことを思い出すのであって、恋しい人を「思い出す」のは無礼である」旨が書かれているが、現代語と同様であることを前提に棄却してよいものか?

*2:メモ、名詞の「思(ひ)出で」が古今にあり、大和にはヲ格を取る「思し出づ」もある