ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

菅原範夫(1991.10)延慶本平家物語の「ムズ」小考

菅原範夫(1991.10)「延慶本平家物語の「ムズ」小考」『鎌倉時代語研究』14

要点

  • 鎌倉時代のムズはベシに意味的に近似し、前代のムズからの変容が見られる

ムズの意味

  • ムズ単独の場合、ベシに近い意味を持つ
    • 打上ムトスルモカナウマジ。下ヘ落シテモ死ムズ。(五本)
    • 推量、意思、適当、当然などの意があり、
    • イカセムズル、ムズルゾ、只今~ムズなどの定型表現が用いられる
  • 複合形の場合、
    • ナムズ・テムズは完了と複合することで、推量の確実性が高くなる
      • ヌベシ・ツベシと同様の表現形式と見られる
    • ムズラムも同様、確実性の高い推量を示す
      • ベシとの関連でいうと、ベカルラムの例がある
    • ナムズラム・テムズラムもあり
  • このベシとムズの近さは、長門本との対応箇所がベシと対応することからも窺える

ム・ムトス・ベシとの相違

  • ムトスとは別の領域で用いられるもので、ムズはム系列の形式と考えたほうがよい
  • ムとは、複合の多寡において決定的に異なる
  • ベシは文語文的表現に多用され、ムズは会話文に限定される
  • 同一会話文内において使用される例を見ると、ムズはベシに比べて主観的
    • 客観的・一般的推論にはベシ、話者の主観に基づく推量はムズが用いられる
    • いわゆる適当・当然はベシの方が一般的
    • これが、口語的であるという用法上の特徴を導くものと考えられる

雑記

  • この論文、国語研DBでは検索に引っかからなくて、なんでかなと思ったら鎌倉時代語研究の4-15が登録されていなかった
  • わりと抜けがあることがあって、フィードバックできたらいいのになあと思う