ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

小田勝(2010.1)相互承接からみた中古語の時の助動詞

小田勝(2010.1)「相互承接からみた中古語の時の助動詞」『古典語研究の焦点 武蔵野書院創立90周年記念論集』武蔵野書院

要点

  • まとめより
    • 1 ヌはアスペクトであるが、テンスをもたない文を作る(作り得る)。
    • 1b 従って、現代語のテンス・アスペクト体系のように、キをテンス、ツ・ヌをアスペクトと‘‘振り分けて"捉えることは不当である。
    • 2 ツは[完成相+近過去]と捉えられ、状態性用言につくと[完成相+近過去]、下に時制を伴うと[完成相+近過去]のように、引き算として結合する。
    • 2b すなわち、助動詞の連続形式には“引き算としての複合”が存在する。
    • 3 ツは、相互承接上ヌともキとも対にならないが、ツの上接助動詞はキのそれと、下接助動詞はヌのそれと一致し、アスペクト(完成相)とテンス(近過去)の両面をもっていることが示される。

前提

  • 一次テンス・アスペクト形式は相互承接の可否から次の3類として捉えられ、
    • A ツ・ヌ
    • B リ・タリ
    • C キ・ケリ
  • 次の意味として整理・把握される
    • キ:時制辞
    • ツ:完了化辞・完成相 ヌ:完了化辞・起動相
    • タリ・リ:状態化辞・既然相
  • これを、助動詞の相互承接の観点から考えたい

相互承接から分かること

  • 小田2008より、特にム・ズ・キとの関係性を見ると、

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p.960

  • 以下の4点が指摘できる
    • ツ・ヌ・タリは未実現の事態にも用いられる
    • 打消された事態はヌ形・タリ形をもたない
    • ツ・ヌ・キ・ケリの表す事態は、取り消すことのできない現実性を有している
    • ツは、承接上、ヌともキとも対になっていない
  • これは上の把握と矛盾しないが、さらに以下の諸点に注意すべき

ヌの性質

  • 中古においてヌは未然・既然の両方を表し、過去時制の標示が義務的でない
    • すなわち、ヌはテンスをもたない文を作り得る

ツの性質

  • アスペクトを持たないはずの形容詞もツ・ヌ形を持ち、
    • ヌは「仮想の事態における状態発生」と捉えられ、矛盾しないが、
    • ツは「完成相」という理解に見直しを迫る
      • さても、いとうつくしかりつる児かな(若紫)
  • 形容詞のツはいわゆる「近過去」的と考えられる
  • が、それだけでは十全な把握ができない
    • 川に流してよ。(手習)/身を失ひてばや(蜻蛉)
    • ツは近過去、キを遠過去とすると次の例も分からない
      • 起き明かしてき。(浮舟)
  • 複合形式に目を向けると、以下2点が確認される
  • そして、以下2点より、ツは完成相・近過去の両面を持つと考えられる
    • 形容詞ツ+ラムは近過去の事態に対する推量を表し(たった今~だろう)、ツラムのラムは「現在推量」の「現在」の意が消えたものと考えられる
    • テキのツは完成相を表すと考えられる
  • すなわち、助動詞の連続形式には次のような、引き算としての複合が存在する
    • 動作性用言の場合、完成相+近過去
    • 状態性用言の場合、完成相+近過去
    • 時制辞を伴う場合、完成相+近過去
    • このテンス・アスペクトの二面性は、相互承接上からも明らか
      • ツの上接語はキと、
      • ツの下接語はヌと分布を一にする
  • まとめは上の要点に

雑記

  • 糖質オフの発泡酒飲むくらいなら酒なんて飲まなくてもいい、人はそう分かっているはずなのに…