ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

澤田淳・澤田治(2020.3)「NPのことだ(から)」の因果的推論の方向性

澤田淳・澤田治(2020.3)「「NPのことだ(から)」の因果的推論の方向性」『日本語文法』20(1)

要点

  • 「NPのことだ(から)」は後続命題を推論する用法を持つ
    • 太郎のこと{だ。/だから、}この時期忙しいだろう。
    • 絵が上手な太郎{だ/??のことだから}これまで何度も入選した。
    • このNPはコンテクストに最も関連する特定の個体を指示する
  • 因果的推論の方向性は、「ある証拠に基づいて、その結果を推論する」結果推量型(だろう系)でなければならず、その逆の原因推量型(らしい系)ではいけない
  • 結果推量と因果推量が複合的に関与することもある
    • 太郎が電話に出ない。太郎のことだから、忙しいのだろう。
      • 電話に出ない→忙しいのだろう(広域的な因果的推論:原因推量)
      • 太郎のことだから→忙しいのだろう(局所的な因果的推論:結果推量)
  • 「NPのことだ(から)」には非推論用法もあり、出現は近世後期以降*1。現代語でも推論用法と比べて例は少ない
    • 派手好みの信長のことだから、このようなお祭りには惜しみなく金を出した。
    • これは、「NPのことだ(から)」が推論用法に特化する方向に進んできている可能性を示唆する*2

雑記

  • もう全オのつもりでやっていかないとダメすね

*1:これ、論旨にどういう関係があるんやろか?

*2:現代語の多寡だけではなんとも言えなくないか、とも思う