ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

竹内史郎(2005.3)上代語における助詞卜による構文の諸相

竹内史郎(2005.3)「上代語における助詞卜による構文の諸相」『国語語彙史の研究』24

要点

  • 「2つの事態がトで結ばれた文」(月を出でむかと待ちつつ居るに・1071)について、従来の研究が同列に扱ってきた、引用構文と並列文の2種の区別の必要性を論じる
    • 里近くありと聞きつつ…(引用757)/春さり行くと…霞たなびき(並列・948)
  • 藤田(2000)の観点を導入すると、引用構文の第Ⅰ類・第Ⅱ類は、上代語のトにも認められ、
    • Ⅰ類:後瀬山後も逢はむと思へこそ(739)
    • Ⅱ類:この夜の明けむとさもらふに(388)
    • Ⅱ類には「命令形ト」(他者の目的の実現を望む)と「~ム(意志)ト」(自己の目的の実現を望む)という、目的文として類型化した一群がある
  • 一方で、引用とはみなせないトの構文も存する
    • ヌト、リト、形容詞終止形ト、基本形ト
    • このうち、基本形トは目的文と同一視されてきた
      • 鮎釣ると立たせる児らが(856)
  • 例えば856番歌は「釣っているとき」と「釣ろうと」の2つの解釈が可能であるが、こうした文は(引用ではなく)並列文と捉える方がよい
    • 動詞基本形述語が開始実現に関わる形式(仁科2003)で、ムが開始限界達成前の極限を示すことを踏まえて、主節事態とト節事態の対応を考えると、
    • 基本形トの場合は主節事態とト節事態の時間関係が「より差し迫って」いる、すなわち、「同一の出来事だから同時的な関係にある」
  • この結果は、「PトQという単一の形式で節と節の意味的な相関によってさまざまな事態間の意味関係を表しうるという、柔軟性に富む助詞トによる構文の性格を示唆」する

雑記

  • 現代語では第Ⅰ類が基本的で第Ⅱ類が周辺的な扱いを受けているけど、原初的には第Ⅱ類的なものが先で、それが固定化したのが第Ⅰ類なんだろうなあと思う