ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

小島和(2011.1)『天草版平家物語』に用いられる待遇表現について:「地の文」を中心に

小島和(2011.1)「『天草版平家物語』に用いられる待遇表現について:「地の文」を中心に」『上智大学国文学論集』

要点

  • 天草平家の地の文が対話による語りであることに注目する
    • 喜一は右馬に対して「こなた」を使い、右馬は喜一に「そなた」を使う
    • この差は地の文にどのように現れるのか?
  • 対照の結果、
    • 古典平家の丁寧表現と天草平家の丁寧表現が対応する例はない
      • そもそも古典平家の地の文には丁寧表現が現れにくい
    • 巻ごとに見ると、巻1-3では一定数丁寧が出るのに、巻4では出ない
      • また、基本形→タの書き換えが多い1-3に対し、4はそのまま基本形にする場合が多い
  • この巻4の特異性については以下のように考える
    • 「上位の者と対して発言する際には、待遇表現に常に気をつける」という、室町口語を反映する前半部と、
    • 対者敬語が発達していなかった前代の状況を踏まえ*1、丁寧表現を減らすことで、聞き手への待遇意識を弱めた「語り」へと移行していった
      • これは既に指摘される「書きことば」化の問題と関連すると考える

雑記

  • Routledgeオープンアクセス本の存在を知る

*1:「前代の状況を踏まえて」口訳することは考えにくいし、書きことば化することで対者敬語という口語らしい現象が出にくくなったという順番だろうなあ