ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

三宅知宏(1995.12)「推量」について

三宅知宏(1995.12)「「推量」について」『国語学』183

要点

  • 推量という概念をめぐって、以下の3点について考える
    • 過度に一般化された曖昧な「推量」の概念の明確化
    • 「推量」概念を用いて説明される形式の限定
    • 「推量」概念の「認識的モダリティ」体系内での位置づけ
  • 定義、
    • 「話し手の想像の中で命題を真であると認識する」と定義し、
      • 「真偽が現実の世界では確かめられないような命題に対して、想像の世界において真であると認識している」(p.2)
      • 「断定をしない」は「推量」の定義としては不適切である
    • その形式はダロウ(デショウ)・マイ・ウ/ヨウ に限られると考える
  • 認識的モダリティを「命題の真偽に関する話し手の認識を表す意味成分」であるとすると、以下の下位類型が設定される

f:id:ronbun_yomu:20201007234524p:plain
p.3

  • 推量と他の類型との異なりを考える
    • 実証的判断:命題が真であるための証拠が存在すると認識する
      • 実証的判断は証拠の存在を有標的に示す
      • 実証的判断は証拠の存在を認識するので、あくまで現在の事態に対する認識を示す
    • 可能性判断:命題が真である可能性があると認識する
      • 話し手の信念との対立ではなく、むしろ断定(全ての可能性として真)と対立的(一つの可能性として真)な関係にある
      • 一つの可能性として真であればよいから、矛盾する命題も並べることができる(Aかもしれないし¬Aかもしれない)
      • 話し手の信念とは別物なので、ガ節への埋め込みが可能
    • 確信的判断:命題が真であると確信する
      • あくまでも話し手の確信に留まるので、結果的にこれも不確実になる
      • 意味上・文脈上、推量と類似するが、「責任を持って伝えるような文脈」(e.g. 天気予報)では、ニチガイナイは用いることができない
  • 以上の主張をもとにすると、
    • いわゆる確認要求との派生関係を明確に述べることができる
    • 推量以外の形式は屈折できるが、ダロウ等の推量形式は屈折しないことから、「統語構造上に占める位置が異なる」と仮定される
      • 推量は屈折語尾(機能範疇)のレベル、推量以外は助動詞(語彙範疇)のレベルと見なすことができ、統語的な法(推量法)が平叙法・命令法などと並んで存在するとも言える

雑記

  • 笠間書院があんなことになってしまって、かなしいね