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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

山田潔(2021.5)抄物における助動詞「べし」の変容:『毛詩聴塵』『両足院本毛詩抄』の本文比較

山田潔(2021.5)「抄物における助動詞「べし」の変容:『毛詩聴塵』『両足院本毛詩抄』の本文比較」『国語国文』90(5)

要点

  • 川村(1995, 1996)の分類にしたがって、毛詩聴塵のベシの両足院本での使用状況を分類する
    • A 観念上の事態成立主張用法
      • A1 現実世界接触用法…推量、兆し・気配、予定
      • A2 現実世界非接触用法…反実仮想、可能
    • B 事態の妥当性主張用法
      • B1 主張専一用法…事態の妥当性(適当・当然)
      • B2 事態実現希望用法…意志、命令
  • 以下、聴塵のベシと抄の対応とを見ると、
    • A1 「推量」は基本的にウ(特にウゾ)・ウズが対応
    • A1 「兆し・気配」(中西の様相的推定)は、断定を和らげるサウナ・ゲナが対応
    • A2 「反実仮想」はウズが対応し、「~タラバ…ウズモノヲ」が典型的
    • A2 「可能」はベシの場合も不可能(ベキヤウナシ)で現れやすく、抄ではウ・ウズヤウガナイに置換される
      • ベカラズも同様に置換されており、これはウ・ウズではなく、~ヤウガナイの方に(否定)可能の意味が移行していることを意味する
    • B1 「適当」はウズ単独では表さず、ウズヨイ・ヨカラウ・ヨサウナなどのヨイ系が担う
    • B1 「当然・義務」も同様、ウコトヂャ/ゾで表現され、ウズ単独では表しにくくなっている
      • 否定の場合には連用形ゴト構文が用いられており(居事デハナイゾ)、連用形+ゴトがベシの意味を含有することが注意される
      • B2 「意志」はウズに、「命令」は命令形に置換される
  • ベシの否定について、
    • ベカラズは、禁止の場合にナーソ、ーナ(特にバシが共起しやすい)、否定~命令形など、否定推量の場合はマイに
  • 以上、ベシの多義性が異なる形式で分担される萌芽が、毛詩抄にも認められる

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雑記

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