ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

中村真衣佳(2022.1)コピュラの定義からみる日本語の断定の助動詞

中村真衣佳(2022.1)「コピュラの定義からみる日本語の断定の助動詞」『研究論集(北海道大学)』21.

要点

  • 以下のコピュラの(純粋な)定義に基づくと、デアル・ダ・デスはコピュラの機能が希薄で、古代語のナリはコピュラの定義に近い
    • 主語と(動詞以外の)述語を結ぶ連結語(Pustet 2003)
    • コピュラはどのような意味内容も加えない(Narahara)

分析

  • Pustetが挙げるコピュラの3つの機能
    • the function of a linker between subject and predicate.
    • the function of a syntactic ‘hitching post’ to which verbal inflectional categories can be attached.
    • the function of a predicator which is added to lexemes that do not form predicates on their own.
  • 以下の3点に基づけば、(特に)現代語の断定の助動詞は、コピュラの機能が希薄*1であると言える
    • ①日本語の断定の助動詞は、主語と述語を(SVOのように)「構造的に繋ぐ」ものではない
    • ②承接可能な品詞はデス・ナリが広く、ダ・デアルは狭い
      • 動詞を承接できるナリ・デスは、A verb used to link a subject with a non-verbal predicate.’(Narahara 2002)という定義からは外れる
    • ③語彙的な意味を加えることがある
      • (26)本当によかったね。すごくいい人{で/#だ}。
  • 現代日本語の断定の助動詞がコピュラの機能を十分に満たさないのは、歴史的な経緯によって形態が多様であるため
  • 一方で、古代語のナリは、伝聞ナリや他の助動詞類と、「証拠性の有無で整理される助動詞体系に組み込まれている」ので、モダリティの対立軸で位置付けられ、語彙的意味を持たない*2

p.18

メモ

  • この論文の話を人としていて、Pustetの定義についての批判があることを教えてもらう

publikationen.ub.uni-frankfurt.de

*1:①は「希薄」と言ってよくても、②③は「他に余計な素性が入っている」のでまた別の次元の話に見える。特に近世以降の、終助詞がコピュラを兼ねてしまう問題とあわせて考えてみたい。

*2:それ言い出したらいちおう断定の助動詞も「助動詞」の体系の中にいる(そこに形態がいろいろあるだけで)と言えてしまうので結果論っぽくて、あと、春日1968を引くなら古代語にゾがあることに言及してよいのではと思った、どう扱うんだろう