ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

矢毛達之(1999.12)中世前期における「文相当句+ナレバ・ナレド(モ)」形式

矢毛達之(1999.12)「中世前期における「文相当句+ナレバ・ナレド(モ)」形式」『語文研究』88.

要点

  • 中世前期特有の語法に、「文相当句+ナレバ・ナレドモ」があり、
    • この盃をば先少将にとらせたけれども、親より先にはよものみ給はじなれば、重盛まつ取あげて少将にさゝむ(覚一本平家・無文)
  • これは、以下の2つのタイプに集中する
    • 係り結びの行われているもの:主上上皇、父子の御あひだには何事の御へだてかあるべ きなれども、思のほかの事どもありけり。(覚一本平家・二代后)
    • 陳述副詞が用いられているもの:俄に落ちぬる事なれば、たれにもよも知らせじなれども、具して京へぞのぼりける。(覚一本平家・泊瀬六代)
  • この形式の成立について、以下の2説は採りにくく、
    • ト+ナリのト脱落とは考えにくく、
    • 「連体ナリの発達」(山口堯二)も、文相当句への接続は説明しない
  • 「文中に係助詞を用いつつも、叙述を終えずに後句へ続けていこうとする例が増えることが関連している」(いわゆる結びの流れの一種)と考える

雑記

  • 文引用の一種に位置付ける方がいいのかな?
  • ここで言及されてる大木(1969)とか、『国文学言語と文芸』って昔は結構大事な論文が多い