ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

小林賢次(1987)『大蔵虎寛本能狂言』における衍字・脱字の校訂について

小林賢次(1987)「『大蔵虎寛本能狂言』における衍字・脱字の校訂について」『近代語研究7』武蔵野書院.

要点

  • 笹野堅校訂『大蔵虎寛本 能狂言』には、「衍字や脱字を想定しなくてもよさそうなもの」や、「原文の形を尊重すべきだと思われる例も混じっている」
  • 衍字の校訂に、
    • 「南無宝〈ら〉〳〵」のような捨て仮名、
    • 「むくつけな〈い〉手」「御座〈有〉る」のような、衍字と認めなくてよい例がある(虎寛本の他の箇所は全てゴザルではあるものの)
  • 脱字について、
    • 語の一部を補入したものに、
      • 「此当〔り〕」「呼出〔す〕も…」のような、誤脱と区別すべき、「送り仮名の表記が省略されているまで」の例や、
      • 「御座ります〔る〕か」のような、規範的な立場から統一的に補入された例があり、
      • 「伯父〔じ〕や人」はむしろ、他の箇所が「をぢや人」であって虎寛本が「ヲヂヤヒト」を専用する一方で、後世の山本東本では「ヲヂヂヤヒト」に回帰する点、注目される
    • 一語全体を補入したものにも同様に、必ずしも誤脱とは言えない例があり、
      • 「〔もし〕御客ばし御座らうか」「秀句〔が〕きゝ度い」
      • 「御座る〔に〕依而」「夫成ら〔ば〕」「何とした〔か〕しらぬ」など、近世的現象を過剰に校訂する箇所もある

雑記

  • た、たっかいな~