ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

森野崇(1989.12)係助詞「ぞ」についての考察:『源氏物語』の用例から

森野崇(1989.12)「係助詞「ぞ」についての考察:『源氏物語』の用例から」『国語学研究と資料』13.

要点

  • 係助詞ゾが、「表現主体による指定の判断を明示する」助詞であることを主張する
  • どの部分をとりたてるかで、2通りがあり得る
    • 上接する部分をとりたて、指定する:宮ぞ、御返り聞え給ふ(夕霧)
    • 文や句全体をとりたて、指定する:床の下に、二人ばかりぞ臥したる(空蝉)
      • ↑のような、「一回的・個別的事象の描写」に目立つ
  • この機能の傍証となる現象、
    • ゾの結びは、
      • (ナムは主体的なものが少なく、コソが多い、といったような偏りなく、)主体的・客体的に跨る
      • 動詞・タリ・リが多いのは、指定が「特殊なトーンの薄いもの」であるために、一回的・個別的事象の描写の文に用いられた結果
    • ゾの上接語は、
      • ナム・コソに比べて連用修飾成分への介入(ニナムアル、ニコソアレ)が少ない
      • バゾがほとんどない
    • 結びの後に終助詞が付く例(~ぞ、ゆゆしき)が、ナム・コソに比して多い
      • これは、ナムのような伝達性を持たないことの現れ(持っていないから、ヤ・カシなどを付けないと聞き手目当てにならない)
  • 終助詞ゾの機能は平安時代へと連続するが、係助詞ゾについてはそうではなく、ナム・コソ等との関係が影響して変質していったのではないか
  • 情報構造の観点からは、ゾは常に新情報を示すものと見てよい
    • 新情報ゾ旧情報、新情報ゾ新情報の2種類がある

雑記

  • Croft, W. Morphosyntax をモルシンって略してて、この響きなんだったかな~って思ったら、tanasinn...だった