吉本裕史(2020.11)「副詞「きっと」の語史:推量の用法の成立についての考察」『名古屋大学国語国文学』113. https://doi.org/10.18999/nagujj.113.168
要点
- 情態副詞のキット(きっと目元を引き締めた)が推量の用法(陳述副詞、きっと好転する)を獲得するまでの経緯について。
- 中古は語形キトのみで、〈時間量小〉と、そこから派生した〈動作の素早さ・強さ〉の用法を持つ。
- 中世前期にはキットの語形が出現し、用法は中古と変わらず。
- 中世後期には〈ゆるみない状態〉を表す情態的意味を獲得する。
- 北面唐人ハキツト立待シテイルソ 日本ノツクハウテイルヲ笑ソ(史記抄)
- これは、〈動作の素早さ・強さ〉で動く主体の状態的意味を表すことで派生したもの。
- 中世末期には、〈時間量小〉とは解釈しがたい、「約束どおりに」を表すような、〈規範的な行い方〉の例が現れる。
- きつと御さん用を申あげふ(虎明本・八句連歌)
- 近世前には〈規範的な行い方〉が一定数見られるようになり、評価的な行為の様態を表す例も見られる(評価副詞的な性質を有することの現れ)。
- 近世後期には形容詞を修飾する、〈事態実現の確かさ〉を表す例が現れる。これは、未実現の事態に対しても用いられる。
- 三年も立と、急度ろうしやう病になる(噺本・春袋)
- この段階に至って、キットは陳述副詞的段階に至ったと考える。
雑記
- きっと、「祈祷」出自説でも唱えるか