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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

矢島正浩(2013.10)条件表現史における近世中期上方語ナレバの位置づけ

矢島正浩(2013.10)「条件表現史における近世中期上方語ナレバの位置づけ」『近代語研究17』武蔵野書院.

要点

  • ナレバ(<已然形+バ)において、活用型(雨降れば)に比して非活用形型(雨なれば)の変化(ホドニ・ニヨッテへの移行)が遅かったことについて、特にそれが際立つ近世中期上方語を中心に考える。
    • 非活用型の変化の相対的な遅さは、下表最右列が示す通り。(2節)
    • 後件を基準とした仮定条件・恒常条件の区別に基いて分析を行う。(3節)

p.5

  • 已然形バの用法を見ると、中世から近世にかけて、
    • 活用型・非活用型ともに、必然確定(原因理由)の例が減り、恒常条件の使用が増える。
    • 恒常条件の内実では、過去の習慣を表す、経験則による例(用法A)が減り、想定を含む前件を受ける例(用法B)が増える。
      • その銀さへとゝのへば何のあんずることもない。(近松・刃)
      • すなわち、「已然形+バのうちでも、取り分け「已然」形らしさを持った確定性が明瞭な用法ばかりが、相対的に、その地位を著しく低下させていた」
  • 現象の解釈、
    • 用法Bの増加は、已然形+バが仮定的用法としての解釈を受けやすくなる(雨が降れば客は来ないだろう)ことを意味し、その解釈を受けないようにするためにはバ以外の形式(ホドニ・ニヨッテ…)を使用する必要が生じる。
    • 一方、非活用型の場合、仮定的な恒常条件既存のナラバを使えば原因理由用法との衝突が生じないので、相対的に新しい形式への移行が起こらなかったものと考える。

雑記

  • 矢島先生の論文読むたび、条件表現研究に足突っ込んだこと後悔しがち