ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

坂詰力治(2002.12)抄物に見える「サテ」(不可)について:「カナ(叶・適)ハヌ」との比較を通して

坂詰力治(2002.12)「抄物に見える「サテ」(不可)について:「カナ(叶・適)ハヌ」との比較を通して」『近代語研究11』武蔵野書院.

要点

  • 「不可」の意味を表すサテが抄物に見られることについて、他ジャンルのカナハヌとの比較を通して考える。
  • 感動詞化したサテから派生して(サテイカニのイカニなどが省略されて単独で)、形容動詞として「その事態を疑わしく確信しかねるものとして留保するさまである意を表す」用法を表す例がある。
    • 文字ニアヤカリテハサテヂヤホドニ、、…出ツベカラズ(中華若木詩抄)
  • このサテは、
    • 辞書の意味記述に見える「事態に対する疑惑や不賛成」は、事実や社会的・慣習的にうち立てられた基準・道徳に基づく疑惑・不賛成であるものと記述できる。
    • 形容動詞らしい用法もあるが(サテデアラウズ・サテニナル)、多くは文末に「~テハ、サテゾ」として用いられており、感動詞としての名残を認めることができる。
  • イカニ美人ナリトモ、心地ガ悪テハサテゾ」(論語抄)のような例は、「カナハヌ」に通ずるものと思われるので、カナハヌの方も検討する。
    • 抄物に見えるサテ(不可)は、カナハヌに入れ替えてもほぼ同様の意味を持つ。ただし、カナハヌの場合は直接的、サテの場合は婉曲的な物言いになる*1
    • 狂言にはカナハヌ・カナフマイが多く見られる(サテは用いられない)。これは、「狂言が対話劇であり、そ こでは現時点で起こっている事柄や事態を直載的に表現することが求められたから」であろう*2

メモ

  • このサテ、感動詞が内容語化してて面白い~と思っておもしろ転成メモに入れてあったけど、感動詞から転成する語ってそこそこある(感動詞と言っていいのか、単に引用なのか分からないやつも入れている)
    • あわれ、あっぱれ
    • いや、いやいや、いやおう
    • 「ヤンヤ」な沙汰(浮世風呂
    • おいそれ
    • おせおせ、どっこい、どっこいしょ、どっこいどっこい(伯仲の意での)
    • さよなら(にする、サヨナラホームラン)、ごめん(それはごめんだね、とか言うときの)
    • すててこ(囃子言葉→すててこ踊り)、ものもう(和歌山のイベント)
    • 休め、気をつけ、待て、あーん(サ変可能)
    • あたらし」とか「いざなう」とか「いなぶ」とか
    • 「あなぜ」(西北風、日国「「あな」は感動詞、「せ」は風の意」まじかよ)
  • まだあったので追加(2023/1/12)
    • あわや
    • 「うん」とばかり
    • 善哉なり(食べ物のぜんざいもこれ由来説あり)

*1:直感的には分かるけど記述が演繹的で、何か文脈から得られる違いがないか、知りたい

*2:サテと比べれば直接的かもしれないが、普通に禁止とかベシの否定とかを使ってもよいはず