ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

小林賢次(1996.10)大蔵流虎光本狂言集における疑問詞疑問文:終助詞「ゾ」を中心に

小林賢次(1996.10)「大蔵流虎光本狂言集における疑問詞疑問文:終助詞「ゾ」を中心に」『日本語研究領域の視点 下巻』明治書院.

要点

  • 虎光本(1817写)の諸本の異同について、疑問文のゾに注目して比較する。
    • 古典文庫本の底本・山岸清斎文政6書写本と、対校本・岡田信言文政5写の橋本賀十郎明治40転写本との間で、異同があり、
    • 疑問詞疑問文では山岸本でゾを用いず、岡田本のみで用いる箇所の方が多いことを踏まえる。
  • 疑問断定表現の場合、
    • A型(疑問詞+N+ヂャ、外山の2類)の場合、慣用的な例を除けばゾは少数。従来のゾの位置にヂャが進出してきたという事情による。
    • B型(疑問詞+デ+ゴザルなど)の場合、山岸本独自本文でゾを用いず、岡田本独自本文でゾを用いる箇所が多い。岡田本の場合、相手に直接問いかける場合に積極的に「もちかけ」の「ゾ」を使用すると言える。
    • C型(推量のウを伴う例)の場合、ほとんどがゾを伴う。推量表現としての性格が強く出て、「「ウ」が話し手の立場を表すのに対して、質問表現として相手にもちかける「ゾ」を必要とする度合いが高くなっている」ためか。
  • 平叙疑問表現(断定表現以外)の場合、
    • D型(疑問詞+用言)の場合、ゾの使用について揺れがある。また、感動詞的な場合(何とする!)や反復の場合にはゾが現れにくい。
    • E型(特にウを伴う)の場合、2本間の異同はさほどなく、ゾの使用率は60%と高くない。自問の場合(何と致さう。)はゾを伴わず、相手に対して持ちかける気持ちのある類型的な表現「何とあらうぞ/よからうぞ」はゾを伴う例が多い。
  • 岡田本は山岸本と比較するとゾの使用傾向が高く、平叙疑問表現においては虎寛本のゾの使用率の方が高い。異同箇所だけを見れば岡田本のほうが伝統的で、山岸本が定型から離れた近世的な様相を示すが、共通本文自体においてもかなり揺れている。

雑記

  • あるスキャン魔と、これから先いろいろなものが公開されてこれまでのスキャンタイムが無駄になったらどうする?って話して、「これまで役に立ったからいい」って言われて、そだよね~って安心した