ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

矢島正浩(1997.7)疑問詞疑問文における終助詞ゾの脱落:近世前・中期の狂言台本を資料として

矢島正浩(1997.7)「疑問詞疑問文における終助詞ゾの脱落:近世前・中期の狂言台本を資料として」加藤正信編『日本語の歴史地理構造』明治書院.

要点

  • 疑問詞疑問文のゾの脱落について、以下のことに注目しながら考える。
    • 外山(1957)の「虎明本では第一類(Vゾ・持ちかけ)と第二類(Nゾ・持ちかけ&指定判断)の呼応状況に差がない」ことの指摘は、述語形式(1か2か)とは別の事情でゾを用いないという方法が選択されていることを示すのでは?
  • 述語のタイプ(用言性・体言性)において、ゾの脱落との関わりを見出すのは難しい。
  • ゾの表現性について、
    • 敬意表現である場合、17C中頃以降成立(和泉家古本~)の台本において、用言性述語の場合にはゾが脱落しやすいという傾向がある。
      • 体言性述語の場合には敬意がなくてもゾが脱落する。
    • 体言性述語の場合、相手に配慮がいらない場合(対等者・下位者)の場合にゾが脱落し、ジャに交代しやすい。
      • 「ゾに「持ちかけ」性があり、上位者への敬意とは相容れない」という従来の指摘に相反するように見えるが、これは、「直接的で調子の強い表現」の場合にジャに積極的に交代したものと説明できる。
  • その他、「やりとりが佳境にあり、流れるようなテンポが要求される箇所」(疑問文の誘発が、場面や状況と意味的に密接な関係にある場合)で、ゾが脱落しやすいことが指摘できる。
  • 「ゾの義務的な付加」を中世後期の規範と見ると、全体的に見ればその規範が緩くなっていくと言えるが、流派によってその規範の指向の度合いが異なることも認めておくべき。

雑記

  • 『6』の表紙の色、独特すぎる