ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

金水敏(2012.3)理由の疑問詞疑問文とスコープ表示について

金水敏(2012.3)「理由の疑問詞疑問文とスコープ表示について」『近代語研究』16.

要点

  • 必然的に焦点とみなされる「なぜ」の疑問詞疑問文を用いて、ノダ文の形成史を考える。
    • 以下の、久野・田窪の一般化を踏まえる。
      • 否定辞「ない」と疑問詞「か」のスコープはそれが附加されている同士、形容詞、「名詞/形容動詞+だ」に限られる。(久野)
      • 「ない」および「か」の焦点はそれらの成分に統語構造上、c-commandされなければならない。日本語と英語の違いとして階層性のパラメータを仮定すればよい。(田窪)
  • 上の一般化を承け、以下の仮説を立てる。
    • 1 現代共通語では、穴埋め式(=マルチプル・チョイス式でない)焦点の疑問詞を「か」の焦点に持つことはできない。
    • 2 ただし、ノ句+「か」であれば、「か」のスコープに収めることができる。
  • その上で、現代共通語の「なぜ」を調査する。
    • 「「なぜ」(=マルチプル・チョイス式でない)による疑問詞疑問文はノ句によってのみ形成される」という仮説が成り立つ。
    • 反語などを除けば、ダロウによる疑問文もまた、ノ句の中になければならないことが分かる。
  • 一方、近松世話浄瑠璃ではノ句によって形成されるものがない。浮世風呂でも全く活発ではなく、梅児誉美でも依然としてノを伴わない結びが残存している。
    • なぜ赤切が手をひかねへ(浮世風呂
    • おまはんマアなぜこんなにはかねへ身のうへにならしつたらふねへ(春色梅児誉美

雑記

  • 「なぜ」の魅力に惚れてる