ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

三村一貴(2020.10)上古漢語のモダリティーマーカー「蓋」について:その本質的機能

三村一貴(2020.10)「上古漢語のモダリティーマーカー「蓋」について:その本質的機能」『中国語学』267.

要点

  • 上古漢語の「蓋」の機能について考える。
    • 太史公曰、「余登箕山、其上有許由冢。」(『史記』伯夷列伝2581)
    • 「太史公曰く、わたしは箕山に登った。山上には許由の塚があるということであった。」
      • と解する場合、「蓋」(けだし)の解釈が判然としない。
  • 「蓋」について、以下の仮説を提出する。
    • 本質的機能:「「蓋」は、モダリティーマーカーであり、発話時に先行する事柄について、真偽判定を行わずに陳述する心的態度を表す」
    • 派生的機能:「蓋」はポライトネスを表示する機能を語用論的に生ずることがある。
  • この枠組により、「蓋」の以下の例が統一的に説明できる。
    • 真偽判定の保留
    • 発話時との前後関係:発話時に先行し、その過去志向性が論理関係に及ぶと、遡及推論が行われることもある
    • 伝聞表現の共起:非断定の心的態度を取るために、「聞」「云」などの伝聞表現と共起しやすい
    • ポライトネス:「どっちつかず」から派生して、控えめな語気(~かもしれないし、~ないかもしれない)を持つ*1
  • 「蓋」を確信度の高いものとする説があるが、確信度の高低や、情報取得経路も文脈に依存するため、従い難く、むしろ、確信度に言及しないことが本領であると考えられる。

雑記

  • こっそり再開できるかもしれないし、できないかもしれない

*1:山岡政紀(2016)「カモシレナイ」における可能性判断と対人配慮 っぽい