大西拓一郎(2018.8)「交易とことばの伝播:とうもろこしの不思議を探る」『日本語学』37-9
要点
渡来作物の呼び名
- LAJのじゃがいも(174, 175)、さつまいも(176)、かぼちゃ(180)、とうもろこし(182)、とうがらし(183)を見ると、複数の渡来作物に共通して現れる地名と個別にしか現れない地名がある
- トウ・カラ はすべてに現れる(カライモなど)
- ジャガタラはじゃがいものみ、カンボジアはかぼちゃのみ、モロコシはとうもろこしにしか現れない
- 高麗、朝鮮、琉球、南京、南蛮も限定的
- すべて原産地はアメリカ大陸なので、原産地を示したものではない。「唐」の意味ではなく「渡来したこと」を示すための形態素としての「カラ」「トウ」であることがわかる
- 語構成を見ると、地名の使われ方は、
- トウ・カラは修飾する側がほとんど(トウ~、カラ~)
- カンボジア、南京、モロコシは単独か被修飾形で、「カンボジア~」のような使われ方はまれ
特にトウモロコシに関して、
- 「モロコシ」は、「トウモロコシ」にしか現れないこと、「唐+唐土」という地名の重ね合わせである点で特異
- 他、トウトウキビ、ナンバントウキビなど
- これはもともと「モロコシ」があり、類似した渡来作物に「トウ」(渡来を示すものとしての)が与えられたと考えればよい
- キビ(黍)→モロコシ(蜀黍)→トウモロコシ(玉蜀黍)という流入の流れに対して、トウモロコシをモロコシと呼ぶ地域があり、その発生要因を「トウが略されたもの」とする説がある(トウ略説)。
- もともと「トウモロコシ」が広かったが、甲信越で「トウ」が略された、と解釈する(下図)ものだが、「モロコシ」は「モロコシ~」の形で使われることがないので、モロコシが「唐土」の意で意識されていたか心許ない
- よってここでは、
- 「モロコシ」が当初から作物名として成立していた*1、と考える
- 「蜀黍」に対する「モロコシ」が広がった後、甲信越では「玉蜀黍」も優良作物しての「モロコシ」の名を受け入れたが、関東では稲作の傍らの作物であったために、新たな「トウモロコシ」の名が与えられた
- 「蜀黍」「玉蜀黍」のいずれもをモロコシとして受け入れた場合、旧「蜀黍」が「カギモロコシ」「アカモロコシ」「アカンボ」といった語形になって、「玉蜀黍」の「モロコシ」と区別される事例がある
- 旧物に新しい名前がつけられる事例は、ガラケー、ソバガキなど