ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

2019-01-01から1年間の記事一覧

蔦清行(2006.10)ミとミト

蔦清行(2006.10)「ミとミト」『国語国文』75(10) 要点 上代のミトはミ語法+引用のトとは考えにくく、 ミ単体が失った「主観的判断」の意を明確に示すために、新たにトを援用した形式と考えられる 前提 ミ語法にトの後接するミトの形について考えたい 力を…

蔦清行(2004.12)ミの世界

蔦清行(2004.12)「ミの世界」『国語国文』73(12) 要点 ミ語法のミは「見る」と関連を持ち、 原因・理由の意は本質的ではなく、対象についての判断を示す表現形式であった ミ語法の用字と構文的問題 ミ語法のミには「見」字が用いられることが多く、 一方勿…

佐佐木隆(2014.1)散文と韻文のミ語法

佐佐木隆(2014.1)「散文と韻文のミ語法」『国語国文』83(1) ※同(2016)『上代日本語構文史論考』おうふう による 前提 ミ語法に関する根本的な問題 はづかしみいとほしみなもおもほす(続紀27) 日国はイトオシムに引用、すなわち動詞連用形と見て、 古語…

米田正人ほか(2019.9)鶴岡市方言における共通語の格助詞「に」にあたる用法:格助詞「サ」の用法を中心として(鶴岡の発展的調査から)

米田正人・佐藤亮ー・水野義道・佐藤和之・阿部貴人・津田智史(2019.9)「鶴岡市方言における共通語の格助詞「に」にあたる用法:格助詞「サ」の用法を中心として(鶴岡の発展的調査から)」『方言の研究 5』ひつじ書房 要点 鶴岡のニの用法差・年層差に、…

梅林博人(2017.4)滑稽本の接続詞「しかし」について

梅林博人(2017.4)「滑稽本の接続詞「しかし」について」『表現研究』105 前提 シカシはシカシナガラのナガラが落ちて近世に発生したもので、当初は逆接性がメインではなく、付加用法とでも言うべき用法であった 逆接らしいものは近代以降に現れたとする説…

平塚雄亮(2019.3)福岡市方言の準体助詞にみられる言語変化

平塚雄亮(2019.3)「福岡市方言の準体助詞にみられる言語変化」『中京大学文学会論叢』5 前提 福岡市の若年層によって、伝統的なトだけでなく、ノ・ンも用いられるようになっている が、どのような環境でそうなるかは報告されていない どういった環境で非伝…

山口響史(2019.3)チョウダイにおける行為指示用法の成立

山口響史(2019.3)「チョウダイにおける行為指示用法の成立」『愛知淑徳大学論集 文学部編』44 前提 チョウダイの以下の意味変化と、授受表現史の中での位置付けについて考えたい 上に掲げる 受け取る(頂戴する) 行為指示(お菓子頂戴) 補助動詞による行…

土岐留美江(2014.9)動詞基本形終止文の表す意味:古代語から現代語へ

土岐留美江(2014.9)「動詞基本形終止文の表す意味:古代語から現代語へ」『日本語文法』14(2) 前提 動詞基本形終止文について考える 古代語のムと現代語のウと動詞基本形の意味には並行性がある 現代語では意志を表す場合、終止形・ウ・ツモリが用いられる…

坂井美日(2019.9)南琉球宮古語における準体の変化に関する考察

坂井美日(2019.9)「南琉球宮古語における準体の変化に関する考察」『方言の研究 5』ひつじ書房 要点 宮古語の準体にはゼロ準体と準体助詞 =su, =munu の準体があり、 ゼロ準体はコト準体から許容されなくなり、これは本土方言の歴史と一致する 準体助詞 su…

小柳智一(2019.10)副詞の入り口:副詞と副詞化の条件

小柳智一(2019.10)「副詞の入り口:副詞と副詞化の条件」森雄一・西村義樹・長谷川明香編『認知言語学を拓く』くろしお出版 前提 副詞でないものが副詞になる変化の条件を考える つゆ(名詞→程度副詞)、すべて(動詞句「統べて」→量副詞) 副詞分類には統…

野村剛史(2019.10)ノダ文の通時態と共時態

野村剛史(2019.10)「ノダ文の通時態と共時態」森雄一・西村義樹・長谷川明香編『認知言語学を拓く』くろしお出版 前提 共時態のノダ文の説明は、言いっぱなしの傾向がある 中心的用法からの派生関係による説明は、何が中心なのか決定できないし、 統一的説…

大橋浩(2019.10)譲歩からトピックシフトへ:使用基盤による分析

大橋浩(2019.10)「譲歩からトピックシフトへ:使用基盤による分析」森雄一・西村義樹・長谷川明香編『認知言語学を拓く』くろしお出版 前提 認知的アプローチは以下3点の言語観において、文法化研究と親和性が高い 認知的アプローチでは人間の言語能力と一…

眞田敬介(2019.10)認知言語学と歴史語用論の交流を探る:MUSTの主観的義務用法の成立過程をめぐって

眞田敬介(2019.10)「認知言語学と歴史語用論の交流を探る:MUSTの主観的義務用法の成立過程をめぐって」森雄一・西村義樹・長谷川明香編『認知言語学を拓く』くろしお出版 要点 MUST は「必要」から「話し手の願望」というメトニミーにより、客観的な義務…

風間力三(1967)ロドリゲス日本文典の引用した平家物語

風間力三(1967)「ロドリゲス日本文典の引用した平家物語」『甲南大学文学会論集』35 前提 天草平家の場合は訳文を通して原典を考えなければいけないが、ロドリゲス大文典の引例は直接の資料として扱うことができる 方法 天草平家と原拠本が同文であるもの…

岡村弘樹(2019.8)上代における自他対応と上二段活用

岡村弘樹(2019.8)「上代における自他対応と上二段活用」『国語国文』88(8) 要点 他動詞派生をしてもよさそうな上二段動詞が自他対応に関わらないのは、四段の連用形と形態が類似していたから 前提 上二段活用は自動詞のうち、特に非対格動詞に偏る 上二段…

原口裕(1985.5)可能表現「スルコトガデキル」の定着

原口裕(1985.5)「可能表現「スルコトガデキル」の定着」『国語と国文学』62(5) 要点 コトガデキルの発達は文章語で先行し、化政期以降に日常語化する スルコトガデキルの日常語化 徂徠派の漢文の俗語訳解に源流が求められそうである 人ニカツヿガデキヌト…

後藤睦(2017.12)上代から中世末期におけるガ・ノの上接語の通時的変化

後藤睦(2017.12)「上代から中世末期におけるガ・ノの上接語の通時的変化」『待兼山論叢. 文学篇』51 前提 古代語ではガ・ノは主格標示・連体修飾の両方に使われるが、 ガは固有名詞・代名詞・代名詞の代用形式(妹が名)に、ノはそれ以外にという分布があ…

池上秋彦(1995.8)「五大力恋緘」の語法・緒論:上方本と江戸本を比較して

池上秋彦(1995.8)「「五大力恋緘」の語法・緒論:上方本と江戸本を比較して」『国語と国文学』72(8) 前提 初世並木五瓶「五大力恋緘」の、大阪初演(1794)と江戸初演(1975)の台本の比較を通して、そこに現れる上方・江戸の語法差を記述したい 動詞 サ行…

糸井通浩(2009.11)古典にみる「時」の助動詞と相互承接:「枕章子」日記章段における

糸井通浩(2009.11)「古典にみる「時」の助動詞と相互承接:「枕章子」日記章段における」『国語と国文学』86(11) 前提 「時の助動詞」の相互承接は以下の通り 縦・横の点線は相互に結合することがあり、実線は結合することがない p.2 ム どういう範列的・…

高橋敬一(1979.6)今昔物語集における助動詞の相互承接

高橋敬一(1979.6)「今昔物語集における助動詞の相互承接」『福岡女子短大紀要』17 要点 助動詞の相互承接の豊かさ、使用頻度においても、今昔の文体上の区分は実証される 前提 相互承接の文体差に関して、築島(1963)は異なり語のみを挙げるが、使用頻度…

黒木邦彦(2012.10)中古和文語の動詞派生接尾辞-ツ-, -ヌ-:承接順位を巡って

黒木邦彦(2012.10)「中古和文語の動詞派生接尾辞-ツ-, -ヌ-:承接順位を巡って」丹羽一彌(編)『日本語はどのような膠着語か:用言複合体の研究』笠間書院 要点 ツ・ヌの承接順の共通点と異なりから、ヌと共通するツ(ツ1)とは、異なるツ(ツ2)の存在を…

梅原恭則(1969.11)古今著聞集に於ける助動詞の相互承接

梅原恭則(1969.11)「古今著聞集に於ける助動詞の相互承接」『文学論藻』43 前提 実際の作品の分析・調査がなされたことがないので、古今著聞集をケースとして相互承接を検証したい 実態 以下表のようにまとめられる ナリ・タリ・ゴトクナリは「叙述の働き…

小田勝(2010.1)相互承接からみた中古語の時の助動詞

小田勝(2010.1)「相互承接からみた中古語の時の助動詞」『古典語研究の焦点 武蔵野書院創立90周年記念論集』武蔵野書院 要点 まとめより 1 ヌはアスペクトであるが、テンスをもたない文を作る(作り得る)。 1b 従って、現代語のテンス・アスペクト体系の…

小田勝(2008.2)中古和文における助動詞の相互承接について

小田勝(2008.2)「中古和文における助動詞の相互承接について」『岐阜聖徳学園大学紀要 外国語学部編』47 要点 要旨より、 相互承接に両様あるものは6種あるが、その一方を標準的承接順とみなすことができる 中古和文の助動詞は、その承接順を一様に確定す…

福田嘉一郎(1991.4)ロドリゲス日本大文典の不完全過去について

福田嘉一郎(1991.4)「ロドリゲス日本大文典の不完全過去について」『詞林』9 要点 大文典の「直説法・不完全過去」に現在形が含まれるが、これは連体法である 前提 ロドリゲスは直説法において、ルもタも「不完全過去」を表すものとし、これはアルバレスラ…

菅原範夫(1991.10)延慶本平家物語の「ムズ」小考

菅原範夫(1991.10)「延慶本平家物語の「ムズ」小考」『鎌倉時代語研究』14 要点 鎌倉時代のムズはベシに意味的に近似し、前代のムズからの変容が見られる ムズの意味 ムズ単独の場合、ベシに近い意味を持つ 打上ムトスルモカナウマジ。下ヘ落シテモ死ムズ…

島田泰子(1995.3)接尾辞タラシイの成立

島田泰子(1995.3)「接尾辞タラシイの成立」『国語学』180 要点 タラシイは当初非独立的要素を取り、後に独立的要素を取るようになる タラシイの成立にはタラタラの関与が考えられる タラシイの一群と意味 タラシイの語例は以下の通りで、 1-3までは非独立…

村上昭子(1981.3)接尾辞ラシイの成立

村上昭子(1981.3)「接尾辞ラシイの成立」『国語学』124 要点 ラシイの成立には、名詞+情態言ラ+接尾辞シイが想定される 諸説 以下3説があるが、前2説は採れない(下地となった可能性は否定できないが) 推量の助動詞ラシ由来説 時代に断絶があり、抄物に…

西田絢子(1978.4)「けれども」考:その発生から確立まで

西田絢子(1978.4)「「けれども」考:その発生から確立まで」『東京成徳短期大学紀要』11 要点 ケレドモの歴史は以下の4期に分けられる 室町後期:マイ・ウに下接 江戸初期:タイ・タ、形容詞・動詞などに下接 江戸中期:すべての活用語に下接可能に 江戸後…

川村大(1995.10)ベシの諸用法の位置関係

川村大(1995.10)「ベシの諸用法の位置関係」『築島裕博士古稀記念国語学論集』汲古書院 要点 ベシの用法を、「観念上の事態成立主張用法」と「事態の妥当性主張用法」の2類に分ける その2つには「観念の次元における事態存在の主張」という共通性が見出さ…