林淳子(2023.3)江戸語のノ有り疑問文:多様な形式の使用実態
林淳子(2023.3)「江戸語のノ有り疑問文:多様な形式の使用実態」『日本語と日本語教育』51.
要点
- 近世の疑問文全体に対する、準体助詞ノの参画のあり方を記述したい。
- CHJ江戸時代編・会話文のうち、文末に近い箇所にノが現れる例を対象とする。
- 洒落本の場合、判定要求疑問文(YNQ)にノカ、不明項特定要求疑問文(WhQ)にノダが使われるという、明確な文型の使い分けがある。
- 客がきたからこつちのあくのをまたせてをくのか。/こうどけへいくのだ。(仕懸文庫)
- 人情本においてもこの使い分けの傾向は変わらないが、以下の点が異なる。
- 終助詞の種類が増えること
- 丁寧体の文型(ノデスカ類)が加わること
- こうした使い分けがある事情は、疑問文の種類が話し手の不確定感覚に基づく分類であることによる。すなわち、WhQは不明項があることをもって不確定感覚を示すことができるため、断定の形をとっても疑問文として成立するが、YNQは事態内容そのものが不確定感覚を含まないため、カを置く必要がある。
- これは現代共通語でも同様(#昼ご飯は何を食べたのか?)であるが、
- 丁寧体の場合はノカがWhQにも用いられる(昼ご飯は何を食べたんですか?)、すなわち、丁寧体ではノカ・ノダの使い分けが解消されるという点で、江戸語とは異なる。
- WhQは不明項の存在ゆえにカが「なくてもいい」が、その存在が疑問文の存在を妨げるわけではない。ノデスカが明治期以降に使用領域を広げ、WhQにも用いられるようになったと見る。
- 話者のキャラクタとの結びつきについて、
- 現代共通語の場合、疑問文のノダ・ノカは話者のキャラクタが男性に限定されるが、
- 江戸語の場合、
- ノダ・ノカに終助詞がつかない場合は男性に、
- 終助詞エがつく場合は女性に偏る。
- (女性のノダ∅・ノカ∅は対使用人や叱責場面にのみ見られる)
- また、丁寧体の文型はいずれも女性話者であり、
- さらに、女性にはダ・カのないノ疑問文の使用があることも指摘される。
- すなわち、男性話者の文型であるノカ・ノダに、他の要素を加えたり、要素を削ぎ落としたりしたものが女性話者の文型として使用されたと考える。
雑記
- Adobe税から逃れるためにサブスク解除してみましたが、果たしてやっていけるのでしょうか