ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

2018-08-01から1ヶ月間の記事一覧

岡村弘樹(2017.3)二段活用の一段化開始時期と下一段活用の成立:単音節動詞を中心に

岡村弘樹(2017.3)「二段活用の一段化開始時期と下一段活用の成立:単音節動詞を中心に」『訓点語と訓点資料』138 要点 単音節動詞の一段化が上二段活用と下二段活用で異なる理由に関して 旧上一段活用の存在を想定することにより、一段化が「一段活用と同…

大木一夫(2010.3)古代日本語動詞の活用体系 古代日本語動詞形態論・試論

大木一夫(2010.3)「古代日本語動詞の活用体系:古代日本語動詞形態論・試論」『東北大学文学研究科研究年報』59 要点 中古語動詞の活用について、形態論的な記述を行い、その体系では日本語史上の活用の変遷がどのように位置づけられるか述べる 手続きを示…

呉寧真(2017.2)動詞連用形に後接する「おはす・おはします」

呉寧真(2017.2)「動詞連用形に後接する「おはす・おはします」」『国語研究』80 この論文関連で hjl.hatenablog.com 要点 「~おはす・おはします」が、「~来」「~行」の敬語形としての複合動詞後項なのか、主体に敬意を添える補助動詞なのか、という問…

大久保一男(2016.2)「思さる」の「る」

大久保一男(2016.2)「「思さる」の「る」」『国語研究』79 要点 思さる(思す+る)の「る」を尊敬と解釈するものがあるが、少なくとも源氏においてはそうではないものと考える 上(桐壺)も、藤壺の見給はざらむを飽かず思さるれば、(紅葉賀) 物足りな…

矢田勉(2014.7)近世・近代間における口頭語の表記体選択意識の変化

矢田勉(2014.7)「近世・近代間における口頭語の表記体選択意識の変化」『国語文字史の研究』14 要点 平仮名・片仮名併存の問題に関して、傾向とその基盤となる表記意識の解明を目標として、特に、近世・近代における表記体選択のあり方を、「口頭語性」(≠…

吉田永弘(2016.2)「る・らる」における否定可能の展開

吉田永弘(2016.2)「「る・らる」における否定可能の展開」『国語研究』79 これとセット hjl.hatenablog.com 要点 吉田(2013)の肯定可能の分類によって否定可能の分析を行い、肯定可能と並行的に推移していることを明らかにする 肯定可能の展開 上記事参…

藏本真由(2018.3)前接要素・形態的特徴からみる「気がする」の意味変化

藏本真由(2018.3)「前接要素・形態的特徴からみる「気がする」の意味変化」『国語語彙史の研究』37 要点 現代にかけて、「気がする」に意味変化が起こっていることの指摘 ただ其当時に立ち戻りたい様な気もした(漱石・思ひ出す事など) この間より、ちょ…

吉田永弘(2013.10)「る・らる」における肯定可能の展開

吉田永弘(2013.10)「「る・らる」における肯定可能の展開」『日本語の研究』9-4 www.jstage.jst.go.jp 要点 後発的な「る・らる」の肯定可能の用法に関して、 なぜ中古では肯定可能を表せなかったのか 肯定可能を表せない場合どのような形式で表していたの…

北本朝展ほか(2017.12)時系列史料の人機分担構造化:古典籍『武鑑』を参照する江戸情報基盤の構築に向けて

北本朝展、堀井洋、堀井美里、鈴木親彦、山本和明(2017.12)「時系列史料の人機分担構造化:古典籍『武鑑』を参照する江戸情報基盤の構築に向けて」『じんもんこん2017論文集』 要点 時系列的な広がりを持つ資料群の分析に、人手の限界があるので「人機分業…

馬紹華(2017.3)原因・理由を表す「せい」の成立について

馬紹華(2017.3)「原因・理由を表す「せい」の成立について」『訓点語と訓点資料』138 要点 望ましくない原因・理由を表す「せい」について、以下2点を明らかにする 「所為」から「せい」への変化の過程 原因理由用法の成立の過程 「所為」 源流として、 漢…

安本真弓(2010.3)古代日本語における形容詞と動詞の対応形態とその史的変遷

安本真弓(2010.3)「古代日本語における形容詞と動詞の対応形態とその史的変遷」『国語学研究』49 要点 対応関係のある動詞・形容詞組について整理 対応関係に3種類(形態としては5種類) 情態言から動詞・形容詞 動詞から形容詞 形容詞から動詞 分布のあり…

佐伯暁子(2009.4)平安時代から江戸時代における二重ヲ格について

佐伯暁子(2009.4)「平安時代から江戸時代における二重ヲ格について」『国語と国文学』86-4 hjl.hatenablog.com と関連して 要点 近世以前では、現代で容認されない二重ヲ格が容認されることがある そのあり方の整理 現代語における二重ヲ格 ヲの組み合わせ…

深津周太(2018.5)近世における副詞「なんと」の働きかけ用法:感動詞化の観点から

深津周太(2018.5)「近世における副詞「なんと」の働きかけ用法:感動詞化の観点から」藤田保幸・山崎誠編『形式語研究の現在』和泉書院 要点 呼びかけの「なんと」の成立に関して、感動詞化のプロセスから考察 なんと、ミなの衆。あれを聞(ききや)れ。(…

さよならホットナンバン

立川駅の南側、柴崎町にあるちゃんぽん専門店、ホットナンバンが8/11をもって閉店した。 【 閉店】ホットナンバン@立川本当に大好きで長年通わせていただいたお店もう食べられないと思うと悲しくてしかたありません今までありがとうございました! pic.twitt…

京健治(2015.3)シシ語尾形容詞と「不十分終止」

京健治(2015.3)「シシ語尾形容詞と「不十分終止」」『岡大国文論稿』43 要点 室町以降における、いわゆる「不十分終止」に関して、 耳も遠し、目も悪し、中にも、腰がかがうて、月日が、拝まれいで、是が迷惑な(狂言六義・腰折) 実盛心は猛けれども、老…

大西拓一郎(2018.8)交易とことばの伝播:とうもろこしの不思議を探る

大西拓一郎(2018.8)「交易とことばの伝播:とうもろこしの不思議を探る」『日本語学』37-9 要点 地名を含む食材(渡来作物)の語形のあり方に関して ジャガイモ(ジャガタラ←ジャカルタ) サツマイモ カボチャ(カンボジア) トウモロコシ(唐・唐土) 渡…

田中章夫(1998.10)標準語法の性格

田中章夫(1998.10)「標準語法の性格」『日本語科学』4 要点 文法形式の標準語らしさ・方言らしさを以下の3タイプに類型化し、 累加型・段階型 単能型・多能型 微差消滅型・微差保有型 これらがどのような歴史的経緯の所産であるかについても述べる 対照さ…

野村剛史(2001.1)ヤによる係り結びの展開

野村剛史(2001.1)「ヤによる係り結びの展開」『国語国文』70-1 要点 ヤによる係り結びに倒置・注釈・挿入説を想定せず、カの係り結びの位置に侵入したものと考える ヤの性格と係り結び 終助詞・間投助詞ヤは呼びかけ、問いかけなどの対者的性格が大方認め…

三宅俊浩(2018.7)可能動詞の展開

三宅俊浩(2018.7)「可能動詞の展開」『国語国文』87-7 要点 「読むる」からスタートした可能動詞(無意志動詞)が、どのようにして他の五段意志動詞に及んだか 特に問題として(p.38) 無対他動詞にのみ留まっていた派生現象が、有対他動詞や自動詞へも及…

呉寧真(2018.8)中古和文複合動詞の主体敬語の形

呉寧真(2018.8)「中古和文複合動詞の主体敬語の形」『日本語の研究』14-3 要点 中古和文複合動詞の主体敬語は、動詞の敬意差によって異なる形で現れる 敬語独立動詞を用いる傾向がある動詞と,「たまふ」を用いる傾向がある動詞に分かれ,敬語独立動詞が2…

野村剛史(1995.9)カによる係り結び試論

野村剛史(1995.9)「カによる係り結び試論」『国語国文』64-9 要点 カによる係り結びの成立に注釈説を据え、その展開に以下の三段階を想定する 注釈的二文連置 「疑問的事態カ…実事的事態」 「…カ…ム系助動詞」 成立諸説 諸説は以下参照 hjl.hatenablog.com…

松野美海(2014.11)感情動詞オソルのヲ/ニ格選択について:中世和漢混交文を中心に

松野美海(2014.11)「感情動詞オソルのヲ/ニ格選択について:中世和漢混交文を中心に」『名古屋大学国語国文学』107 要点 「恐れる」の格体制について、中世和漢混淆文を対象として、ヲ・ニの機能的対立を明らかにする 太郎は事業の失敗を恐れて、何もでき…

志波彩子(2018.4)ラル構文によるヴォイス体系:非情の受身の類型が限られていた理由をめぐって

志波彩子(2018.4)「ラル構文によるヴォイス体系:非情の受身の類型が限られていた理由をめぐって」岡﨑友子他編『バリエーションの中の日本語史』くろしお出版 以下の論文とセット(仮説補強) hjl.hatenablog.com 以下の論文ともセット(シンポジウム)*1…

島田泰子(2018.3)副詞〈なんなら〉の新用法:なんなら論文一本書けるくらい違う

島田泰子(2018.3)「副詞〈なんなら〉の新用法:なんなら論文一本書けるくらい違う」『二松學舍大学論集』61 要点 タイトルまんま、現代における「なんなら」の新用法の発達に関して 従来の「なんなら」 日国に立項されるのは、以下の2種 (1)相手の意志・希…

山口響史(2015.10)補助動詞テモラウの機能拡張

山口響史(2015.10)「補助動詞テモラウの機能拡張」『日本語の研究』11-4 doi.org 要点 テモラウのヴォイス体系内での拡張に関して 対立的な2種のテモラウ 恩恵的(受益型):プレゼントを買ってもらう 迷惑的:そんなこと言ってもらっちゃ困る(→受身的) …

川瀬卓(2017.12)副詞「どうやら」の史的変遷

川瀬卓(2017.12)「副詞「どうやら」の史的変遷」『語文研究』124 要点 副詞「どうやら」の推定用法の成立と周辺現象に関して 「どうやら太郎のようだ」などの推定との共起制限が成立期にはない 感覚的描写→感覚的描写&推定 という変化の筋道を立て、一般…

野村剛史(2005.11)中古係り結びの変容

野村剛史(2005.11)「中古係り結びの変容」『国語と国文学』82-11 語順法則 上代は以下の語順がほぼ守られるが、中古に入ると崩壊する …係助詞…ノ・ガ…連体形 物思へれかも声の悲しき これは、結びの部分が連体形句(≠連体形述語)であることの現れだが、中…

鴻野知暁(2010.12)ゾの係り結びの発生について

鴻野知暁(2010.12)「ゾの係り結びの発生について」『国語国文』79-12 要点 ゾの係り結びの成立に注釈説を想定する ただし、カの注釈的説明(原因・理由)と必ずしも同一視できない点があり、ゾの場合はそれを「体言ゾ」の説明性に求める 係り結び成立諸説…

辻本桜介(2018.5)中古語の複合辞ニソヘテについて

辻本桜介(2018.5)「中古語の複合辞ニソヘテについて」藤田保幸・山崎誠編『形式語研究の現在』和泉書院 要点 中古に「に加えて」「につれて」に相当する意を持つ「にそへて」という形式があり(2,3節)、これは複合辞として認定できる(4節) 主に複合辞と…

永澤済(2007.10)漢語動詞の自他体系の近代から現代への変化

永澤済(2007.10)「漢語動詞の自他体系の近代から現代への変化」『日本語の研究』3-4 doi.org 要点 近代から現代にかけての、漢語動詞の自他について、自他両用から自動詞専用・他動詞専用 近代の漢語動詞の自他 (現代ではそうではないが、)近代において…