ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

2019-10-01から1ヶ月間の記事一覧

岡村弘樹(2019.8)上代における自他対応と上二段活用

岡村弘樹(2019.8)「上代における自他対応と上二段活用」『国語国文』88(8) 要点 他動詞派生をしてもよさそうな上二段動詞が自他対応に関わらないのは、四段の連用形と形態が類似していたから 前提 上二段活用は自動詞のうち、特に非対格動詞に偏る 上二段…

原口裕(1985.5)可能表現「スルコトガデキル」の定着

原口裕(1985.5)「可能表現「スルコトガデキル」の定着」『国語と国文学』62(5) 要点 コトガデキルの発達は文章語で先行し、化政期以降に日常語化する スルコトガデキルの日常語化 徂徠派の漢文の俗語訳解に源流が求められそうである 人ニカツヿガデキヌト…

後藤睦(2017.12)上代から中世末期におけるガ・ノの上接語の通時的変化

後藤睦(2017.12)「上代から中世末期におけるガ・ノの上接語の通時的変化」『待兼山論叢. 文学篇』51 前提 古代語ではガ・ノは主格標示・連体修飾の両方に使われるが、 ガは固有名詞・代名詞・代名詞の代用形式(妹が名)に、ノはそれ以外にという分布があ…

池上秋彦(1995.8)「五大力恋緘」の語法・緒論:上方本と江戸本を比較して

池上秋彦(1995.8)「「五大力恋緘」の語法・緒論:上方本と江戸本を比較して」『国語と国文学』72(8) 前提 初世並木五瓶「五大力恋緘」の、大阪初演(1794)と江戸初演(1975)の台本の比較を通して、そこに現れる上方・江戸の語法差を記述したい 動詞 サ行…

糸井通浩(2009.11)古典にみる「時」の助動詞と相互承接:「枕章子」日記章段における

糸井通浩(2009.11)「古典にみる「時」の助動詞と相互承接:「枕章子」日記章段における」『国語と国文学』86(11) 前提 「時の助動詞」の相互承接は以下の通り 縦・横の点線は相互に結合することがあり、実線は結合することがない p.2 ム どういう範列的・…

高橋敬一(1979.6)今昔物語集における助動詞の相互承接

高橋敬一(1979.6)「今昔物語集における助動詞の相互承接」『福岡女子短大紀要』17 要点 助動詞の相互承接の豊かさ、使用頻度においても、今昔の文体上の区分は実証される 前提 相互承接の文体差に関して、築島(1963)は異なり語のみを挙げるが、使用頻度…

黒木邦彦(2012.10)中古和文語の動詞派生接尾辞-ツ-, -ヌ-:承接順位を巡って

黒木邦彦(2012.10)「中古和文語の動詞派生接尾辞-ツ-, -ヌ-:承接順位を巡って」丹羽一彌(編)『日本語はどのような膠着語か:用言複合体の研究』笠間書院 要点 ツ・ヌの承接順の共通点と異なりから、ヌと共通するツ(ツ1)とは、異なるツ(ツ2)の存在を…

梅原恭則(1969.11)古今著聞集に於ける助動詞の相互承接

梅原恭則(1969.11)「古今著聞集に於ける助動詞の相互承接」『文学論藻』43 前提 実際の作品の分析・調査がなされたことがないので、古今著聞集をケースとして相互承接を検証したい 実態 以下表のようにまとめられる ナリ・タリ・ゴトクナリは「叙述の働き…

小田勝(2010.1)相互承接からみた中古語の時の助動詞

小田勝(2010.1)「相互承接からみた中古語の時の助動詞」『古典語研究の焦点 武蔵野書院創立90周年記念論集』武蔵野書院 要点 まとめより 1 ヌはアスペクトであるが、テンスをもたない文を作る(作り得る)。 1b 従って、現代語のテンス・アスペクト体系の…

小田勝(2008.2)中古和文における助動詞の相互承接について

小田勝(2008.2)「中古和文における助動詞の相互承接について」『岐阜聖徳学園大学紀要 外国語学部編』47 要点 要旨より、 相互承接に両様あるものは6種あるが、その一方を標準的承接順とみなすことができる 中古和文の助動詞は、その承接順を一様に確定す…

福田嘉一郎(1991.4)ロドリゲス日本大文典の不完全過去について

福田嘉一郎(1991.4)「ロドリゲス日本大文典の不完全過去について」『詞林』9 要点 大文典の「直説法・不完全過去」に現在形が含まれるが、これは連体法である 前提 ロドリゲスは直説法において、ルもタも「不完全過去」を表すものとし、これはアルバレスラ…

菅原範夫(1991.10)延慶本平家物語の「ムズ」小考

菅原範夫(1991.10)「延慶本平家物語の「ムズ」小考」『鎌倉時代語研究』14 要点 鎌倉時代のムズはベシに意味的に近似し、前代のムズからの変容が見られる ムズの意味 ムズ単独の場合、ベシに近い意味を持つ 打上ムトスルモカナウマジ。下ヘ落シテモ死ムズ…

島田泰子(1995.3)接尾辞タラシイの成立

島田泰子(1995.3)「接尾辞タラシイの成立」『国語学』180 要点 タラシイは当初非独立的要素を取り、後に独立的要素を取るようになる タラシイの成立にはタラタラの関与が考えられる タラシイの一群と意味 タラシイの語例は以下の通りで、 1-3までは非独立…

村上昭子(1981.3)接尾辞ラシイの成立

村上昭子(1981.3)「接尾辞ラシイの成立」『国語学』124 要点 ラシイの成立には、名詞+情態言ラ+接尾辞シイが想定される 諸説 以下3説があるが、前2説は採れない(下地となった可能性は否定できないが) 推量の助動詞ラシ由来説 時代に断絶があり、抄物に…

西田絢子(1978.4)「けれども」考:その発生から確立まで

西田絢子(1978.4)「「けれども」考:その発生から確立まで」『東京成徳短期大学紀要』11 要点 ケレドモの歴史は以下の4期に分けられる 室町後期:マイ・ウに下接 江戸初期:タイ・タ、形容詞・動詞などに下接 江戸中期:すべての活用語に下接可能に 江戸後…

川村大(1995.10)ベシの諸用法の位置関係

川村大(1995.10)「ベシの諸用法の位置関係」『築島裕博士古稀記念国語学論集』汲古書院 要点 ベシの用法を、「観念上の事態成立主張用法」と「事態の妥当性主張用法」の2類に分ける その2つには「観念の次元における事態存在の主張」という共通性が見出さ…

川村大(2000.2)叙法と意味:古代語ベシの場合

川村大(2000.2)「叙法と意味:古代語ベシの場合」『日本語学』21(2) 要点 ベシを「観念上の事態の成立を承認する叙法形式」と捉えることで、その多義性を説明できる 前提 仁田・益岡らのモダリティ論は、以下の点で問題を孕む 「主観性」を持たない用法を…

岸本恵実(2018.5)キリシタン版対訳辞書にみる話しことばと書きことば

岸本恵実(2018.5)「キリシタン版対訳辞書にみる話しことばと書きことば」高田博行・小野寺典子・青木博史(編)『歴史語用論の方法』ひつじ書房 前提 大文典における「話しことば」と「書きことば」の区別について考えたい ロドリゲスは日本語の大きな特徴…

原口裕(1978.11)連体形準体法の実態:近世後期資料の場合

原口裕(1978.11)「連体形準体法の実態:近世後期資料の場合」『春日和男教授退官記念語文論叢』桜楓社 要点 ノ準体の明確な定着は天保以降である 推移 明和期洒落本においては全体的に頻度は少ない ノ準体は受け型(内の関係、モノ型)に多く、 φ準体はト…

清水登(1988.12)抄物における「ゾナレバ」の用法について

清水登(1988.12)「抄物における「ゾナレバ」の用法について」『長野県短期大学紀要』43 要点 抄物に特徴的なゾナレバは連語として見なすべきではなく、疑問文ト云ヘバと可換 前提 鈴木博はゾナレバを「接的接続詞」として扱い、「…か?そのわけは…」「…か…

中野伸彦(1990.12)江戸語における「命令文+終助詞『ね』」

中野伸彦(1990.12)「江戸語における「命令文+終助詞『ね』」」『山口大学教育学部研究論叢 第1部 人文科学・社会科学』40 要点 江戸語と現代語の命令文+ネは意味合いが異なる 「聞き手の自覚をもとにして、その自覚を確認する」という要求の仕方をする、…

中野伸彦(1999.10)江戸語における終助詞の相互承接

中野伸彦(1999.10)「江戸語における終助詞の相互承接」『近代語研究』10 前提 文の構成に関わらない終助詞の相互承接を、五十音順に見ていき、整理する 終助詞の相互承接 い いの のみで、文語調・疑問文に偏る え えぞよ 1例のみ、平叙文 さ さな、平叙文…

蜂矢真弓(2019.5)一音節名詞ア・イ・ウ・エ・オ

蜂矢真弓(2019.5)「一音節名詞ア・イ・ウ・エ・オ」毛利正守監修『上代学論叢』和泉書院 前提 上代特殊仮名遣の崩壊に伴う一音節名詞の同音衝突と、その回避のための方策 必要な一音節語のみを残し、 それ以外は廃語にするか、 既存の多音節語に置き換える…

柳田征司(2007.10)上代日本語の母音連続

柳田征司(2007.10)「上代日本語の母音連続」『国学院雑誌』108(11) 前提 母音連続に関する以下の諸問題について考える なぜ脱落や転成が起こったか なぜ全ての母音連続には起こらなかったか 平安時代以降それが起きなくなるだけでなく、イ音便が定着するの…

菊田千春(2004.6)上代日本語におけるノ・ガ格と名詞性:規則性と例外の共存をめざして

菊田千春(2004.6)「上代日本語におけるノ・ガ格と名詞性:規則性と例外の共存をめざして」石黒明博・山内信幸編『言語研究の接点:理論と記述』英宝社 前提 LFG(Lexical Functional Grammar)を用いて上代の主格表示を分析する 上代のノ・ガの分布は野村…

宮腰賢(2007.11)自動詞「思ひ出づ」について

宮腰賢(2007.11)「自動詞「思ひ出づ」について」『国学院雑誌』108(11) 要点 中古の「思ひ出づ」には自動詞の用法もある 前提 他動詞としての「思ひ出づ」 君をあはれと思ひ出でける(竹取) 次の歌は「あの人を」「そのことを」などを補って解釈されるが…