ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

2020-04-01から1ヶ月間の記事一覧

大鹿薫久(1997.2)助動詞「らし」について

大鹿薫久(1997.2)「助動詞「らし」について」『語文』67 ラシの以下の特徴について考える 1 疑問文で用いられない 2 ラシの根拠の事態を明示することが多い 3 仮定条件句の帰結にならない これをもとに、時代別は「確信的に推量する」とするが、確信的なら…

江口正弘(1990.12)天草版平家物語の動詞について:連体形の終止形化を中心に

江口正弘(1990.12)「天草版平家物語の動詞について:連体形の終止形化を中心に」『国文研究(熊本女子大学)』36 要点 標記の問題について、終止形と連体形の用法を以下のように分類する 終止形:A1 終止法 A2 ベシなどの助動詞に前接 A3 助詞トモ・ナ・ヤ…

李淑姫(2005.5)中世日本語の因由形式ニヨッテの階層

李淑姫(2005.5)「中世日本語の因由形式ニヨッテの階層」『日本學報』63 要点 李(1998)では虎明本の因由形式の階層を以下のように記述したが、ニヨッテとトコロデはその前後で異なる特徴を見せる ホドニ・トコロデ・アイダはC類、已バ・ニヨリテ・ニヨッ…

中野伸彦(2001.12)江戸語の「~ばいい」

中野伸彦(2001.12)「江戸語の「~ばいい」」『山口大学教育学部研究論叢 1 人文科学・社会科学』51 要点 バイイを以下の2つに分けて考える ~ばそれですむ a ~という手立て・事態の成立によって可能である:犯人は内側から鍵をかければよかった b ~とい…

大鹿薫久(2004.6)モダリティを文法史的に見る

大鹿薫久(2004.6)「モダリティを文法史的に見る」尾上圭介(編)『朝倉日本語講座6文法Ⅱ』朝倉書店 要点 モダリティを「判断のありように対応する意味上の概念」と規定して、叙実(疑問できる)・叙想(疑問できない)の別を設けると、現代語のモダリティ…

松本朋子(2011.3)「いかにも」の歴史的変遷

松本朋子(2011.3)「「いかにも」の歴史的変遷」『日本語・日本文化』37 要点 標記の問題について考える 古くは「否定」「任意」の2用法で用いられ、この段階では不定語としての性格を色濃く持つ これは、不定語イカニが選択対象の要素である前提集合を持つ…

中川祐治(2007.3)「いかにも」の語史:副詞の文法化の一類型

中川祐治(2007.3)「「いかにも」の語史:副詞の文法化の一類型」『国文学攷』192・193 要点 標記の問題を考える 現代語ではソウダ・ラシイとの共起や一種の程度副詞として用いられ、 古代語のイカニの性格は専ら命題にのみかかわり、モは否定・推量・疑問…

彦坂佳宣(2020.3)一・二段活用のラ行五段化における使役形の動向

彦坂佳宣(2020.3)「一・二段活用のラ行五段化における使役形の動向」『国語語彙史の研究』39 要点 「他の活用とやや異なる面のある」使役形の五段化について考える 個別的要因(九州南部の音変化の激しさ、東北のレバの優勢さ、新潟のローの誘引など)の関…

オンライン講義を撮る方法いろいろ(と、サクラ方式のすすめ)

もう始まってるところもあるので今更感もありますが、これの続き。 hjl.hatenablog.com 要点 いわゆる「オンデマンド型」で録画するときの方法いろいろ。 講義風景をそのまま録画 これを検討する人はあんまりいなくなったと思うので割愛 PC画面の録画 Powerp…

李淑姫(2004.3)中世日本語の原因・理由を表す接続形式の階層構造:抄物資料を中心に

李淑姫(2004.3)「中世日本語の原因・理由を表す接続形式の階層構造:抄物資料を中心に」『日本學報』58 要点 小林千草(1973)の中世末のホドニとニヨッテの指摘は、現代語のカラ・ノデと並行する ウ・ヨウ・マイが上接可能かどうか/後件に推量・意志・命…

小林隆(2004)動詞活用の歴史:言語体系の変遷(動詞活用における方言形成史のアウトライン)

小林隆(2004)「動詞活用の歴史:言語体系の変遷」『方言学的日本語史の方法』ひつじ書房 (小林隆2002「日本語方言の歴史」江端義夫編『朝倉日本語講座 10 方言』朝倉書店) 要点 これまでの3点をもとに、動詞活用の歴史を整理する 方言と活用の関係2種 A …

小林隆(2004)動詞活用の歴史:言語体系の変遷(一段活用動詞などに見られるラ行五段化傾向の概観)

小林隆(2004)「動詞活用の歴史:言語体系の変遷」『方言学的日本語史の方法』ひつじ書房 (小林隆1996「動詞活用におけるラ行五段化傾向の地理的分布」『東北大学文学部研究年報』45) 要点 オキル・ミル・アケル・ネル・スル・クル×否定・使役・意志・過…

小林隆(2004)動詞活用の歴史:言語体系の変遷(二段活用動詞などに見られる一段化傾向の概観)

小林隆(2004)「動詞活用の歴史:言語体系の変遷」『方言学的日本語史の方法』ひつじ書房 (小林隆1997「動詞活用における一段化傾向の地理的分布」加藤正信編『日本語の歴史地理構造』明治書院) 要点 方言における一段化の問題について考える ① いわゆる…

小林隆(2004)動詞活用の歴史:言語体系の変遷(動詞「起きる」を例にしたケーススタディ)

小林隆(2004)「動詞活用の歴史:言語体系の変遷」『方言学的日本語史の方法』ひつじ書房 (小林隆1994「活用の方言分布と歴史:「方言文法全国地図」の「起きる」について」『北海道方言研究会20周年記念論文集 ことばの世界』) 要点 日本語方言の活用と…

上林葵(2019.8)関西方言における終助詞的断定辞「ジャ」の機能:マイナス感情・評価の提示

上林葵(2019.8)「関西方言における終助詞的断定辞「ジャ」の機能:マイナス感情・評価の提示」『日本語の研究』15(2) 要点 関西方言のジャはヤと類似するが、ジャは限定的なモーダルな働きを強く帯びる働きを持つ (本の所有者が誰かを単に尋ねられて)そ…

森野宗明(1960.3)ベラナリということば:位相上の問題を主として

森野宗明(1960.3)「ベラナリということば:位相上の問題を主として」『国語学』40 要点 ベラナリには、散文韻文両用説、韻文の男性語説などがあるが、以下の説を主張したい 1 平安初期としては訓点語としても用いられたが、口頭語とは(男性語の中であって…

常盤智子(2018.4)幕末明治期における日英対訳会話書の日本語:数量の多さを表す句との対応から

常盤智子(2018.4)「幕末明治期における日英対訳会話書の日本語:数量の多さを表す句との対応から」『日本語の研究』14(2) 要点 翻訳から生じたとされる「Nの多く」に注目し、... of N がどのような日本語と対応しているかを調査する We had trusted many o…

木部暢子(2006.5)九州方言の可能形式「キル」について:外的条件可能を表す「キル」

木部暢子(2006.5)「九州方言の可能形式「キル」について:外的条件可能を表す「キル」」『筑紫語学論叢Ⅱ』風間書房 要点 長崎で、能力可能だけでなく外的条件可能にも、労力を必要とする場合に限ってキルが使われる(木部2004)ことについて考える 長崎市…

木部暢子(2004.3)九州の可能表現の諸相:体系と歴史

木部暢子(2004.3)「九州の可能表現の諸相:体系と歴史」『国語国文薩摩路』48 要点 九州方言の可能表現は、~キルと~(ラ)ルルの2種類 キルは能力可能、ラルルは外的条件可能 (2~4節、概観・調査概要・問題点) 久留米市・大牟田市・熊本市:キルが能…

青木博史(2013.12)複合動詞の歴史的変化

青木博史(2013.12)「複合動詞の歴史的変化」影山太郎(編)『複合動詞研究の最先端:謎の解明に向けて』ひつじ書房 要点 標題の問題について、 まず、古代語の複合動詞あるない問題を考える ある派:暮れ行く、とり~、敬語など、意味的・統語的に「複合し…

竹部歩美(2019.7)『源氏物語』諸写本に見られる助動詞ムズ

竹部歩美(2019.7)「『源氏物語』諸写本に見られる助動詞ムズ」『言語の研究』5 要点 源氏大成本文にムズは3例あるが、諸写本を見るともっとある。このことについて、特に以下のことに注目して考える 大成以外の調査 ムズは会話文と心内文に現れるとされる…

柚木靖史(2020.2)角筆文献資料から安芸・備後地方の近世方言を探る:広島県立文書館蔵の角筆文献調査(二〇一四年-二〇一六年)

柚木靖史(2020.2)「角筆文献資料から安芸・備後地方の近世方言を探る:広島県立文書館蔵の角筆文献調査(二〇一四年-二〇一六年)」『広島女学院大学論集』67 要点 広島の郷土資料の角筆を見ることで、近世の安芸・備後地方の口頭語の実態を考えたい (10…

富岡宏太(2017.10)中古和文の助詞カシ

富岡宏太(2017.10)「中古和文の助詞カシ」『日本語の研究』13(4) 要点 よく分からないカシの意味を、中古和文を対象に考える カシに対人性のある例とない例とがあるのはなぜか。 確認や弱めなどをカシが担うのはなぜか。 カシの意味は、事態めあてのモダリ…

川島拓馬(2019.4)逆接形式「くせに」の成立と展開

川島拓馬(2019.4)「逆接形式「くせに」の成立と展開」『国語国文』88(4) 要点 クセニの成立・変遷過程と、特にクセニが非難・不満を表すことについて考えたい 名詞クセは中古からあり、クセ+ニは抄物に例がある このクセニは「順接的」ではあるが、接続の…

山中延之(2009.4)『却廃忘記』の用語の一斑

山中延之(2009.4)「『却廃忘記』の用語の一斑」『京都大学国文学論叢』21 要点 過去に採り上げられなかった却廃忘記の言語事象について 一人称の「自分」の、散文における初出例がある 為自分記之 日国の初出(史記抄)を大きく遡る副助詞ナンゾの例がある…

澤田淳・澤田治(2020.3)「NPのことだ(から)」の因果的推論の方向性

澤田淳・澤田治(2020.3)「「NPのことだ(から)」の因果的推論の方向性」『日本語文法』20(1) 要点 「NPのことだ(から)」は後続命題を推論する用法を持つ 太郎のこと{だ。/だから、}この時期忙しいだろう。 絵が上手な太郎{だ/??のことだから}これ…

井上直美(2020.4)「彼は笑ってみせた。」は何を見せたか:書きことばの「てみせた。」の意味機能に注目して

井上直美(2020.4)「「彼は笑ってみせた。」は何を見せたか:書きことばの「てみせた。」の意味機能に注目して」『日本語の研究』16(1) 要点 テミセタを補助動詞として認め、文末の「てみせた。」の主語の人称、共起動詞、何を見せたかに注目し、その多義性…

文系学部教員向け、オンライン講義の手引き(弊学のケース)

学部の教員に共有する用に手引きを作ったので、適当にマスキングして公開。現物にはリンクやスクリーンショットがぺたぺた貼ってあります。便利だなと思ったら勝手にご自身の環境に書き換えて再配布して頂いて結構です。 弊社(地方の国立大)の環境は以下の…

大江元貴(2017.12)間投助詞の位置づけの再検討:終助詞との比較を通して

大江元貴(2017.12)「間投助詞の位置づけの再検討:終助詞との比較を通して」 pragmatics.gr.jp 要点 間投助詞と終助詞の違いと、間投助詞の位置付けについて考えたい 近年は終助詞と間投助詞の区別を認めない立場が優勢である 共通性は認識されているが、…

三原千世(1983.12)「ことならば」を条件とする文の意味について

三原千世(1983.12)「「ことならば」を条件とする文の意味について」『女子大国文』94 要点 上代では「こと放けば」「こと降らば」のように動詞を伴う条件句が、中古になって「ことならば」になったと考えられる 「ことならば」はすべて1 「現実の事態」を…