ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

2018-10-01から1ヶ月間の記事一覧

吉田永弘(2011.11)タメニ構文の変遷:ムの時代から無標の時代へ

吉田永弘(2011.11)「タメニ構文の変遷:ムの時代から無標の時代へ」青木博史編『日本語文法の歴史と変化』くろしお出版 問題 タメニの意味が目的になるか原因になるかは、述語の意味と形式によってある程度決まる 意志性述語の無標形→目的:本を買うために…

林禔映(2018.3)評価副詞の成立と展開に見られる変化の特徴

林禔映(2018.3)「評価副詞の成立と展開に見られる変化の特徴」『近代語研究』20 要点 「いっそ・さすがに・しょせん・せっかく・どうせ」を対象として、評価的意味を持つ副詞の形成に見られる変化の諸相を類型化する 意味変化として 変化前の語義・形態 名…

村上謙(2016.5)近世上方における二段活用の一段化とその後の展開

村上謙(2016.5)「近世上方における二段活用の一段化とその後の展開」『国語と国文学』93-5 要点 従来、二段活用の一段化はそれ自体が閉じた現象として捉えられがちだが、後期上方の種々の現象は二段活用の一段化の延長としてに位置付けられる 一段活用命令…

中野伸彦(2015.2)近世における「~まじりに~」

中野伸彦(2015.2)「近世における「~まじりに~」」『近代語研究』18 要点 「AまじりにB」において、近世には、現代にない、AとBの仕手が異なる場合がある 現代語の「AまじりにB」 現代語のパターンの整理 ①[Bと合わせて外へ向けて発せられる行為]まじり…

坂詰力治(2010.10)『長恨歌抄』に見える「まいけれども」をめぐって:接続助詞「けれども」の成立説を検証する

坂詰力治(2010.10)「『長恨歌抄』に見える「まいけれども」をめぐって:接続助詞「けれども」の成立説を検証する」『近代語研究』15 要点 「けれども」説について、「まいけれ+ども」→「まい+けれども」説を中心として検証 「まいけれども」説は、積極的…

天野みどり(2017.11)受益構文の意味拡張:《恩恵》から《行為要求》ヘ

天野みどり(2017.11)「受益構文の意味拡張:《恩恵》から《行為要求》ヘ」天野みどり・早瀬尚子『構文の意味と拡がり』くろしお出版 要点 恩恵のテモラウがテモラワナイトの形で行為要求を表すことについて、構文の観点から考察 # テモラワナイト - 言い…

張又華(2013.3)「テシマウ」構文における話者の感情・評価的意味について

張又華(2013.3)「「テシマウ」構文における話者の感情・評価的意味について」児玉一宏・小山哲春編『言語の創発と身体性』ひつじ書房 要点 テシマウのアスペクト的意味と話者の感情・評価的意味を、連続性のある構文として捉える この意味は、話者の意志性…

村田菜穂子(1996.10)「ケレドモ」の成立:「閉じた表現」への推移と不変化助動詞「マイ」成立との有機的連関を見据えて

村田菜穂子(1996.10)「「ケレドモ」の成立:「閉じた表現」への推移と不変化助動詞「マイ」成立との有機的連関を見据えて」『国語語彙史の研究』16 要点 「ケレドモ」の成立に、ドモの肥大化を背景とする、「マイケレ+ドモ」から「マイ+ケレドモ」への異…

高山善行(2010.2)中古語の<断り表現>について:『枕草子』の場合

高山善行(2010.2)「中古語の<断り表現>について:『枕草子』の場合」『語文』92・93 要点 タイトルまんま、高山(2009)とセット 依頼・命令と断り 古代語には断りの定型的表現は見られないので、依頼・命令に対してどのような行為を行ったかを基準とす…

青木博史(2015.11)終止形・連体形の合流について

青木博史(2015.11)「終止形・連体形の合流について」秋元実治・青木博史・前田満編『日英語の文法化と構文化』ひつじ書房 要点 終止形・連体形の合流に関して、中古は終止形→中世は連体形という見方をせず、文末準体句の広がりから見る 先行論 形態論的な…

高山善行(2009.3)『平家物語』の対人配慮表現:「断り」表現を中心に

高山善行(2009.3)「『平家物語』の対人配慮表現:「断り」表現を中心に」『国語国文学』48 要点 タイトルまんま 「断り」のタイプ 平家(高野本)には、以下のタイプが見られる 延期タイプ:後で実行するとして実行を先送りするもの (武士)「西八条へ召…

青木博史(2010.6)近代語における「断り」表現:対人配慮の観点から

青木博史(2010.6)「近代語における「断り」表現:対人配慮の観点から」『語文研究』108・109 要点 広義の近代語(中世後期~昭和前期)を対象として、「断り」の歴史上の変化を見る 断り表現の要素に「詫び」「理由説明」「断りの述部」(尾崎モデル)を設…

川口良(2017.9)若者ことばに見る(間)主観化について:「大丈夫」の新用法に関して

川口良(2017.9)「若者ことばに見る(間)主観化について:「大丈夫」の新用法に関して」『文学部紀要(文教大学)』31-1 要点 断りの「大丈夫」の発達を主観化・間主観化と関連付けて考える 大丈夫の新用法 断りの「大丈夫」 (お代わりは)大丈夫です カ…

高桑恵子(2017.2)「御覧ぜらる」における対者敬語の用法

高桑恵子(2017.2)「「御覧ぜらる」における対者敬語の用法」『国語研究』80 問題 「御覧ず」には関係規定性があるが、「見たまふ」には関係規定性が認められない (桐壺帝ガ、桐壺更衣ヲ)いとどあはれと御覧じて、(桐壺):動作主体が動作客体より上位者…

川口敦子(2018.6)コリャードのt入声表記とツ表記:スペイン系写本との比較から

川口敦子(2018.6)「コリャードのt入声表記とツ表記:スペイン系写本との比較から」『三重大学日本語学文学』29 要点 コリャード自筆本に見られる特異なt入声標記とmizu(蜜)の表記について コリャードのt入声表記 コリャードはイエズス会式を踏襲している…

高山善行(2016.5)中古語における疑問文とモダリティ形式の関係

高山善行(2016.5)「中古語における疑問文とモダリティ形式の関係」『国語と国文学』93-5 要点 古代疑問文におけるモダリティ形式について、特に以下の3点を問題とする 疑問文におけるモダリティ形式の多用 モダリティ形式の働き モダリティ形式の有無によ…

高山知明(2009.3)タ行ダ行破擦音化の音韻論的特質

高山知明(2009.3)「タ行ダ行破擦音化の音韻論的特質」『金沢大学国語国文』34 要点 「四つ仮名合流の前段階」とされるタ行のチ・ツの破擦音化[ti]>[tʃi], [tu]>[tsu] *1について 問題点 おおむね16世紀以降まで、タ行はチ・ツも破裂音[ti][tu]であったが、…

榎木久薫(1996.9)平安初期訓点資料における使役の格表示:ヲシテの使用に着目して

榎木久薫(1996.9)「平安初期訓点資料における使役の格表示:ヲシテの使用に着目して」『訓点語と訓点資料』98 要点 平安初期訓点資料における使役の格標示は「~ヲ~シム」「~ニ~シム」「~ヲシテ~シム」の性格について これらは中期に「~ヲシテ~シム…

衣畑智秀(2017.3)南琉球宮古方言の終止連体形:方言に見る活用形の合流

衣畑智秀(2017.3)「南琉球宮古方言の終止連体形:方言に見る活用形の合流」『日本語文法』17-1 要点 宮古諸方言における「書く」に、2形がある地域と、統一されている地域の事例を見ることで、活用形の合流(終止連体形と連用形の合流)が起こっていること…

竹内史郎(2007.7)節の構造変化による接続助詞の形成

竹内史郎(2007.7)「節の構造変化による接続助詞の形成」青木博史編『日本語の構造変化と文法化』ひつじ書房 要点 ガ(格助詞→接続助詞)に代表される、節の構造変化による接続助詞の形成について、 他の事例の指摘 契機や要因の考察 ガ・ヲ ガ Xノ連体ガ:…

栗田岳(2011.1)しづ心なく花のちるらむ:ム系助動詞と「設想」

栗田岳(2011.1)「しづ心なく花のちるらむ:ム系助動詞と「設想」」『日本語の研究』7-1 要点 ム系助動詞に「設想」の意味を規定し 久方のひかりのどけき春の日にしづ心なく花のちるらむ(古今 以下の2類に区分する Ⅰ 言語主体の推量・意志の作用とは関わり…

大西拓一郎(2002.9)方言の係り結び

大西拓一郎(2002.9)「方言の係り結び」『国語論究 第9集 現代の位相研究』明治書院 要点 本土方言の係り結びについての共時的整理と、通時的見通しの提示 方言の係り結び 以下の3タイプが見られる こそ~已然形 疑問詞~已然形 疑問文~連体形 形態面のの…

柳原恵津子(2012.3)自筆本『御堂関白記』に見られる複合動詞について

柳原恵津子(2012.3)「自筆本『御堂関白記』に見られる複合動詞について」『紀要(中央大学)』239 要点 記録語の複合動詞の性質について 「記録体には記録体特有の複合動詞が多くみとめられるという(峰岸明)氏の指摘は正しいものであり、古記録の用途に…

佐藤琢三(2016.5)構文としての「切っても切れない」

佐藤琢三(2016.5)構文としての「切っても切れない」庵功雄・佐藤琢三・中俣尚己編『日本語文法研究のフロンティア』くろしお出版 要点 いわゆる「結果キャンセル」の文について、 動詞の意味の総和に還元せず、「~テモ~シナイ」という構造自体が意味を持…

ハイコ・ナロク(1998.10)日本語動詞の活用体系

ハイコ・ナロク(1998.10)「日本語動詞の活用体系」『日本語科学』4 要点 特定の理論に拠らず、検証可能な枠組みで動詞の活用・派生体系を分析 活用・派生の中心的要素が活用語尾と、活用語~であることを示す 活用語尾と派生接尾辞 まず、活用語尾と派生接尾…

衣畑智秀(2012.1)日本語における話者指向性

衣畑智秀(2012.1)「日本語における話者指向性」『福岡大学日本語日本文学』21 要点 金田一(1953)の「主観的表現」が示す「話者のその時の」という性質を「話者志向性」と呼び、 話者志向性が種々の文法カテゴリに見られることを示す hjl.hatenablog.com …

栗田岳(2014.12)連体修飾のム:「思はむ子」をめぐって

栗田岳(2014.12)「連体修飾のム:「思はむ子」をめぐって」『Language, Information, Text = 言語・情報・テクスト : 東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻紀要』21 要点 ムの連体用法を「被修飾名詞の非限定性」と規定する ムの連体用法 先行論…

江口匠(2016.3)〈逆接〉を表す「て」をめぐって

江口匠(2016.3)「〈逆接〉を表す「て」をめぐって」『人文』14 要点 逆接の「て」が現れる構文条件について 自分でいって、わすれるやつがあるか。 あんな事故にあって助かったのですか。本当に運がいい人だ。 これまでの指摘と枠組み 前提的に予測される…

山口堯二(1998.10)対比的な複文の前句における「あり」の朧化用法

山口堯二(1998.10)「対比的な複文の前句における「あり」の朧化用法」『京都語文』3 (山口堯二(2000.9)『構文史論考』和泉書院 所収) 要点 複文において、実質的な意味が希薄化したアリが用いられる 雁なきて菊の花さく秋はあれど春の海辺にすみよしの…

高山善行(2005.10)助動詞「む」の連体用法について

高山善行(2005.10)「助動詞「む」の連体用法について」『日本語の研究』1-4 要点 「む」の連体用法は「非現実性の標示」の機能を持つ 特に、モダリティ史の観点から見る 問題点と研究方法 ムの連体用法は、仮定・婉曲とされるが、直感的理解に留まっている…