ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

JapanKnowledge版『日本国語大辞典』でテーマを探索しよう

この記事は「言語学な人々 Advent Calendar 2023」の17日目の記事です。

adventar.org

前置き

 小学館日本国語大辞典(第2版)』(以下、日国)の JapanKnowledge 版(以下、JK版日国)は、紙媒体にはない検索機能を備えています。*1

JapanKnowledge 全体を対象とした「詳細(個別)検索」でも以下の検索を行うことができますが、

  • 見出し検索 or 全文検索
  • AND, OR, NOT検索
  • 完全一致、前方一致、後方一致、部分一致

この詳細検索の対象を『日国』に限定すると、検索範囲(見出し or 全文 or 用例 or …)をさらに細かく設定できたり、品詞で絞ったりできるようになります。 方法は以下の通り。

 これらの検索方法を組み合わせると、JK版日国を、より便利に使うことができます。以下、検索範囲・条件などは〈 〉で、具体的なクエリは[ ]で括ることにします。 例えば〈品詞〉を[動詞]に限定して、〈見出し〉を〈後方一致〉として[かす]と検索すると、語尾が「◯◯かす」で終わる動詞(「カス型動詞」かもしれないものたち)を検索することができます*2。便利ですね。

〈品詞〉[動詞]AND〈見出し>後方一致〉[かす]

 話は変わって、Kuteva et al. 2019. World Lexicon of Grammaticalization (CUP) という、文法変化のソースとターゲットを言語横断的に集めた、これだけで千夜一夜できるくらいのハイパーおもしろ本があります。しかし、悲しいかな*3、world lexicon なので日本語の事例はそれほど多くありません。

 よく知られているように、モダリティの「明日は雨が降るはず(だ)」は弓矢のパーツである「はず(筈)」」に由来しますし(山口2002*4、「私は機械は大の苦手で、PCはおろか携帯電話さえ持っていない」(藤田2013)のような、接続的な機能を持つ「おろか」は、形容(動)詞の(直接的には「疎略」の意の方の)「おろか(なり)」を素材とします。後者の「否定的な叙述をして、そのスケール上でよりダメなものを示す」という構造は、英語では “let alone” が相当しますが、通言語的な研究は行われていないそうです(Croft 2022: §17.4.2)。こういうのは『日国』ではちょろっとしか書かれていなくて、こうした個別の事例は、伝統的な日本語史研究から見れば周辺的でつまらないように見えるかもしれません。ただ、それ自体が突飛な変化であることに面白さがあったり、類型的な観点から見れば示唆があったりということは当然ありますし、また、周辺的な事例までひっくるめて考えることが変化の方向性や傾向の考察に寄与することも、当然あり得ます。

 紙版を含む『日国』は、語義や用例(特に初出例)の下調べには学生からプロまで*5広く使われてい*6て、JK版日国も、興味のある意味・カテゴリを全文検索して「うわ~、こんなのもあるのか~」というのを知る、みたいなことはよくやられていると思います(私の場合、論文1本に対して「日国」メモを作ることが結構*7あります)。探したい対象が既に決まっている場合はこれでもいいんですが、一方で、そもそも何を調べたら面白そうかが分からない場合*8もありますし、授業で扱われた事例や先行研究で見た事例がそのまま*9「探す対象」になってしまう*10ことも多く、そこで調べた結果が、どうしても先行論の後追いになってしまいがち*11な側面があります。

 以下、特に日本語における言語変化を念頭において、探す対象も漠然としているような*12探し*13が、そもそもどういう変化が有り得る*14のかを探索するのにもJK版日国が有用であるということを、検索ワードとともに書き連ね*15いき*16ます。

 当然ながら*17、「変化」など*18と言うとき*19は全て、「項目執筆者がそう捉えている(場合によっては、そうとも読める)」もしくは、こっちが勝手にそう読んでいる、の意です。

検索してみる

 「変化」が「交替」である場合には、ある形式や意味・カテゴリをベースとして「①A→②A・B→③B」という遷移があることを指し*20、辞書の語釈は、ある形式が②で止まった場合でも③に至った場合でも、(勿論ブランチの順番自体が通時性を意識していますが)そのA・Bの時代差をペチャンコにして記述します。

このことを踏まえると、ある形式において、

  • 「AとBの2種(のカテゴリ、用法、意味など)を有する」
  • 「Aであることを基準とするが、B的でもある」
  • 「Aであるが、Bのようにも使われる」
  • 「Bであるが、Aに由来すると考えられる」
  • 「Aであるが(Aらしい位置に生起することを含意)、別の位置にも生起する」

とかいうような記述があれば、そこには変化が含意されている可能性があります。そういうワードを考えたり、本文から拾ったりして、検索して眺めてみると、「なんぢゃおまえわ!?」みたいなのがたくさん出てきて楽しい。

品詞のAND検索

 『日国』は語釈のブランチに、以下の階層を設けています(凡例を整理)。

  1. 【一】品詞・動詞の自他・活用
  2. >〔一〕根本的な語義や漢字の慣用
  3. >(1)一般的な語釈
  4. >(イ)同一語釈内の位相・用法

 仮に、ある語の(通時態をペチャンコにした場合)品詞が複数(例えば接続詞と接続助詞)にまたがる場合、どちらかがベースとなって、もう片方を派生したと、ということが有り得そうなので、まずはこれを検索してみます。品詞の検索UI(左のボックス)を使ってもよいですし、本文中で品詞が〔 〕内に括られることに注目して、全文検索で〔品詞〕を検索キーにすることもできます。

いくつか面白い例を示します。

〈全文〉[〔接続〕]AND〈全文〉[〔接助〕]

ほど‐に 【程─】

【一】〔接助〕 (名詞「ほど」に格助詞「に」の付いてできたもの)
(1)活用語の連体形を受け、原因・理由を表わす。…ので。…によって。
平家物語〔13C前〕二・大納言死去「女房・侍おほかりけれども、或は世をおそれ、或は人目をつつむほどに、とひとぶらふ者一人もなし」

【二】〔接続〕
したがって。だから。
*足利本人天眼目抄〔1471~73〕下「斬天下平げてしかと静謐した程に剱も用処が無ぞ。程に瞎驢辺抛向したぞ」

文法化の一方向性仮説の反例として挙がる、接続助詞の接続詞化(小柳(2016)の「付属的機能語→自立的機能語」)の例です。他に、「けれども」系、「さかい」、「ところ」系、「よって」が挙がっています。

〈全文〉[〔副〕]AND〈全文〉[〔接尾〕]

こっきり

【一】〔副〕 ……
【二】〔接尾〕 数詞などに付いて、ちょうどそれだけ、と限定する意を表わす。かっきり。かぎり。 …*二十四の瞳〔1952〕〈壺井栄〉八「こんな紙のじゃあ、一年こっきりでしょう」

たしかになあ~。「二時間そこそこ」「一合たっぷり」「この夏いっぱい」「貸切オンリーの観光バス」も拾えます。たしかに~。

〈全文〉[〔名〕]AND〈全文〉[〔接尾〕]

よ‐さ 【夜─】(「よさり(夜去)」の変化した語)

【一】〔名〕夜。晩。夜さり。
【二】〔接尾〕数詞に付いて、夜を数えるのに用いる語。
浄瑠璃蘆屋道満大内鑑〔1734〕小袖物狂ひ「しのだなるやしろにあゆみをはこびて、七日なんなん七よさ、こもらば御利生まさしくあらたに、恋しき人にはあひも見もせ」

まぢかよ

からげ 【絡・紮】
【一】〔名〕
(動詞「からげる(絡)」の連用形の名詞化)
(1)束ねくくること。まとめてしばること。
(2)着物の裾を帯にはさみ込むこと。また、その裾。しりからげ。
浄瑠璃・生玉心中〔1715か〕上「ひやめしもやかっしゃれとからげおろして入にけり」

【二】〔接尾〕
束ねくくったものを数えるのに用いる語。
*玉塵抄〔1563〕一四「韓がはじめ学問に京え上る時はただ一からげの書をたづさえて上たぞ」

接尾辞の方が例が早い…。

品詞の検索UIを使うと、〔感動〕と品詞を共有する(かもしれない)語をUIでポチポチ探せます。

感動詞かつ何か」を探せる

ぜん‐ざい 【善哉】

【一】〔感動〕
ほめたたえる語。よきかな。よいかな。

【二】〔形動〕
よいと感じるさま。喜び祝うさま。
謡曲・輪蔵〔1541頃〕「かのおん経を読誦し給へば、善哉なれや、善哉なれと、夜遊を奏して舞ひ給ふ」

内容語化する感動詞たち、よすぎ。「さて(なり)」(坂詰2002)と同じパターン。

あつつ 【熱】

【一】〔感動〕
熱いものにさわった時に発する声。あちち。あちゃ。

【二】〔名〕
(【一】から転じた幼児語
(3)灸(きゅう)をいう。
浄瑠璃・志賀の敵討〔1776〕八「母様はな、あつつをすへに行によって、晩から父様が抱て寝る」

ある~。「幼児語」「女房詞」「女性語」「隠語」「遊里語」「上方語」など、位相語を一覧するのにも便利。

そういえば、活用形は〔◯◯上一〕のように示されるので、例えば[ニ〕]AND[四〕]のように検索すると、二段・四段活用が同形(かもしれない)の動詞(cf. 釘貫1990)が拾えます。

めっちゃある

変化を含意する語釈たち

語釈に明示的に「~が変化したもの」と書いてあったり、明示的でなくとも含意されたりしている場合があります。全て全文検索で探します。

from A (to B) 系

Bの方をベースとして「これがAに由来する」ことを記述するもので、その実、AからBへの変化を明示・含意するパターン。例えば、「転じた」「変化した」が一般的に使われます。

【一】〔名〕
(1)物の横側。物の脇。
(6)動詞の連体形や格助詞「の」の下に付いて、形式名詞的に用いられ、「あることをしながら、それと並行して」の意を表わす。その一方。

【二】〔副〕
(【一】(6)の転じたもの)
あることをしながら、その一方では。かたがた。
*花柳春話〔1878~79〕〈織田純一郎訳〉二六「逃亡の策を考へ、側(カタハ)ら両賊の談を聞く」

翻訳の影響?【一】(6)の方(~するかたわら、)にも「形式名詞的に用いられ」があります。

きょう・じる 【興】〔自ザ上一〕
(サ変動詞「きょうずる(興)」が上一段活用に転じた語)
「きょうずる(興)」に同じ。
*改正増補和英語林集成〔1886〕「Kyoji, ru キョウジル 興」

サ変の一段化。

がに〔副助〕
(1)活用語の終止形を受け、下の動作の程度を様態的に述べる。…せんばかりに。…するほどに。
(2)動詞の連体形を受け、将来の事柄に関してそうなることを望む意を表わす。…するように。
万葉集〔8C後〕一四・三四五二「おもしろき野をばな焼きそ古草に新草まじり生ひは生ふる我爾(ガニ)〈東歌〉」
(3)((2)から転じて)まるで…するかのように。
*崖の下〔1928〕〈嘉村礒多〉「潤んだ銀色の月の光は玻璃を洩れて生を誘ふがに峡谷の底にあるやうな廃屋の赤茶けた畳に降りた」

は~~。

「変化した」は形態変化を指す場合が多い。「はかち」て何よ。

  • ばあ〔副助〕(副助詞「ばかり」の変化した語)おおよその程度を表わす。→ばかり(1)。
  • ばか〔副助〕(副助詞「ばかり」の変化した語)(1)おおよその程度を表わす。ぐらい。
  • ばかし〔副助〕(副助詞「ばかり」の変化した語。文章語としてはほとんど用いられない)(1)おおよその程度を表わす。
  • はかち〔副助〕(副助詞「ばかり」の変化した語)おおよその程度を示す。
  • ばっか〔副助〕(副助詞「ばかり」の変化した語)主として会話に用いられる俗語。(1)限定の意を表わす。→ばかり(2)。
  • ばっかし【許・斗】〔副助〕(副助詞「ばかり」の変化した「ばっかり」がさらに変化したもの)会話に用いる俗語的な語。限定の意を表わす。→ばかり(2)。
  • ばっかり〔副助〕(副助詞「ばかり」の変化した語)限定の意を表わす。→ばかり(2)。
  • ばっちゃ〔副助〕(副助詞「ばかり」に係助詞「は」が付いて変化したものか)限定の意を表わす。→ばかり(2)

「が付いて」のように、複数の形態素の複合を含意する語釈もある。

かけ‐て 【掛─・懸─】〔副〕
(動詞「かく(掛)」の連用形に助詞「て」が付いてできた語。「物事に関係づけて」の意から)
(1)あとに否定、反語の表現を伴って、まったく予測もしない気持を表わす。決して。全然。ゆめにも。いささかも。かけても。
後撰和歌集〔951~953頃〕哀傷・一四二二「かけてだにわが身の上と思ひきやこむ年春の花を見じとは〈伊勢〉」

色々な「が付いて」の例。

  • いつ‐し‐か【何時─】【一】〔副〕(代名詞「いつ」に、間投助詞「し」および係助詞「か」が付いてできたもの)
  • からく‐して【辛─】〔副〕(副詞「からく」に、動詞「す」の連用形と助詞「て」とが付いてできたもの)「かろうじて(辛─)」の元の形。
  • しか‐のみ‐なら‐ず【加之・加以】〔接続〕(副詞「しか」に助詞「のみ」、助動詞「なり」「ず」が付いてできた語。古くは主として漢文訓読系の文章の中に用いられる)先行の事柄に後続の事柄が添加されることを示す。そればかりでなく。その上に。かてて加えて。
  • せん‐かた【為方・詮方】〔名〕(「せん」はサ変動詞「す」の未然形に推量の助動詞「ん」が付いてできたもの。「詮方」はあて字)なすべき方法。しかた。手段。せんすべ。
  • どうなり‐こうなり[‥かうなり]〔副〕(副詞「どう」に助詞「なり」が付いた「どうなり」に、同様の構成の「こうなり」が付いてできたもの)「どうやらこうやら」に同じ。
  • どうの‐こうの[‥かうの]〔副〕(副詞「どう」に助詞「の」が付いた「どうの」に、同様の構成の「こうの」が付いてできたもの)なんやかやと意見を並べたてるさま、また、あれこれと批判的な言辞を弄するさまを表わす語。何のかの。

↑これを眺めていたら、こんなのも出てきました。見出しだけ見て、「なんでこれをわざわざ立項?」と思った後に……

わらわ‐・せる[わらは‥] 【笑】〔他サ下一〕わらは・す〔他サ下二〕(動詞「わらう(笑)」に使役の助動詞「せる」が付いてできたもの)
(1)「わらわす(笑)(1)」に同じ。
(2)軽蔑に値するさまである。人をあざけるときに使うことば。笑わす。
*一刹那〔1889~90〕〈幸田露伴〉二「なんだ親父がおれを懲治檻に入れると、笑はせやあがる」
*江戸から東京へ〔1921〕〈矢田挿雲〉七・一四「大口屋暁雨は〈略〉常に芝居の助六そっくりの風装(なり)をして吉原へ繰込んだのは笑(ワラ)はせるが」

中身を見て納得。

ゆめ‐さら 【夢更】〔副〕
(「ゆめにも」と「さらに」との意味が複合してできた語か)
下に打消・禁止の語を伴って用いる。すこしも。いささかも。夢にも。
*合巻・裙模様沖津白浪〔1828〕浜松家決断所の場「夢更ら知らぬ白浪の、緑りの林のあの子忰」

ゆめさら、使ってみたい!

「意から」は、機能変化を伴わない意味変化も拾えます。

くら‐い[‥ゐ] 【位】
【一】〔名〕(高く大きく設けた席「座(くら)」に「ゐる」(すわる)の意から
〔一〕身分上の地位。
(1)(天皇玉座意から天皇の地位。皇位。また、天皇の地位にあること。在位。

例えばこんな例。

でも
【四】〔接頭〕
(「あれでも」の意からという)
職業や身分などを表わす語に付いて、未熟なもの、信頼できないもの無価値なものの意を表わす。「でも医者」「でも客」「でも坊主」など。 *落語・閉込み〔1897〕〈三代目柳家小さん〉「泥棒でもさして見様と云ふのでデモ泥棒と云ふので御坐います」

よすぎ。

がい‐ぶん 【涯分】

【一】〔名〕
(「かいぶん」とも)
自分の身の程。分際。身分に相応したこと。
菅家文草〔900頃〕三・秋「涯分浮沈更問誰、秋来暗倍客居悲」

【二】〔副〕 (「身分相応に」の意から転じて) 自分の力の及ぶ限り。せいいっぱい。 *平治物語〔1220頃か〕中・待賢門の軍の事「涯分武略を廻ぐらし、金闕無為なるやう成敗仕るべし」

漢語の副詞化!(名詞AND副詞でも探せます。)

「ところから」も同様、比喩的な派生や、よくわからん由来もでてきます。

アーチ〔名〕
(3)(飛球が大きな弧を描くところから)野球で、ホームランの俗称。 *烈婦!ます女自叙伝〔1971〕〈井上ひさし〉一「長島連日の大アーチ

まっくら‐さんぼう 【真暗三宝】〔副〕
(「まっくら」を強めていう語で、まっくらやみの中で何も見えないところから
前後もわきまえないで。めちゃくちゃに。
滑稽本・続膝栗毛〔1810~22〕一〇・下「まっくらさんばう狼狽て」

いざなみ〔副〕
(「万葉‐一〇・二二八四」の「率爾」を、古く「いざなみに」と訓んだところから生じた語か)
かりそめ。ちょっと。
*堀河百首〔1105~06頃〕秋「いざなみに今も又みん女郎花しのふのすがたあく時もなし〈藤原仲実〉」

しゅごしゅぎ~

このほか、「一説に」「とする説」のような未詳の語源説や、「(文頭・文中・文末){で/に置いて/で用いて…}」のように、統語的な位置が異なることを含意するもの、「に同じ」は必ずしも派生関係にない場合もありますが、語形の近い類語を探すことができます。色々探してみてください。

(use A) as B 系

 Aをベースの記述としつつ、「これがBとしても使われ得る」ことを書いていて、その実、AからBへの変化を含意するパターン。「~的に」「~のように」「~として(も)」と、「~使う」「~用いる」などの組み合わせによります。「使う」「用いる」は受身形にもなることに注意。

例えば、「として(も)用い」では、

たまわ‐・す[たまは‥] 【賜】〔他サ下二〕
(四段活用動詞「たまう(賜)」の未然形に敬意を強める助動詞「す」のついてできたもの)
「たまう(賜)」の尊敬の度合いを強めて表わす。お与えになる。下賜なさる。補助動詞としても用いる

補助動詞のことを考えたかったらそもそも「補助動詞」で本文検索したほうがよいですが。)

さら・す〔他サ四〕
〔一〕「する」を卑しめていう語。人をののしっていうときなどに用いる。
*歌舞伎・宿無団七時雨傘〔1768〕二段「爰な奴は人の大事の奉公人を気違ひにさらすか」
〔二〕補助動詞として用いる。動詞の連用形に付けて相手をののしる気持を表わす。…しやがる。
*歌舞伎・高台橋諍勝負附〔1764〕三幕「利口さうに関取りと、面は振り歩けど女房売りさらして人らしい面すると」

「のように用(いる)」では、

しょうが〔名〕
(多く「しょうがには」の形で接続助詞のように用いる

ある事態が起こった以上は、それから生まれる結果はやむを得ないことを示す。…したからは。…した以上は。
*洒落本・通人の寐言〔1782〕上「女郎かいに上下はない。どっこいといふせうがには、どこでもおもしろいはづ」

補注 語源は未詳で、歴史的かなづかいも明らかではない。

!?(何これ!?) 明日から使おう。

「詞的に」で検索してみると、

【二】〔副〕
(「と」を伴う場合が多い)
口を大きく開くさま。「ああん(を)する」のように名詞的にも用いる。 *今年竹〔1919~27〕〈里見〉かも・四「母親らしい容子を気取って、『もっと、アーンなさい』」

こういうのが欲しい~

ざん‐じ 【暫時】〔名〕
すこしの間。しばらくの間。わずかな時間。副詞的にも用いる。
*高野本平家物語〔13C前〕六・入道死去「目にも見えず力にもかかはらぬ無常の殺鬼をば、暫時(ザンシ)もたたかひかへさず」
人情本・英対暖語〔1838〕三・一八章「これより暫時(ザンジ)食事の間も、猶くわしく始終のことをかたらふ折節」

副詞の例、思ったより遅い。

まで 【迄】〔副助〕
(5)((4)から転じて)文末にあって確認・強調の意を表わし、終助詞的に用いられる。中世末・近世の口語。→語誌(5)。 *歌謡・閑吟集〔1518〕「人はなにともいは間の水候よ、わごりょの心だににごらずはすむよ」

古田(2023)!(の先の話!)

おお‐ん[おほ‥] 【御・大御・大】
(1)体言の上に付いて尊敬の意を表わす。
(2)下に来るべき体言が省略されて単独で名詞的に用いる。
栄花物語〔1028~92頃〕若ばえ「あるは、『おほんのはいかがし給へる、麿(まろ)がものの思ふ様(さま)ならぬ』」

これ知らないのは不勉強かもしれん!でも明日から使おう。

「◯◯ではこう使う」系

「(時代Aではこうだけど、)時代Bではこう」「(文体Aではこうだけど、)文体Bではこう」という記述から、時代差や文体差を知ることができます。網羅的ではないですが、いくつかキーと例を示します。

「現代語では」

  • あさまし・い 【浅】〔形シク〕
    (動詞「あさむ(浅)」の形容詞化。意外なことに驚いたり、あきれたりする意が原義。よい場合にも悪い場合にも用いたが、現代語では悪い意味にだけ使う)
  • あまね・し【遍・普】〔形ク〕
    すみずみまで広くゆきわたっている。現代語では連用形だけが、副詞として使われている。
  • おこ・る 【怒】
    語誌 現代語では「いかり」を表わす語として最も一般的だが、成立は近世後期になってからと考えられる。
  • おそれ‐い・る【恐入・畏入】
    (4)相手の好意などに対して、ありがたいと思う。かたじけなく思う。現代語では、多く「おそれいります」の形で用いる。
  • の‐たま・う[‥たまふ]【宣・曰】
    (4)(特に現代語では敬語としてでなく)「言う」をからかい半分のふざけた言い方としていうのに用いる。のたまわす。

「(中世)以降」

  • あき‐み・つ 【飽満】
    【一】〔自タ四〕
    【二】〔自タ上二〕
    中世以降現われた形)
    【一】に同じ。
    御伽草子鉢かづき〔室町末〕「数のたからを持ち給ふ。あきみちて乏(とも)しきこともましまさず」


  • 補注 「も」が接続助詞として完全に定着するのは中世以降であるが、中古にも既に多少の例が見られる。

「漢文訓読(文)では」

  • ふた・ぐ 【塞】
    補注 (1)平安時代漢文訓読文ではフサグを使用するのに対して、和文系の文献ではフタグを使用する。
  • いわ‐ば[いは‥] 【言─・謂─】
    補注 元来、未然形+「ば」で仮定を表わす用法。漢文訓読ではふつう用いられず、中古では、「古今和歌集」の仮名序のほか用例が乏しく、…

おまけ

最後に、この記事を書いているときに出会った、味わい深い語釈たちを紹介します。

もち‐て 【以─】 (3)単なる強めとして用いられる。 *西大寺本金光明最勝王経平安初期点〔830頃〕六「世尊是の経王の威神力を以(モチ)ての故に、是の時に隣の敵に更に異し怨有りて而も来て侵擾せしむ」

原漢文にそうあるのだから、仕方ない。

ばか の 大足(おおあし)
大きな足はばかのしるしであるという俗説
西洋道中膝栗毛〔1874~76〕〈総生寛〉一四・上「馬鹿(バカ)の大足(オホアシ)も厄介だのう」

ひどすぎる。

  • きた が 無(な)ければ日本(にっぽん)三角(さんかく)
    潔癖な人が何事をも「きたない」というのを「北無い」とかけてあざけっていうことば。
    *諺苑〔1797〕「北(キタ)がなければ日本三角(ニッポンサンカク)此は甚潔を好む者のきたなしきたなしと物毎に云寸嘲りて云寸の詞なり」
  • けり‐かも 【鳧鴨】〔名〕
    (「鳧鴨」はあて字。助動詞の「けり」や助詞の「かも」が和歌の特徴的な用語であるところから) 和歌、または歌人あざけっていう語。

「あざけって」であざけりのバリエーションを学びたい。

お‐せなが[を‥] 【─背長】〔形動〕
背が長いさま。胴長であるさま。
源氏物語〔1001~14頃〕末摘花「まづ、ゐだけの高く、をせながに見え給ふに」
補注 「お(を)」は軽く添えた発語で、特別な意味はないといわれる。

「軽く添える」「語調を整える」としか説明できないもの、ありがち。

しち‐ばち 【質八】〔名〕
「質」に「七」を通わせて、八と続けていった語。「八」には特別の意味はない
本福寺跡書〔1560頃〕「家を破り、地山を売り、道具・表式を売捨て、あそこここをしちはちに置きあげ、手と身とに成果てて、仕果す心持に成果して、身の立途もなくなりて」

そら特別の意味はないよね。

*1:大学に所属している方は大学図書館で、そうでない方は公立図書館で使用できることが多いです。個人契約もできます。

*2:以下、画像・本文の引用は全て JapanKnowledge版より。本文は適宜抜粋。

*3:以下で紹介する方法では、残念ながら拾えないものも多く、この[かなしい かな]は[かなし・い【悲・哀・愛】]の下位項目です。惜しむらくは(これは「連語」扱いで、「副詞的」で探せます。)、接続詞か、せめて連語にでもしてくれれば…。

*4:ただ、「はず」は一見やばい変化に見えますが、山口が変化過程として示す「(弓と矢の)はずが合う」、すなわち「AとBがフィットする」は "suitable (‘to be sufficient, enough’, ‘to be fitting’, ‘to be suitable’) > (1) d-necessity (Obligation) " (Kuteva et al. 2019: 414-415) の事例に沿います。出自の位相が限定されるのに、めちゃくちゃ一般的になっているのがホラーなんだと思います。

*5:「まで 【迄】」はてっきり格助詞と副助詞のブランチがあると思ったら、全部まとめて副助詞扱いでした。限度・限界を「格助詞とする説もある。」としています。

*6:「いる【居】」に「〔三〕補助動詞として用いられる。」としてブランチが立てられている一方で、〔連語〕の「て‐・いる」として立項されたりもしています。後者は「のついたもの」注記があって、何の複合であるのかも明示しています。

*7:「けっ‐こう 【結構】」の項は、名詞、形容動詞、副詞の3つのブランチが立てられています。

*8:「ば‐あい【場合】」(2)には、「ある物事が行なわれている、または起こりそうな、ちょうどその時・その場面。また、ある物事の置かれている、または、仮定する、その事情や情況。その事態。」という語釈はあるのですが、残念ながら、「◯◯的」であることの含意はありません。

*9:「まま 【儘・随】」にはこの名詞的用法(〔名〕)だけでなく、接続助詞(〔接助〕)の用法があることが記述されています。

*10:「し‐ま・う【仕舞・終・了】」に、「〔二〕補助動詞として用いる。」のブランチがあります。ちなみに、「ちゃ・う」は〔連語〕で、「助詞「て」に動詞「しまう」の付いた「てしまう」が「ちまう」を経て変化したもの」とあります。

*11:こういう、由来がよく分からないものには本記事の検索は弱いです。

*12:「よう‐だ【様─】」の語誌欄に、「「ようだ」は、形式名詞の「よう(様)」に断定の助動詞「だ」の結合したものである」とあります。語誌欄だと「結合」もいけるか~。

*13:「て 【手】」の〔語素〕のブランチだったり、「にない‐て【担手・荷手】」「やり‐て 【遣手】」のような複合語が名詞として1語で立項されていたりします。後者は〈品詞〉を「名詞」、〈見出し〉の〈後方一致〉を「手」とすると拾えます。これを見ていると、「預け手」「泳ぎ手」「咎め手」「広め手」「吹き手」「蒔き手」など(ニコニコ動画みたいな語が)羅葡日から多く採られているようですが、これは当時の「手」の生産性の高さを示すのか、それとも辞書の編纂過程によるものなのか、みたいな疑問も生まれます(この場合は後者なんですかね)。

*14:「える 【得・獲】」【二】に、「(動詞の連用形に付いて補助動詞のように用いられる)」とあります。分かりやすく、変化を含意した語釈です。

*15:「かき‐つら・ねる 【書連】」の立項はありますが、「連ねる」の方には複合動詞らしいブランチはありません。

*16:下の「として用い」で検索できる「い・く 【行・往】」の用法です。

*17:『日国』の「な‐がら 【乍】」の項は、品詞性(接語か接尾辞か)を問わずに先に意義分類を立てる方針で、記述の方針が面白いです。これは、品詞的には(名詞に付くので)接語的で、意味的には(当然ではあるがの意で)逆接的です。このまとめ方にすると、性質・資格を表す接語(神ながら)が同時性の接辞(食べながら)よりも早いことが分かりにくくなって、それはそれで難しいです。

*18:「「なにと」が「なんど」を経て変化したもの)」(な‐ど 【等・抔】)で、変化前の記述があります。

*19:'time (noun)' > temporal の「行為や状態を表わす連体修飾句を受け、形式名詞として用いる。」(とき 【時】)です。この記事のように探すよりは、「形式名詞」とかで全文検索する方が広いやすいと思います。比較の「より」は、奪格の「より」由来でしょうが、同じ〔格助〕扱いなので今回の探し方では出てきません。そもそも機能語機能語したやつはあんまり向いていないのかも。

*20:読みやすいものでは 大木2013:第2章 など

吉田雅子(2023.3)山梨方言終助詞シの用法と出自に関する考察

吉田雅子(2023.3)「山梨方言終助詞シの用法と出自に関する考察」『明星大学研究紀要. 人文学部・日本文化学科』31.

要点

  • 山梨方言の、命令形・禁止形に接続する終助詞シの用法と出自について考える。
  • 現代では、
    • 山梨西部・東部の全世代で使用される。奈良田には見られない。
    • 命令形、禁止形(チョ+シ)に後接し、命令・禁止のすべての用法(命令・依頼・勧め)でシが使用される。
  • 近世・近代では、
    • 甲州雑話見聞集(1843-)にアゲヨシ*1
    • 甲斐国方言集(1878以降?)に促音形のヨセッシイ
    • 甲斐方言考(下の三)(1906)にシヨシ
    • 松のしらべ(1925)に例が多く示され、
    • 山梨県方言の諸相(1934)に終助詞シの記述がある。
  • シの出自については以下の4説があり得るが、それぞれ以下表の問題がある。優位なのはカシ由来か。
    • シャル由来(シャレ>シャイ>セエ>シ、日国・日本方言大辞典説)
    • カシ由来
    • モシ・衆の文法化藤原与一説)
    • 接続助詞シ由来

p.121

雑記

  • 目が毎日しょぼしょぼする

*1:これ知らなくてめちゃびっくりした

林淳子(2023.3)江戸語のノ有り疑問文:多様な形式の使用実態

林淳子(2023.3)「江戸語のノ有り疑問文:多様な形式の使用実態」『日本語と日本語教育』51.

要点

  • 近世の疑問文全体に対する、準体助詞ノの参画のあり方を記述したい。
    • CHJ江戸時代編・会話文のうち、文末に近い箇所にノが現れる例を対象とする。
  • 洒落本の場合、判定要求疑問文(YNQ)にノカ、不明項特定要求疑問文(WhQ)にノダが使われるという、明確な文型の使い分けがある。
    • 客がきたからこつちのあくのをまたせてをくのか。/こうどけへいくのだ。(仕懸文庫)
  • 人情本においてもこの使い分けの傾向は変わらないが、以下の点が異なる。
    • 終助詞の種類が増えること
    • 丁寧体の文型(ノデスカ類)が加わること
  • こうした使い分けがある事情は、疑問文の種類が話し手の不確定感覚に基づく分類であることによる。すなわち、WhQは不明項があることをもって不確定感覚を示すことができるため、断定の形をとっても疑問文として成立するが、YNQは事態内容そのものが不確定感覚を含まないため、カを置く必要がある。
    • これは現代共通語でも同様(#昼ご飯は何を食べたのか?)であるが、
    • 丁寧体の場合はノカがWhQにも用いられる(昼ご飯は何を食べたんですか?)、すなわち、丁寧体ではノカ・ノダの使い分けが解消されるという点で、江戸語とは異なる。
      • WhQは不明項の存在ゆえにカが「なくてもいい」が、その存在が疑問文の存在を妨げるわけではない。ノデスカが明治期以降に使用領域を広げ、WhQにも用いられるようになったと見る。
  • 話者のキャラクタとの結びつきについて、
    • 現代共通語の場合、疑問文のノダ・ノカは話者のキャラクタが男性に限定されるが、
    • 江戸語の場合、
      • ノダ・ノカに終助詞がつかない場合は男性に、
      • 終助詞エがつく場合は女性に偏る。
        • (女性のノダ∅・ノカ∅は対使用人や叱責場面にのみ見られる)
      • また、丁寧体の文型はいずれも女性話者であり、
      • さらに、女性にはダ・カのないノ疑問文の使用があることも指摘される。
    • すなわち、男性話者の文型であるノカ・ノダに、他の要素を加えたり、要素を削ぎ落としたりしたものが女性話者の文型として使用されたと考える。

雑記

  • Adobe税から逃れるためにサブスク解除してみましたが、果たしてやっていけるのでしょうか

鶴橋俊宏(2018.11)滑稽本におけるノダとその周辺

鶴橋俊宏(2018.11)「滑稽本におけるノダとその周辺」『国学院雑誌』119(11).

要点

  • 滑稽本を化政・天保期の共時態として、ノダ周辺形式について調査する。
  • ノダの用法は以下のように(便宜的に)設定でき、現代語のノダと同様であったと言える。
    • 平叙文
      • 条件句を含まない
        • 状況との因果関係をもつもの:「説明」
        • 状況との因果関係をたないもの:「断定」 「命令」
      • 条件句を含む:「条件」…てめへたちは云て聞せるからいふのだア(浮世風呂2下)
    • 疑問文:「不定」/「ナゼ」
  • 長崎(1998)にも指摘がある通り、ノサも例があるが、断定は見出だせるものの、説明の例がなく、「ノサが題説構文に還元できるか否かはなお検討の余地がある」。ただし、「条件」(理由句を含むもの)の例はある。
  • 準体助詞のない「活用語ダ」は、(土屋によればノダに置き換え可能だが、)題説構文を構成する例はなく、ノダと等価とは言い難い。
  • 江戸語のノダロウは名詞句→原因理由の推量→ナゼ疑問文という順に発達するが、ナゼを伴う例は、江戸期ではダロウ・ノダロウが併存する。一方、ナゼ~ノダはあるのに対してナゼ~∅ダの例はない。このナゼ~ダロウの問題は、「疑問語疑問文がノを取るか否かの問題」ではなく、ダロウの側の問題として考えるのが妥当である。

雑記

  • ゼルダの嘘古文みたいなやつ、ゲーム体験として萎えるから監修つけて(もしくはさせて)ほしい
  • そういうのでいうと大神がワーストで、終始ノレなかったな

劉小妹(2020.3)名詞「かたわら」の文法化について : 『日本語歴史コーパス明治・大正編Ⅰ雑誌』の調査による

劉小妹(2020.3)「名詞「かたわら」の文法化について : 『日本語歴史コーパス明治・大正編Ⅰ雑誌』の調査による」『岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要』49. https://doi.org/10.18926/58143

要点

  • 名詞「かたわら」の文法化の状況について扱う。
    • 空間的な意味の拡張は、「物の側面→近接空間→近接空間にいる人→周辺部」という順序で江戸時代までに起こっていたようである。
  • 近代雑誌では以下の通り。

    p.28

  • 名詞用法の「かたわら」の中には後置詞とみてよいものがあり(「~のかたわら、~」)、無助詞を取るという点で従属接続詞の用法と近い。

  • 従属節の用法では、
    • 現代語はタを承けないのに対し(「~た一方」を使うところ)、近代は承ける例がある。
    • 現代語は人間の行為を表す動詞に偏るが、近代はそれよりも広く、「社会・経済・政治の情勢を表すもの」も承ける例がある。
  • 現代語にはない、副詞化した「かたわら」がある。
    • 主として、貧兒を教え、傍ら村人の爲めに、書状を認ため、もしくは、其の顧問に應ぜんとする也。(女学雑誌1895)

雑記

  • 文法学会のモWS、超よかった

幸松英恵(2020.3)事情を表わさないノダはどこから来たのか:近世後期資料に見るノダ系表現の様相

幸松英恵(2020.3)「事情を表わさないノダはどこから来たのか:近世後期資料に見るノダ系表現の様相」『東京外国語大学国際日本学研究』プレ創刊号.

要点

  • ノダ文研究の現状の前提として、
    • ノダ文の典型は〈事情説明〉であり、この機能は〈準体助詞ノ+断定辞ダ〉という組成によって文を《主題―解説》構造に持ち込むことによる。
    • 元の中心は換言用法で、ここから、隔たる2つの事態を結ぶ原因・理由用法に広がったと考えられる。
  • 一方、ノダの組成からは、「事情を表わさないノダ」(「いえいえ、いいんです」)が説明し難い。用法間の関係の整理のために、近世語における「事情を表さないノダ」の様相を明らかにしたい。
  • 疑問文の場合、江戸語ではノダによる疑問詞疑問文率が高く、ノ+終助詞には疑問詞疑問文は現れない。
  • 平叙文の場合、
    • ノダ・ノジャはすべて事情説明と言える例。
      • 金「そりやあ其筈でございやす 彼方の内証も貴君の働きでどのくらゐ金もうけを仕てゐるか知れやあ仕ません 惣「なに自己の働きといふわけじやあねへああ [どん〳〵拍子に金のまうかつた]のは[全あすこの家の福のある]のだ」(江戸・人「春色江戸紫」)
    • 一方、ノサには事情とは考えられない、題述構造をとらない例が多く現れる。
      • 話し手の評価判断:よね ぐつと干て「藤さん湯呑じやあ お否かへ 藤「随分いいのさ 。よね「よかあおあがりなさあ (江戸・人「春色梅児与美」)
      • 話し手の知識(の披瀝):佐「旦那この間ね。あなたがお出なすつたのを見とどけまして。ちよつぴり趣向してめへりましたら。もうあとのお祭りで。大きに鼻をあきましたのさ 」金「ははあさうだつたか。そいつあ残念だつけの。(江戸・人「仮名文章娘節用」)
    • 以下の根拠により、ノダ・ノジャと比して、ノサは終助詞的としての機能が強いと考える。
      • 命題述語の品詞が、ノダ・ノジャが動詞に偏るのに対し、ノサは形容詞・名詞述語の例も現れる。
      • 既に名詞的な要素にノサが付く例や、ノダ文に付く例(~のでございますのさ)がある。
      • 疑問詞疑問文に使われる例がない。
      • 連体節的意識の低い、敬体が含まれる(ますのさ・やすのさ)例がしばしば見られる。
  • このノサが消滅し、用法がノダに集約していったのではないか。
    • これは、サの消滅と、ダ・デスへの集約(長崎1998)と軌を一にするもの。
  • 事情を表すノダと事情を表さないノダは元来別形式で、それが一形式に集約されたと考えれば、現代語にこの2用法が併存する理由の説明がつく。

雑記

  • 少しずつインプットの時間を取り戻していきたい(主にゼルダから)

長尾光之(2006.10)中国語における文末疑問助詞の変遷

長尾光之(2006.10)「中国語における文末疑問助詞の変遷」『行政社会論集』19(2).

要点

  • 疑問の語気助詞の変遷を、以下の資料を対象として論じる。
  • 論語(春秋松~前漢、「古典中国語」)、史記前漢)は概ね同一で、「乎」が優勢
    • p.104
  • 漢訳仏典と世説新語(5C中心)は主に「不(否)」
    • 生経(3-4C):乎>耶>不
    • 雑宝蔵経:不
    • 百喩経:耶・不
    • 妙法蓮華経:不>耶>乎
  • 世説新語(5C):不が優勢
  • 盛唐以降の唐詩:「不」に代わって「無」が優勢になる。
    • 不の中古音は pɪə̆u または pʏə̆t であり、
    • 無は mʏu であったものが、唐代には非鼻音化することで mbʏu となり、音的類似によって*1不に替わったのではないか。
  • その後、語頭子音の軽唇音化により w- に変化したことで、磨・摩などが用いられるようになり、現代語の吗に繋がってゆく。

雑記

  • 隠遁したいね

*1:似てるのか?