ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

Kees Hengeveld and J. Lachlan Mackenzie. 2008. Functional Discourse Grammar: A Typologically-Based Theory of Language Structure

夏休みなので(まだだけど)趣向を変えて、以下の本をゆっくり読んでいきます*1Kindle版を買ったんですが、タブの揃えが少しおかしいので普通に本家のe-bookを買ったほうがいいと思います。

www.oxfordscholarship.com

しばらく新しい記事は増えずに、この記事がだんだん下に伸びていくことになります。でも夏休みのやる気なので、続かないかも……

1 Introduction

1.1 Functional Discourse Grammar

  • 章構成。1.2でFDGの特徴、1.3で FDGの構成、1.4で機能主義や類型論との関係性、1.5で表記法について述べて、1.6で本書の概観をする。

1.2 Basic properties

1.2.1 Introduction

  • FDGはトップダウン型で(1.2.2)、
  • 談話行為 Discourse Act(以下DA)を基本単位 unit とし(1.2.3)、
  • 語用論的・意味論的なプロパティだけでなく、形態統語論的・音韻論的な表現までを含み(1.2.4)、
  • 概念部門 Conceptual Component, 文脈部門 Contextual Component, 出力部門 Output Component と体系的にリンクする(1.2.5)*2

1.2.2 Top-down organization

  • FDGは、話者の意図からスタートして、articulation に至るまでを記述する
    • これは産出過程と相似的だが、発話をモデル化しているわけではなく、あくまでも心理言語学的なエビデンスを反映させているだけ
  • この構造の中で、Formulation と Encoding という2つの操作が行われる
    • Formulation は、語用・意味レベルでの構成要素の決定に関与し、
    • Encoding は、これを形態統語・音韻的に変換するルールに関与する
  • Formulation は以下の3つのプロセスから成る
    • Interpersonal Level と Representation Level の選択
    • そのフレームへの適切な語彙素の挿入
    • 演算子 operator の適用

1.2.3 Discourse grammar

  • 節より大きい単位でしか分析できない文法現象があり、
    • e.g. Tidore では表現中の最後の動詞を次の発話の頭で繰り返す
  • 一方、節より小さい単位でも談話指向の文法モデルは必要
    • e.g. (回答で)A donut. / Congratulations!
    • これはもともと non-clausal なのであり、節減少によるものではない。談話単位を構成すると認めた上で、ここまで含めて扱える方法を考える。
  • 談話の基本単位は節ではなくDAであり、DAは結合して、より大きな Move になる。
    • Move: the minimal free unit of discourse that is able to enter into an exchange structure.
    • DA: the smallest identifiable unit of communicative behaviour.

1.2.4 Levels of representation

  • 以下の4つのレベルを想定する。
    • Interpersonal Level
    • Representation Level
    • Morphosyntactic Level
    • Phonological Level
      • Formulation は前2者に、Encoding は後2者に関与し、
      • 文法体系の中で Encoding されていれば、それぞれのレベルにおいて(例えば I-level はコミュニケーション機能、R-levelは意味論的カテゴリの観点から)記述可能

1.2.5 Conceptual Component, Contextual Component, and Output Component

  • Fig.1 のような Component の構成を想定する。
    • これは、Levelt 1989 の音声生成プロセスのモジュール(Conceptualizer, Formulator, Articulator)に影響を受けている

1.3 The architecture of FDG

1.3.1 Overall organization

1.3.2 Levels and Layers

1.3.3 Primitives

1.3.4 Levels and primitives

1.3.5 Implementation

1.4 FDG in its broader context

1.4.1 Introduction

1.4.2 Functionalism

1.4.3 Typology

1.4.4 Language modelling

1.4.5 On using FDG

1.5 Notational conventions

1.6 Structure of the book

2 The Interpersonal Level

3 The Representational Level

4 The Morphosyntactic Level

5 The Phonological Level

*1:あくまでも「要約」ではなく「紹介」という体であり、翻訳でもありません。

*2:訳は適宜、瀬楽(2019、前記事)を参照

福島直恭(2020.3)後期江戸語の行為要求表現方式「ねえ」に関する一考察

福島直恭(2020.3)「後期江戸語の行為要求表現方式「ねえ」に関する一考察」『学習院女子大学紀要』22

要点

  • 江戸語で行為要求に使われるネエが、正面切って扱われたことはなかった
    • 機能と成立過程「にしか」関心がなかったのは問題である
  • 江戸洒落本・滑稽本人情本の調査、
    • ネエによる行為要求は、洒落本<滑稽本人情本の順で増え、
    • 使用者の性別の制限(洒落本ではすべて男性)もなくなる
  • 他の行為要求表現と比較すると、やはり人情本での使用が増えている(人情本ではそもそもの命令形の命令が減っている)
  • ネエを支えた要因、
    • ナサレとナサイ・ナセエの場合、二重母音VS長母音という対立の中でナサイ・ナセエが ai と eː の併存状態の一環として位置付けられたことが、ナサイが標準的になれた要因であると考えた(福島2016)が、
    • ネエの場合はその元となるはずのナイは文献に現れないので、ナがその対立相手であったと考える
      • 「いわば擬似的な連接母音形式と長母音形式の関係ともいえるものだったのではないか」(p.100)
  • ナとネエについて、
    • ネエとナは、話者によって相補的な分布を示すことがある
    • ナはナサイの省略であるが、ナサイはナセエとの「文体的対立関係を維持する方が重要であった」し、
    • ネエは文体的対立を示すはずのナイの使用が広がっていなかったので、ナ・ネエのどちらも不安定な非標準形式であると言え、
    • この2つが擬似的なペアを形成することでそれぞれの存在意義を得て、ポジション維持することができたのではないか*1
  • その後、
    • ナは現代語にも残るが、ネエは残らない(ただし、ナの使用者層は異なる)
    • なお、ネエの記述は「権威のある言語体系にかかわる言語事象に直接関与する要素とは考えにくい」ために軽視されているものと思われるが、そのバイアスは取り除かれるべきである*2

雑記

  • 言いたいことが先行しないようにするためには、言いたいことを一旦なくすのがいいのかな

*1:必ずしも組として排他的なペアを構成しなくても良いのでは?ある語が体系Aと体系Bに跨っていたとして、困ることがあるんだろうか

*2:日本語史研究がその「中央語の視座」側からしか行われるという傾向にあるとして、「ネエの研究がなかったこと」は必ずしも日本語史研究全体が中央語の視座からしか行われてこなかったことの根拠にはならないだろう。そこだけ取り立てて「これまでの研究は」と言われても、果たしてそうなんかな…と思ってしまう。というのと、あと、福島2016あたりから増訂江戸言葉を湯澤1991としているのは直したほうがよいのではないか、1991まで生きてたらよかったのに。

瀬楽亨(2019.11)機能的談話文法における日本語の文法記述に向けて

瀬楽亨(2019.11)「機能的談話文法における日本語の文法記述に向けて」『日本語文學 (Journal of the Society of Japanese Language and Literature, Japanology)』87

要点

  • 機能的談話文法(FDG)の日本語への適用を考える
  • FDGのコミュニケーションモデルは以下の4つの部門から成る
    • 概念部門(Conceptual Component): 伝達意図(試験は赤点だったようです
    • 文脈部門(Contextual Component): 発話状況や会話参与者の社会関係など(あそこの[←男性であるから選択されている]、ごきげんだね)
    • 文法部門(Grammatical Component)
    • 出力部門(Output Component)

f:id:ronbun_yomu:20200724144648p:plain
p.66

  • 文法部門は以下の4つのレベルに分かれる
    • (1)対人レベル/(2)表示レベル/(3)形態統語レベル/(4)音韻レベル
    • 各レベルの表示は上位レベルの表示をもとに構築される
    • f:id:ronbun_yomu:20200724144713p:plain
      p.67
  • このうち、「対人レベル」の概念の有効性について考える。対人レベルは以下の4つの階層と<単位(unit)>を持ち、単位の情報はhead, modifier, operatorから構成される
    • 第一の階層:<ムーブ>(Move, 問いかけ・応答)
    • 第二の階層:<談話行為>(Discourse Act)
    • 第三の階層:<発話内行為>(Illocutionary Act)、<会話参与者>(Speech Participant)、<伝達内容>(Communicated Content)
    • 第四の階層:<帰属的な下位行為>(Ascriptive Subact)、<指示的な下位行為>(Referential Subact)
  • 対人レベルでの記述が見込まれる現象として、
    • <ムーブ>の層構造では、「要点をまとめると」が<ムーブ>に、「要するに」が<ムーブ>の主部である<談話行為>に関わるという基準で区別することができ、
    • <談話行為>の層構造では、「17日だっけ?」「、なんかライブが~」のような格助詞の非規範的な使用が<談話行為>に寄与する表現として捉えられ、
    • <発話内行為>の層構造では、「〜系」や「〜ぽい」などの「ぼかし」が、発話ない行為を弱める手段として指摘でき、
    • <下位行為>の層構造では、「激しく」の正確性指標としての用法(激しく正解でした)を<帰属的な下位行為>として記述できる
    • (詳しい議論は元論文参照)
  • (4節は層構造の形式化について)

雑記

  • 変化の記述にFDGが有効なんじゃないかと思う…夏休みだし勉強してみようかな
  • …と思い、しばらく一日一本ペースをやめて一記事に Kees Hengebeld 2008 FDG~ のことを書いていこうかなと思って今更気づいたのですが、
  • そもそも論文を要約(して紹介?)するのって法的にOKなんか?

www.bengo4.com

www.bengo4.com

www.bengo4.com

www.bengo4.com

www.bengo4.com

  • うーん……

衣畑智秀(2004.12)古代語・現代語の「逆接」:古代語のトモ・ドモによる意味対立を中心に

衣畑智秀(2004.12)「古代語・現代語の「逆接」:古代語のトモ・ドモによる意味対立を中心に」『語文』83

要点

  • 古代語で、トモは仮定条件、ドモは恒常条件と確定条件を表し、現代語で、テモは仮定条件・恒常条件、ケドは確定条件を表す。このことについて考える
  • 現代語のテモとケドは情報の処理単位によって形式が分化し(衣畑2005)、「仮定・確定といった意味的な分類には無頓着」である
    • テモは前件と後件が一つの処理単位で、ケドは前件と後件が独立した処理単位である(南1993のテモはB類・ケドはC類とする分類と対応)
    • 一方で、古代語のドモは連体節内(??呼ばないけど来てくれた人たち)にも現れるし、B類の用法も持つ
  • トモと仮定条件について考える
    • トモが「現実の事態」でも用いられる(大わだ淀むとも:万31)ことを「事実を仮定にしている」「強調」などと説明することがあるが、「テモが使われている」ことに基づくものであり、循環論法である
    • 「仮定条件」の指す範囲を考えるために、以下(5)のような「情報の仮定可能性」のスケールを設定し、
    • f:id:ronbun_yomu:20200722180334p:plain
      p.52
    • また、後件の要件として、前件の仮定から得られた情報でなければならない(前件の仮定の推論と無関係に真であるということはない)という制約があることを確認しておく
  • このように考えたとき、トモの前件は「仮定」の範囲に収まると考えられる
    • 言問はぬ木にはありとも(811)は前件が「聞き手」に属するが、これは「事実を聞き手を通して間接的に構成する」ことで仮定的に述べるもの
    • 「事実」とされる「大わだ淀む」も、擬人的な例かもしれず、どの例も後件は全て推論の結果である
  • ドモは恒常・確定とされるが、曖昧である
    • 巡り見れど飽かずけり(4049)はテモ相当だが一回的で「恒常」ではなく、
    • 梓弓引かばまにまに寄らめども後の心を知りかてぬかも(98)も「事実」という意味での「確定」ではない
    • ドモは前件と後件の対立を表しただけで、仮定・恒常・確定といった意味についても無標であったと考える
      • このように考えることで、「タトヒ戒ヲヤブレドモ」(三宝絵)のような例*1も、有標形式との対立が弱まったことによって説明可能

雑記

  • 毎週講義作ってるときはまだ無限に先があるように感じるのに、いつの間にか半年が終わっているのはなぜなのか

*1:「中世に見られる次のような例」としているが…?

衣畑智秀(2005.4)日本語の「逆接」の接続助詞について:情報の質と処理単位を軸に

衣畑智秀(2005.4)「日本語の「逆接」の接続助詞について:情報の質と処理単位を軸に」『日本語科学』17

要点

  • ノニ・ケド・テモを適切に記述するための枠組みを考えたい
    • 従来説はノニの「予想」とケド・テモの「予想」の差異を説明し得ない
  • 以下の概念を導入する
    • 「知識」(個々人の中の情報)と「文脈」(知識よりもより一般的な情報)
    • 処理単位(processing unit):新しい情報と既存の情報との関連性どの単位で処理するか、ここでは、「文全体が処理単位となって,文脈仮定を強化したり否定したりしている」と考える
  • ノニは知識を否定し、ケド・テモは文脈を否定する
    • 「雪が降っているのに父は出かけた」は、「雪が降っている→出かけない](ので、父も出かけない)という推論による個人的な知識を否定する
    • ノニ文の後件に意志・命令・推量が来ないのは、自分の知識で自分の知識を否定するのはあり得ないから
  • ケドとテモは情報の処理単位により形式が分化している
    • ケドは前件と後件が独立した情報であり、
      • ケドは前件だけで文脈含意の導出を行うことができる:太郎は経済学者ではないけど、ビジネスマンだ。
    • テモは前件と後件が一つの情報である
      • テモの前件には文脈仮定の機能がない:*太郎は経済学者ではなくても、ビジネスマンだ。
    • なお、古代語のトモ・ドモの対立は「仮定などの意味による対立」であり(衣畑2004)、ケド・テモは処理単位による分化である

    f:id:ronbun_yomu:20200722175321p:plain
    p.59

雑記

  • これすごく大事だな

next49.hatenadiary.jp

衣畑智秀(2001.12)いわゆる「逆接」を表すノニについて:語用論的意味の語彙化

衣畑智秀(2001.12)「いわゆる「逆接」を表すノニについて:語用論的意味の語彙化」『待兼山論叢 文学篇』35

要点

  • ノニとケドの差異2点に対する説明は「逆接」のカテゴリーでは十分に行えない
    • 違和感・意外感
    • 後件が既実現:雪が降っている{けど/*のに}でかけ{なさい/よう}
  • 結論先取り、「ノニは「逆接」というカテゴリーの一部を特殊化させたというよりも、違和感や不満を感じる、人の経験的側面を語彙の中に反映させている」
    • 丹羽(1998)の「前件・後件の対立」を、「話し手の知識(一般的な推論)と現実の事態」の対立であると考える
      • というのも、感情的な概念はノニ文に関係なくあるものであるから、条件文とは独立に説明しなければならない
  • 違和感・意外感・不満を一般化すると、
    • 推論による仮定(雪が降っている→出かけない)や期待(待ち合わせする→現れる)と現実は矛盾することがあり、その現実に対して人は意外感・不満を抱く
    • すなわち…

f:id:ronbun_yomu:20200721183601p:plain
p.24

  • 「この心的状態にあるときにノニ文が発話される」と考えたときに説明できること
    • 後件が既実現事態に限られるのは、違和感・意外感、不満を感じさせる事態が、既に成立している事態でなければならないから
    • 接続助詞用法とされてきたものは前件ノニによって、後件で違和感・不満を感じる事態として聞き手に提示する機能を持ち、
    • 終助詞とされてきたものもまた同様の帰納を持つが、発話者の態度、評価を表すニュアンスが強くなるものと解釈できる
    • 「違和感」類はノニでなくても提示できる(こんな早い時間に…、cf.田野村1989「述語省略文」)が、ノニは、「個々の語彙や文脈によって表現されるような語用論的な意味を、語彙の意味として定着させている」と言える

雑記

  • いいとも以来見てないもの…ノニジュース

森脇茂秀(2000, 2001)希望の助辞「もがな」「がな」をめぐって

森脇茂秀(2000.12)「希望の助辞「もがな」「がな」をめぐって(一)」『別府大学国語国文学』42 森脇茂秀(2001.3)「希望の助辞「もがな」「がな」をめぐって(二)」『山口国文』24

要点

  • シカ系・カシは「詠嘆的希望表現」から「主体的希望表現」へと変容することによって衰退していったと考えられる*1が、
  • モガ系はガナとなって近世まで残る。このことについて考える
  • 中世前期において、
    • 前代と同じ詠嘆的希望表現もあれば、
    • 中世語的な副詞句との呼応(あはれ~がな)もあり、
    • 不定語ガナ~。の副助詞的用法もある
  • 中世後期には「不定語+ガナ~」の副助詞的用法が主用法となる
    • 特に、「~ガナ~ウ」という共起が多い
    • この変化は、 ~かし。>さぞかし と並行的に捉えられる*2

雑記

  • よくわかんないと逆に読むのに時間かかったりする

*1:どういう因果?

*2:希求の方のカシじゃなくてゾカシ由来だから、これは違うだろう