ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

方言

吉田雅子(2023.3)山梨方言終助詞シの用法と出自に関する考察

吉田雅子(2023.3)「山梨方言終助詞シの用法と出自に関する考察」『明星大学研究紀要. 人文学部・日本文化学科』31. 要点 山梨方言の、命令形・禁止形に接続する終助詞シの用法と出自について考える。 現代では、 山梨西部・東部の全世代で使用される。奈良…

舩木礼子(2000.10)幕末以降の土佐方言における意志表現・推量表現形式の変化

舩木礼子(2000.10)「幕末以降の土佐方言における意志表現・推量表現形式の変化」『地域言語』12. 要点 土佐方言の意志・推量のロウについて、武市瑞山書簡と『土佐の方言』によって確認したい。 幕末において、 意志・勧誘:未然形ウが多く、一段動詞の場…

前田桂子(2017.3)近世長崎文献より見る接続詞バッテンの成立について

前田桂子(2017.3)「近世長崎文献より見る接続詞バッテンの成立について」『国語語彙史の研究36』和泉書院. 要点 バッテンの成立についてはバトテ説が一般的であるが、以下の問題がある。 意味の不連続性と、 バトテが已然形に接続する一方で、バッテンが終…

白田理人(2022.8)北琉球奄美喜界島北部方言の確認要求表現:視覚動詞命令形由来の形式を中心に

白田理人(2022.8)「北琉球奄美喜界島北部方言の確認要求表現:視覚動詞命令形由来の形式を中心に」『西日本国語国文学』9. 要点 喜界島に見られる以下の確認要求・同意要求表現(三宅2017)のうち、 小野津方言の -sumïː と 志戸桶方言の =miri について記…

篠崎久躬(1996.10)江戸時代末期長崎地方の文末助詞「ばい」と「たい」

篠崎久躬(1996.10)「江戸時代末期長崎地方の文末助詞「ばい」と「たい」」『長崎談叢』85. (篠崎久躬(1997.5)「文末助詞:「ばい」と「たい」」『長崎方言の歴史的研究:江戸時代の長崎語』長崎文献社 による) 要点 当期の長崎方言資料には、バイ・タ…

篠崎久躬(1993.3)江戸時代末期長崎地方の推量・尊敬の助動詞

篠崎久躬(1993.3)「江戸時代末期長崎地方の推量・尊敬の助動詞」『紀要(長崎県立長崎南高等学校)』26. (篠崎久躬(1997.5)「助動詞:推量と尊敬」『長崎方言の歴史的研究:江戸時代の長崎語』長崎文献社 による) 要点 当期の長崎方言の助動詞について…

前田桂子(2016.11)肥前方言の当為表現ンバの推移について:方言書および方言調査を手がかりに

前田桂子(2016.11)「肥前方言の当為表現ンバの推移について:方言書および方言調査を手がかりに」『国語と教育』41. 要点 長崎方言のンバ(<ネバ)が現代では当為表現に偏る(一般的な条件表現に用いられにくい)ことに着目しつつ、その推移について記述…

篠崎久躬(1964.3)幕末期佐賀地方に於ける「カ」語尾:『滑稽洒落一寸見た夢物語』を中心にして

篠崎久躬(1964.3)「幕末期佐賀地方に於ける「カ」語尾:『滑稽洒落一寸見た夢物語』を中心にして」『国語学』56. 要点 幕末佐賀方言資料の形容詞のカ語尾について、 形容詞終止形・連体形(イ)の箇所に広く用いられる。 「青ヲかきれの赤アかきれのテ」*1…

篠崎久躬(1962.12)幕末期佐賀地方の助詞:「滑稽洒落一寸見た夢物語」を中心にして

篠崎久躬(1962.12)「幕末期佐賀地方の助詞:「滑稽洒落一寸見た夢物語」を中心にして」『語文研究』15. 要点 『滑稽洒落一寸見た夢物語』、『伊勢道中不案内記』を用いて幕末期佐賀の助詞の記述を行う。 ガ・ノ: 一人称にガ、二人称にノ(軽蔑する場合に…

岩田美穂(2018.1)近世末期佐賀方言資料にみられる条件表現

岩田美穂(2018.1)「近世末期佐賀方言資料にみられる条件表現」『就実表現文化』12.*1 要点 佐賀方言の条件表現の史的調査を行う。 有田(2007)の枠組み(予測的、認識的、半事実的、総称的、事実的)に拠る。 現代佐賀方言のついての記述によれば、 ギが…

山本淳(2003.6)近世庄内方言の文末助辞ケ

山本淳(2003.6)「近世庄内方言の文末助辞ケ」『米沢国語国文』32. 要点 近世庄内郷土本を用いて、文末助辞ケの用法を(渋谷1999と比較しつつ)調査する。 形式的な面から、 状態用言はル形のみ、動作・変化動詞はル・タに接続し、江戸語・東京語より接続先…

渋谷勝己(1999.10)文末詞「ケ」:三つの体系における対照研究

渋谷勝己(1999.10)「文末詞「ケ」:三つの体系における対照研究」『近代語研究10』武蔵野書院. 要点 文末詞ケについて、現代東京方言、山形市方言、江戸語の間で対照を行い、山形市方言の用法が広く、東京方言の用法が限定的であることを示す。 東京方言の…

山本淳(2000.3)近世庄内地方の洒落本類における助詞サをめぐって

山本淳(2000.3)「近世庄内地方の洒落本類における助詞サをめぐって」『山形方言」32. 要点 庄内郷土本(洒落本)4種を使用して、近世庄内の格助詞サ・エ・ニの用法を分析すると、以下の通り。 p.15 サは共通語のエに共通する要素を持ち、ニの領分に進出・…

西尾純二(2002)秋田県鳥海町方言の推量表現形式「ガロ」と関連形式の用法

西尾純二(2002)「秋田県鳥海町方言の推量表現形式「ガロ」と関連形式の用法」『消滅に瀕した方言語法の緊急調査研究(2)』 要点 推量形式ガロと周辺形式について、 現在の肯定・否定の推量には多くがガロ、過去推量にはタロ・ダロが回答される 形容動詞を…

村中淑子(2015.3)明治小説にみる京都方言:清水紫琴「心の鬼」(明治30年)を資料として

村中淑子(2015.3)「明治小説にみる京都方言:清水紫琴「心の鬼」(明治30年)を資料として」『現象と秩序』2. 要点 清水紫琴(1868-1933)による関西方言小説「心の鬼」(文芸倶楽部3(2)、M30)が、明治期の京都方言資料として有用であることを示す 待遇表…

久保薗愛(2022.1)鹿児島方言史における準体助詞の発達

久保薗愛(2022.1)「鹿児島方言史における準体助詞の発達」『中部日本・日本語学研究論集』和泉書院. 要点 鹿児島方言の準体助詞トの発達について、以下の5点を主張する 18C初頭(ロシア資料)にトは見られるが、コト準体、~ニの環境ではゼロ準体も見受け…

村上謙(2010.10)明治大正期関西弁資料としての上司小剣作品群の紹介および否定表現形式を用いた資料性の検討

村上謙(2010.10)「明治大正期関西弁資料としての上司小剣作品群の紹介および否定表現形式を用いた資料性の検討」『近代語研究15』 武蔵野書院. 要点 上司小剣(1874-1948)の『鱧の皮』などの関西弁小説が、落語SPレコードと同様、近代関西弁資料として有…

櫻井真美(2002.11)山形市方言の条件表現形式「ドギ」

櫻井真美(2002.11)「山形市方言の条件表現形式「ドギ」」『言語科学論集』6. http://hdl.handle.net/10097/30744 要点 山形市方言のドギ(時)は、仮説的用法を持つ 疲れているトキ、もう寝なさい。(1)/ツカレッタドギ、モウネロー。(1)' 本来のドギ…

大西拓一郎(1999.11)新しい方言と古い方言の全国分布:ナンダ・ナカッタと打消過去の表現をめぐって

大西拓一郎(1999.11)「新しい方言と古い方言の全国分布:ナンダ・ナカッタと打消過去の表現をめぐって」『日本語学』18(13) GAJ151の打消過去の分布と中央語史を比較したい p.100 GAJ151「行かなかった」では、 東にナカッタ、西にナンダ ナンダ類を囲むよ…

藤原あかね(2021.3)静岡県中部方言における推量表現「ラ」「ダラ」について

藤原あかね(2021.3)「静岡県中部方言における推量表現「ラ」「ダラ」について」『阪大社会言語学研究ノート』17. 要点 先行研究の指摘と話者(若年層)の内省とのズレ4点を踏まえつつラ・ダラの用法を記述したい 現在は、ズラ・ダズラ・ツラが使用されな…

ローレンス・ウエイン(2011.10)琉球語から見た日本語希求形式=イタ=の文法化経路

ローレンス・ウエイン(2011.10)「琉球語から見た日本語希求形式=イタ=の文法化経路」『日本語の研究』7(4). 要点 本土日本語の=イタシ(タシ)には以下の経路が想定されているが、2つ目の変化は類型的には支持されない 痛し > 甚し > 希望 琉球語鳩間…

kepler.gl でGAJのデータをお手軽に可視化する

前提 WALS Online みたいなことが、方言文法全国地図(GAJ)でもできたらいいなあと思った。例えば、ズームできたり、クリックすると地点情報が出てきたり、フィルタがかけられたりしたらなんだか嬉しい。 kepler.gl というUberが公開しているオープンソース…

小田佐智子(2016.3)岐阜方言の原因・理由に表れるモンデ

小田佐智子(2016.3)「岐阜方言の原因・理由に表れるモンデ」『阪大社会言語学研究ノート』14 要点 岐阜のモンデの形式的・意味的特徴の記述、 形式的特徴、 デ・モンデのいずれも終止形接続(あるデ/モンデ)だが、モンデは連体形接続(簡単なモンデ)も…

金沢裕之(1995.5)可能の副詞「ヨー」をめぐって

金沢裕之(1995.5)「可能の副詞「ヨー」をめぐって」『国語国文』64(5) 要点 関西~中国・四国のヨーの歴史を明らかにしたい 江戸後期以降の調査、 戯作にヨーの例はなく(一荷堂半水作に偏るため?)、エは洒落本にのみ例あり 能力可能、外的条件可能、心…

三宅俊浩(2019.12)近世後期尾張周辺方言におけるラ抜き言葉の成立

三宅俊浩(2019.12)「近世後期尾張周辺方言におけるラ抜き言葉の成立」『日本語の研究』15(3) 要点 尾張のラ抜きについて論じたい 使用率の高い中国四国・東海東山が不連続であり、京阪・東京では使用率が低く、中央語史の観察だけでは成立過程の解明が困難…

内間直仁(1985.3)係り結びのかかりの弱まり:琉球方言の係り結びを中心に

内間直仁(1985.3)「係り結びのかかりの弱まり:琉球方言の係り結びを中心に」『沖縄文化研究』11 要点 中央語の係り結び衰退の要因は明らかでないが、琉球語が示唆する点がある 琉球の活用形について2点、 奄美・沖縄では終止形、連体形、du係結形が概ね区…

市岡香代(2005.3)栃木県岩舟町方言における意志・推量表現形式「べ」の用法

市岡香代(2005.3)「栃木県岩舟町方言における意志・推量表現形式「べ」の用法」『日本語研究(都立大)』25 要点 ベ一形式で意志・推量を表す地域と意志にベ・推量にダンベを分担する地域があり、標題地域はその境界にあたる 形態的特徴、 名詞・形容動詞…

高木千恵(2005.3)大阪方言の述語否定形式と否定疑問文:「〜コトナイ」を中心に

高木千恵(2005.3)「大阪方言の述語否定形式と否定疑問文:「〜コトナイ」を中心に」『阪大社会言語学研究ノート』7 要点 大阪方言における分析的な否定形式コトナイと、否定疑問形式コトナイカについて考える 述語の否定形式は以下の通りで、 p.74 これら…

舩木礼子(1999)意志・推量形式「べー」の対照:用法変化の推論

舩木礼子(1999)「意志・推量形式「べー」の対照:用法変化の推論」『待兼山論叢 日本学篇』33 要点 ①福島県喜多方、②宮城県鳴瀬、③秋田県大館、④秋田県五城目、⑤静岡県沼津、⑥兵庫県稲美の6地点のベーを対照する 接続において、 ①②③④はほぼ一段・カ変・サ…

木部暢子(2019.3)諸方言コーパスに見るモダリティ形式のバリエーション:推量表現の地域差

木部暢子(2019.3)「諸方言コーパスに見るモダリティ形式のバリエーション:推量表現の地域差」田窪行則・野田尚史(編)『データに基づく日本語のモダリティ研究』くろしお出版 要点 COJADSモニター版を使って諸方言の推量表現を整理する 述語のタイプ(名…