ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

2022-10-01から1ヶ月間の記事一覧

高山善行(1997)否定推量の諸相

高山善行(1997)「否定推量の諸相」『大手前女子大学論集』31. 要点 ジ・マジがある中で、ザラムが必要とされた理由と、ザラム・ザルラムとの関係について考えたい。 小松(1961)に「ザラムがジの文中用法の欠如を補完している」という指摘がある。 ザラム…

菊池そのみ(2022.3)〈付帯状況〉を表す「形容詞+まま」の史的展開

菊池そのみ(2022.3)「〈付帯状況〉を表す「形容詞+まま」の史的展開」『論究日本近代語2』勉誠出版. 要点 形容詞+ママ(ニ・デ)を以下の分類に分けると、現代語にはAとBがあるが、中古にはAしかない。 A〈随意〉:草葉につけてかなしきままに、…つゆ寝…

ジェネリック『文法と意味Ⅱ』をつくろう

尾上圭介(近刊)『文法と意味Ⅱ』はもう20年ほど「近刊」となっていて、そのこと自体がややネタと化している。 editech.hatenablog.jp 『文法と意味Ⅱ』(近刊)— ネコチャンマンくん (@nekotyanmankun) 2021年2月25日 今日はメリークリスマス!ですね(^^)私は…

片山鮎子(2022.3)宮内庁書陵部蔵『論語抄』の原因理由を表す接続形式について:ヲモッテ・ニヨリ・ニヨッテ・已然形+バ・ホドニ

片山鮎子(2022.3)「宮内庁書陵部蔵『論語抄』の原因理由を表す接続形式について:ヲモッテ・ニヨリ・ニヨッテ・已然形+バ・ホドニ」『岡大国文論稿』50. 要点 笑雲清三・宮内庁書陵部蔵「論語抄」(1514成立、1600写)を対象に、以下の5形式の調査を行う。…

杉山俊一郎(2012.5)中古和文における〈原因・理由〉を表す複合助詞の意味記述試論

杉山俊一郎(2012.5)「中古和文における〈原因・理由〉を表す複合助詞の意味記述試論」『論輯(駒澤大学)』40. 要点 中古和文における、アマリニ・ニツケテ・ユヱニ・ニヨリテの4種について、 意味関係の明示性に、以下の2類が認められる。 Ⅰ明示性が弱い…

釘貫亨(1999.12)断定辞ナリの成立に関する補論:万葉集と宣命を資料として

釘貫亨(1999.12)「断定辞ナリの成立に関する補論:万葉集と宣命を資料として」『日本語論究6 語彙と意味』和泉書院. 要点 前稿(釘貫1999)の結論を踏まえ、ナリがニアリから分離する過程を具体的に推定する。 タリ・ナリはともに連体修飾に集中し、ニアリ…

釘貫亨(1999.7)完了辞リ、タリと断定辞ナリの成立

釘貫亨(1999.7)「完了辞リ、タリと断定辞ナリの成立」『万葉』170. 要点 「どのような文法的条件によってテアリからタリが、ニアリから断定ナリが、また動詞+アリからリを生起したのか」について考える。 タリ・テアリについては、以下の特徴が認められる…

山田潔(2021.12)『玉塵抄』の勧誘表現:「~たらば良からう」「~て良からう」

山田潔(2021.12)「『玉塵抄』の勧誘表現:「~たらば良からう」「~て良からう」」『抄物の語彙と語法』清文堂出版. 要点 玉塵抄には以下の2種類の勧誘表現(ここでは、「発話者が対者に行為の実行を求める表現」を含む、ややこしいので以下、「勧め」とし…

金沢裕之(1991.12)明治期大阪語資料としての落語速記本とSPレコード:指定表現を中心に

金沢裕之(1991.12)「明治期大阪語資料としての落語速記本とSPレコード:指定表現を中心に」『国語学』167. 要点 明治期中期の速記本、末期の落語SPレコードが、明治期大阪語の資料として有用であることを示す。 コピュラのヤを事例とすると、 近世末期(穴…

吉野政治(1990.7)上代のタメについて

吉野政治(1990.7)「上代のタメについて」『万葉』136. 要点 形式名詞タメは、上代において将来の利益・目的・目標を示し、中古以後に漢文訓読の影響によって受身・原因・理由を表すようになったというのが通説である(岩波古語、時代別など)が、上代のタ…

白田理人(2022.8)北琉球奄美喜界島北部方言の確認要求表現:視覚動詞命令形由来の形式を中心に

白田理人(2022.8)「北琉球奄美喜界島北部方言の確認要求表現:視覚動詞命令形由来の形式を中心に」『西日本国語国文学』9. 要点 喜界島に見られる以下の確認要求・同意要求表現(三宅2017)のうち、 小野津方言の -sumïː と 志戸桶方言の =miri について記…

篠崎久躬(1996.10)江戸時代末期長崎地方の文末助詞「ばい」と「たい」

篠崎久躬(1996.10)「江戸時代末期長崎地方の文末助詞「ばい」と「たい」」『長崎談叢』85. (篠崎久躬(1997.5)「文末助詞:「ばい」と「たい」」『長崎方言の歴史的研究:江戸時代の長崎語』長崎文献社 による) 要点 当期の長崎方言資料には、バイ・タ…

篠崎久躬(1993.3)江戸時代末期長崎地方の推量・尊敬の助動詞

篠崎久躬(1993.3)「江戸時代末期長崎地方の推量・尊敬の助動詞」『紀要(長崎県立長崎南高等学校)』26. (篠崎久躬(1997.5)「助動詞:推量と尊敬」『長崎方言の歴史的研究:江戸時代の長崎語』長崎文献社 による) 要点 当期の長崎方言の助動詞について…

前田桂子(2016.11)肥前方言の当為表現ンバの推移について:方言書および方言調査を手がかりに

前田桂子(2016.11)「肥前方言の当為表現ンバの推移について:方言書および方言調査を手がかりに」『国語と教育』41. 要点 長崎方言のンバ(<ネバ)が現代では当為表現に偏る(一般的な条件表現に用いられにくい)ことに着目しつつ、その推移について記述…

菅原範夫(1989.12)栄花物語の口語的一側面:連体形・巳然形終止などから

菅原範夫(1989.12)「栄花物語の口語的一側面:連体形・巳然形終止などから」『高知大国文』20. 要点 栄花物語には以下のような口語的(中世的)要素が認められる。 地の文のハベリの使用:御おぼえも日頃におとりにけりとぞ聞こえ侍し。 筆録者が読者に対…

篠崎久躬(1964.3)幕末期佐賀地方に於ける「カ」語尾:『滑稽洒落一寸見た夢物語』を中心にして

篠崎久躬(1964.3)「幕末期佐賀地方に於ける「カ」語尾:『滑稽洒落一寸見た夢物語』を中心にして」『国語学』56. 要点 幕末佐賀方言資料の形容詞のカ語尾について、 形容詞終止形・連体形(イ)の箇所に広く用いられる。 「青ヲかきれの赤アかきれのテ」*1…

篠崎久躬(1962.12)幕末期佐賀地方の助詞:「滑稽洒落一寸見た夢物語」を中心にして

篠崎久躬(1962.12)「幕末期佐賀地方の助詞:「滑稽洒落一寸見た夢物語」を中心にして」『語文研究』15. 要点 『滑稽洒落一寸見た夢物語』、『伊勢道中不案内記』を用いて幕末期佐賀の助詞の記述を行う。 ガ・ノ: 一人称にガ、二人称にノ(軽蔑する場合に…

岩田美穂(2018.1)近世末期佐賀方言資料にみられる条件表現

岩田美穂(2018.1)「近世末期佐賀方言資料にみられる条件表現」『就実表現文化』12.*1 要点 佐賀方言の条件表現の史的調査を行う。 有田(2007)の枠組み(予測的、認識的、半事実的、総称的、事実的)に拠る。 現代佐賀方言のついての記述によれば、 ギが…

山本淳(2003.6)近世庄内方言の文末助辞ケ

山本淳(2003.6)「近世庄内方言の文末助辞ケ」『米沢国語国文』32. 要点 近世庄内郷土本を用いて、文末助辞ケの用法を(渋谷1999と比較しつつ)調査する。 形式的な面から、 状態用言はル形のみ、動作・変化動詞はル・タに接続し、江戸語・東京語より接続先…

渋谷勝己(1999.10)文末詞「ケ」:三つの体系における対照研究

渋谷勝己(1999.10)「文末詞「ケ」:三つの体系における対照研究」『近代語研究10』武蔵野書院. 要点 文末詞ケについて、現代東京方言、山形市方言、江戸語の間で対照を行い、山形市方言の用法が広く、東京方言の用法が限定的であることを示す。 東京方言の…

山口翔平(2022.3)『万葉集』における動詞「さす」の意味用法:上代における自他両用動詞の一例

山口翔平(2022.3)「『万葉集』における動詞「さす」の意味用法:上代における自他両用動詞の一例」『国文学』106. 要点 上代において既に自他両用である多義的な動詞サス(光がさす/針をさす)を事例として、古代語の自他両用動詞について考える。 用法整…

山本淳(2000.3)近世庄内地方の洒落本類における助詞サをめぐって

山本淳(2000.3)「近世庄内地方の洒落本類における助詞サをめぐって」『山形方言」32. 要点 庄内郷土本(洒落本)4種を使用して、近世庄内の格助詞サ・エ・ニの用法を分析すると、以下の通り。 p.15 サは共通語のエに共通する要素を持ち、ニの領分に進出・…

大坪併治(1982.5)原因・理由を表はす文末のバナリについて

大坪併治(1982.5)「原因・理由を表はす文末のバナリについて」『訓点語と訓点資料』67. 要点 以下の已然形バ+ナリが、上代にはなく、中古には和歌、和文(散文)、訓読文に見られる。この文体間の差について、比較考察を行う。 吹く風の色の千種に見えつ…

野村剛史(2015.1)中古の連体形ナリ:『源氏物語』を中心に

野村剛史(2015.1)「中古の連体形ナリ:『源氏物語』を中心に」『国語国文』84(1). 要点 中古のナリ文と現代のノダ文の対照を行う。*1 まず、連体ナリについての数値的な事柄、 推定的要素がつくナリ文が全体の約55% ナリ文の準体部分はコト準体が多いが、…

野村剛史(2015.5)通時態から共時態へ:その2(ノダ文・ナリ文の場合)

野村剛史(2015.5)「通時態から共時態へ:その2」『国語国文』84(5). 要点 野村(2013)で主張した「共時態の記述に際する通時的研究の重要性(不可欠性)」について、アスペクト・テンス、ノダ文を事例として扱う(前半は前の記事で)。 「事情文」(説明…

野村剛史(2015.5)通時態から共時態へ:その2(アスペクト・テンス体系の場合)

野村剛史(2015.5)「通時態から共時態へ:その2」『国語国文』84(5). 要点 野村(2013)で主張した「共時態の記述に際する通時的研究の重要性(不可欠性)」について、アスペクト・テンス、ノダ文を例にして述べる(後半は次の記事で) 言語学研究会の提示…

野村剛史(2013.10)通時態から共時態へ

野村剛史(2013.10)「通時態から共時態へ」『日本語学』32(12). 要点 ソシュールの「共時態の記述に通時態を持ち込んではならない」という立場は、受け入れ難く、共時態記述には通時的研究が不可欠であることを主張する。 以下、ノダ文を例に、共時態と通時…

高山善行(2021.3)中古語助動詞の分類について:「連体ナリ」との承接の再検討

高山善行(2021.3)「中古語助動詞の分類について:「連体ナリ」との承接の再検討」『国語国文学(福井大学)』60. 要点 北原の連体ナリの分類についての疑問点 ① 準体句内にモダリティが生起できるのにも関わらず、連体ナリに客体的表現だけが上接すること …

常盤智子(2013.10)富田源太郎著『英和婦人用会話』にみられる助動詞「ウ」+終助詞「ワ」について

常盤智子(2013.10)「富田源太郎著『英和婦人用会話』にみられる助動詞「ウ」+終助詞「ワ」について」『近代語研究17』武蔵野書院. 要点 富田源太郎(1867?-1917)による英学会話書『英和婦人用会話』(1914刊)は、当時の口頭語が反映されるものと見られ…

村上謙(2013.12)明治大正期関西弁資料としての曽我廼家五郎喜劇脚本群

村上謙(2013.12)「明治大正期関西弁資料としての曽我廼家五郎喜劇脚本群」『埼玉大学国語教育論叢』16. 要点 喜劇俳優兼脚本家の曽我廼家五郎(1877生)による関西弁喜劇脚本群の資料性について検討する p.5 全体的な資料性について、 五郎作品群には、関…