ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

2018-01-01から1年間の記事一覧

鴻野知暁(2012.3)助詞コソの文末における一用法

鴻野知暁(2012.3)「助詞コソの文末における一用法」『言語情報科学』10 要点 終止位置におけるコソについて、以下のことを示す 上代に文の中間で用いられていたコソが、中古に文末の述語内部にも生起し、 それに伴い、ニコソアレが頻繁に使われるようにな…

吉田永弘(2000.12)ホドニ小史:原因理由を表す用法の成立

吉田永弘(2000.12)「ホドニ小史:原因理由を表す用法の成立」『国語学』51-3 要点 時間的用法のホドニの原因理由用法への拡張について、以下の過程を想定 平安において、前件と後件が時間的に重なる用法 院政鎌倉期に、時間的重なりを持たず、先後関係を持…

小田勝(2010.2)疑問詞の結び

小田勝(2010.2)「疑問詞の結び」『岐阜聖徳学園大学紀要 教育学部編』49 要点 疑問詞疑問文における結びの形について、上代~中古の実態を調査し、疑問詞~終止形/連体形の両型が存することを説明する 問題 疑問詞疑問文の文末に、連体形・終止形の両方が…

矢島正浩(2018.12)条件表現史から見た近世:時代区分と東西差から浮かび上がるもの

矢島正浩(2018.12)「条件表現史から見た近世:時代区分と東西差から浮かび上がるもの」『日本語学』37-13 前提 近世語の時代的位置付けとして、「文語・口語」「江戸と京阪」「方言の対立」「階級的言語の対立」など、二元・対立の時代とされてきた 条件表…

野田尚史(2015.4)文の階層構造から見た現代日本語の接続表現

野田尚史(2015.4)「文の階層構造から見た現代日本語の接続表現」『国語と国文学』92-4 要点 接続表現の、文の階層構造の中の位置付けを考える 前提 南モデルを発展させた野田に基づく、述語語幹~対人的ムードまでの階層 述語語幹・ヴォイス・アスペクト・…

田島優(2016.9)困惑(自己)から同情・配慮(他者):感謝表現の発想法の変化

田島優(2016.9)「困惑(自己)から同情・配慮(他者):感謝表現の発想法の変化」『近代語研究』19 要点 どのような発想に基づくかという観点からの、感謝表現の分類と、 それらの「発想法」が個々の表現の変遷と関連するかどうかの検討 前提 中央語の笑止…

米田達郎(2018.3)日本語史資料としての江戸時代中後期狂言詞章:鷺流狂言詞章保教本を起点として

米田達郎(2018.3)「日本語史資料としての江戸時代中後期狂言詞章:鷺流狂言詞章保教本を起点として」『近代語研究』20 要点 虎明本以降の狂言台本の日本語史資料としての問題(人工的舞台言語)を乗り越えるために、 「当代型・古語型・新古語型」の鷺流狂…

肥爪周二(2018.11)上代語における文節境界の濁音化

肥爪周二(2018.11)「上代語における文節境界の濁音化」沖森卓也編『歴史言語学の射程』三省堂 前提 連濁(以下、清音の濁音化)は融合、促音挿入は分割というイメージがあるが、以下のような語例を見ると、どちらも複合語で、形態素の結合度に差はない み…

川島拓馬(2018.12)意志表現「気だ」の特徴とその史的変遷:「つもりだ」と比較して

川島拓馬(2018.12)「意志表現「気だ」の特徴とその史的変遷:「つもりだ」と比較して」『国語と国文学』95-12 要点 意志表現「気だ」について、 現代語においてどのような特徴があるか 歴史的展開 つもりだとの比較 現代語における「気だ」 第三者の意志を…

金子彰(2018.11)鎌倉時代の女性文書とその言語特徴

金子彰(2018.11)「鎌倉時代の女性文書とその言語特徴」沖森卓也編『歴史言語学の射程』三省堂 要点 女性文書から、鎌倉当時の口語性や地域性を読み解く 恵信尼文書の口語性 記録の世界における女性は、時代を経るに連れて増加 鎌倉遺文においても、中世に…

斎藤文俊(2018.11)明治初期における聖書の翻訳と日本語意識:漢文訓読語法「欲ス」を例に

斎藤文俊(2018.11)「明治初期における聖書の翻訳と日本語意識:漢文訓読語法「欲ス」を例に」沖森卓也編『歴史言語学の射程』三省堂 要点 聖書翻訳において、漢訳聖書の「欲す」が他本でどのように現れるかを見ることで、その文体選択のあり方を見る 聖書…

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前提1:紙はとても不便 かさばる 個人情報なので処分にも不便 検索性がない 配るのもめんどくさい 出席の集計にも不便 前提2:出席は必要か 出席を強制する意味はなく、出席点を人質に取る理由もない 「出なくても別にいい」のは確かだが、学生がどのくらい…

仁科明(2007.7)「終止なり」の上代と中古:体系変化と成員

仁科明(2007.7)「「終止なり」の上代と中古:体系変化と成員」青木博史編『日本語の構造変化と文法化』ひつじ書房 要点 終止ナリの上代から中古への変容について 問題 終止ナリは上代と中古で断絶するが、この連続性をどう考えるか 終止ナリに対応する形式…

森田兼吉(1996.1)『和泉式部日記』は三条西家本だけでは読めない:『和泉式部日記』三系統論再読・続稿

森田兼吉(1996.1)「『和泉式部日記』は三条西家本だけでは読めない:『和泉式部日記』三系統論再読・続稿」『日本文学研究(梅光学院大学)』31 要点 和泉式部日記の三条西家本の問題について 岡田貴憲・松本裕喜編(2017)『『和泉式部日記/和泉式部物語…

日本語文法学会第19回大会 2日目(2018/12/16)

日本語文法学会第19回大会@立命館大学 日本語文法学会 The Society of Japanese Grammar 昨日の続き チュートリアル 野間純平「方言におけるノダ文の機能」 要点:方言のノダ相当形式について、「提示」(私、用事があるんだ)、「把握」(きっと用事がある…

日本語文法学会第19回大会 1日目(2018/12/15)

日本語文法学会第19回大会@立命館大学 日本語文法学会 The Society of Japanese Grammar 聞いたものをいくつか 三好伸芳「従属節に現れるムードの「タ」」 要点:「太郎が今も独身だったことを喜んだ」のように、いわゆるムードのタが従属節に現れることがあ…

鈴木浩(2002.2)近世上方語のミルヤウナ:ミタイダ成立前史

鈴木浩(2002.2)「近世上方語のミルヤウナ:ミタイダ成立前史」『文芸研究』87 要点 ミルヤウナが比況表現に用いられるようになる過程と ミルヤウナ→ミタヤウナの移行について ミルヤウナ ミタイダはミタヤウダから変化したもの ~ヲミルヤウナまで遡って、…

宮内佐夜香(2007.10)江戸語・明治期東京語における接続助詞ケレド類の特徴と変化:ガと対比して

宮内佐夜香(2007.10)「江戸語・明治期東京語における接続助詞ケレド類の特徴と変化:ガと対比して」『日本語の研究』3-4 問題 逆接確定条件について、現代語はケレドが多いが、江戸語ではガが目立つ 江戸語にはケドが確認されないなどの時代的差異もある …

金水敏(2011.9)言語資源論から平安時代語を捉える:平安時代「原文一途」論再考

金水敏(2011.9)「言語資源論から平安時代語を捉える:平安時代「原文一途」論再考」『訓点語と訓点資料』127 要点 「平安時代は言文一途の時代であった」とする考え方の批判的検討 前提 言語に性質の異なる複数の階層が存在し、 第一言語:基本語彙と基本…

渡辺由貴(2007.3)「と思う」による文末表現の展開

渡辺由貴(2007.3)「「と思う」による文末表現の展開」『早稲田日本語研究』16 要点 タイトルそのまま、モダリティ形式史として 渡辺(2015)の前提 hjl.hatenablog.com 「と思う」 文末、終止形、非過去という条件で用いられる、助動詞的な「と思う」 明日…

渡辺由貴(2015.9)文末表現「と思ふ」と「とおぼゆ」の史的変遷

渡辺由貴(2015.9)「文末表現「と思ふ」と「とおぼゆ」の史的変遷」『日本語文法』15-2 要点 近代に定着するモダリティ相当形式の「と思う」と、その前身の「とおぼゆ」について 問題と前提 発話者主体、非過去・非否定という条件で、モダリティ形式として…

山口堯二(2002.11)「はずだ」の成立

山口堯二(2002.11)「「はずだ」の成立」『国語と国文学』79-11 要点 「はずだ」が弓の部位の「はず」に始まることを示し、「はずだ」の成立に至るまでを論じる 弓の「はず」 あゆひ抄、「べし」に関して「〈はず〉といふ詞は、弓のはずのあふ事よりいひそ…

佐藤祐希子(2003.1)「気づかない方言」の意味論的考察:仙台市における程度副詞的な「イキナリ」

佐藤祐希子(2003.1)「「気づかない方言」の意味論的考察:仙台市における程度副詞的な「イキナリ」」『国語学』54-1 要点 仙台市におけるイキナリの意味拡張 方言独自の意味形成の事例として 問題 いわゆる「気づかない方言」は、方言話者が「共通語の意味…

浅川哲也(2018.3)江戸時代末期人情本にみられる可能表現について:後期江戸語における可能動詞の使用実態

浅川哲也(2018.3)「江戸時代末期人情本にみられる可能表現について:後期江戸語における可能動詞の使用実態」『近代語研究』20 要点 タイトルまんま、特に上層町人の可能動詞の使用実態について 方法 江戸末期人情本を使用。松亭金水作の閑情末摘花、鶯塚…

大木一夫(2018.12)日本語史をふたつにわけること

大木一夫(2018.12)「日本語史をふたつにわけること」『日本語学』37-13 要点 『日本語学』37-13 特集「日本語史の時代区分」 時代区分の不可能性と、現代的意味について 出発点と到達点としての時代区分 まず、時代区分の以下の2側面について考える 出発点…

沖森卓也(2018.12)ことばの時代区分とは何か

沖森卓也(2018.12)「ことばの時代区分とは何か」『日本語学』37-13 要点 『日本語学』37-13 特集「日本語史の時代区分」の巻頭論文 さまざまな時代区分 なぜ必要か 現在の状況や現象の認識のための歴史に通底する必要性そこに自覚的に区切り目をつけること…

仁科明(2016.6)状況・論理・価値:上代の「べし」と非現実事態

仁科明(2016.6)「状況・論理・価値:上代の「べし」と非現実事態」『国文学研究(早稲田大学)』179 以下前提を前稿(仁科2016.3)から 事態のあり方への把握と述べ方について、 まず、発話時を基準とした上での現実領域に属するか非現実領域に属するか 現…

仁科明(2016.3)上代の「らむ」:述語体系内の位置と用法

仁科明(2016.3)「上代の「らむ」:述語体系内の位置と用法」『国語と国文学』93-3 要点 上代の「らむ」に関して、 上代語の述語体系中の「らむ」を「現在未確認事態・臆言」の形式として位置付け、 「らし」との違いを明確にする 上代の述語体系 事態のあ…

新野直哉(2012.3)昭和10年代の国語学・国語教育・日本語教育専門誌に見られる言語規範意識 :副詞”とても”・「ら抜き言葉」などについて

新野直哉(2012.3)「昭和10年代の国語学・国語教育・日本語教育専門誌に見られる言語規範意識:副詞”とても”・「ら抜き言葉」などについて」『言語文化研究(静岡県立大学短期大学)』11 要点 タイトルまんま、専門誌の論文における言語意識の記述について …

田中章夫(1965)近代語成立過程に見られるいわゆる分析的傾向について

田中章夫(1965)「近代語成立過程に見られるいわゆる分析的傾向について」『近代語研究』1 要点 広義近代語への変化の過程として、整理・分散・単純による「分析的傾向」の存することを指摘する 分析的傾向 古代語の推量に関係する助動詞を見ると、 花咲か…