ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

JapanKnowledge版『日本国語大辞典』でテーマを探索しよう

この記事は「言語学な人々 Advent Calendar 2023」の17日目の記事です。 adventar.org 前置き 小学館『日本国語大辞典(第2版)』(以下、日国)の JapanKnowledge 版(以下、JK版日国)は、紙媒体にはない検索機能を備えています。*1 JapanKnowledge Lib 使…

吉田雅子(2023.3)山梨方言終助詞シの用法と出自に関する考察

吉田雅子(2023.3)「山梨方言終助詞シの用法と出自に関する考察」『明星大学研究紀要. 人文学部・日本文化学科』31. 要点 山梨方言の、命令形・禁止形に接続する終助詞シの用法と出自について考える。 現代では、 山梨西部・東部の全世代で使用される。奈良…

林淳子(2023.3)江戸語のノ有り疑問文:多様な形式の使用実態

林淳子(2023.3)「江戸語のノ有り疑問文:多様な形式の使用実態」『日本語と日本語教育』51. 要点 近世の疑問文全体に対する、準体助詞ノの参画のあり方を記述したい。 CHJ江戸時代編・会話文のうち、文末に近い箇所にノが現れる例を対象とする。 洒落本の…

鶴橋俊宏(2018.11)滑稽本におけるノダとその周辺

鶴橋俊宏(2018.11)「滑稽本におけるノダとその周辺」『国学院雑誌』119(11). 要点 滑稽本を化政・天保期の共時態として、ノダ周辺形式について調査する。 ノダの用法は以下のように(便宜的に)設定でき、現代語のノダと同様であったと言える。 平叙文 条…

劉小妹(2020.3)名詞「かたわら」の文法化について : 『日本語歴史コーパス明治・大正編Ⅰ雑誌』の調査による

劉小妹(2020.3)「名詞「かたわら」の文法化について : 『日本語歴史コーパス明治・大正編Ⅰ雑誌』の調査による」『岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要』49. https://doi.org/10.18926/58143 要点 名詞「かたわら」の文法化の状況について扱う。 空間的な…

幸松英恵(2020.3)事情を表わさないノダはどこから来たのか:近世後期資料に見るノダ系表現の様相

幸松英恵(2020.3)「事情を表わさないノダはどこから来たのか:近世後期資料に見るノダ系表現の様相」『東京外国語大学国際日本学研究』プレ創刊号. 要点 ノダ文研究の現状の前提として、 ノダ文の典型は〈事情説明〉であり、この機能は〈準体助詞ノ+断定…

長尾光之(2006.10)中国語における文末疑問助詞の変遷

長尾光之(2006.10)「中国語における文末疑問助詞の変遷」『行政社会論集』19(2). 要点 疑問の語気助詞の変遷を、以下の資料を対象として論じる。 論語(春秋松~前漢、「古典中国語」)、史記(前漢)は概ね同一で、「乎」が優勢 p.104 漢訳仏典と世説新語…

菅のの香(2023.3)和漢混淆文における複合辞「ニオイテハ」の構文

菅のの香(2023.3)「和漢混淆文における複合辞「ニオイテハ」の構文」『上智大学国文学論集』56. 要点 和漢混淆文に見られるニオイテハを複合辞として認定し、以下の2点を主に検討したい。 ムが多く前接し、仮定条件を表すとされること。 限定・強調の意を…

井上優・黄麗華(1996.3)日本語と中国語の真偽疑問文

井上優・黄麗華(1996.3)「日本語と中国語の真偽疑問文」『国語学』184. 要点 日本語のPカ、中国語のP嗎による真偽疑問文の対照を行う。 以下の点は2者に共通する。 どちらも、基本的には「文脈と対立しない仮説の真偽」を問題にする文である。 p.17 6-1は…

相原まり子(2011)中国語の韻律的手段による「文焦点」標示

相原まり子(2011)「中国語の韻律的手段による「文焦点」標示」『言語研究』139. 要点 Lambrecht 2000 の、以下の「脱主題化の原則」の仮説を用い、中国語の文焦点(SF)標示について、音響的な面から考える。 脱主題化の原則:SF標示は、PF構文の主題を担…

坂井裕子(1992)中古漢語の是非疑問文

坂井裕子(1992)「中古漢語の是非疑問文」『中国語学』239. 要点 中古漢語(後漢末~魏晋南北朝)の是非(以下、YN)疑問文の特徴を記述する。 上古漢語の乎・与・也・邪などの語気詞はWh疑問文にも用いられる(YN専用ではない)が、 中古の不・否・未など…

西山猛(2005.12)古代漢語における場所を表す疑問代名詞の歴史的変遷

西山猛(2005.12)「古代漢語における場所を表す疑問代名詞の歴史的変遷」『中国文学論集』34. 要点 疑問代名詞のうち、場所を表すものにどのようなものがあるか、資料論的検討を含めて行う。 甲骨文・金文・『書経』は「太古漢語」として古代漢語の枠組みか…

三村一貴(2020.10)上古漢語のモダリティーマーカー「蓋」について:その本質的機能

三村一貴(2020.10)「上古漢語のモダリティーマーカー「蓋」について:その本質的機能」『中国語学』267. 要点 上古漢語の「蓋」の機能について考える。 太史公曰、「余登箕山、其上蓋有許由冢云。」(『史記』伯夷列伝2581) 「太史公曰く、わたしは箕山に…

「ぬるま湯」の「ま」考

はじめに 「言語学フェス2023」に参加しました。運営のみなさま、ありがとうございました。 sites.google.com 主催のまつーらさんの「ぬるま湯でありたい」*1、「この、ぬるまの「ま」って何?」という発言を承けて、少し考えてみました。 「ぬる」が形容詞…

大江元貴・居關友里子・鈴木彩香(2020.9)日本語の左方転位構文はいつ,どのように使われるか?

大江元貴・居關友里子・鈴木彩香(2020.9)「日本語の左方転位構文はいつ,どのように使われるか?」『社会言語科学』23(1). 要点 多重文法モデル(具体的な言語使用環境ごとに異なる文法の存在を想定するモデル)に基づいて、左方転位構文の文法的位置付け…

高橋淑郎(2005.3)大学講義を対象とした類型的文体分析の試み

高橋淑郎(2005.3)「大学講義を対象とした類型的文体分析の試み」中村明ほか編『表現と文体』明治書院. 要点 話し言葉・書き言葉という枠組みを超えて、討論との比較に基づいて、講義の言語的特徴を明らかにしたい。 講義と討論のコミュニケーション成立上…

川瀬卓(2021.6)副詞「ひょっとすると」類の成立 : 副詞の呼応における仮定と可能性想定の分化

川瀬卓(2021.6)「副詞「ひょっとすると」類の成立 : 副詞の呼応における仮定と可能性想定の分化」『語文研究』130/131. 要点 ヒョットスルト類(スルト/シタラ/シテ)が擬態語に由来することと、類義語であるモシカスルトが同じ構成要素を持つことに注目…

山西正子(1979.2)連体形「タル」のあらわれかた:「中華若木詩抄」のばあいを出発点に

山西正子(1979.2)「連体形「タル」のあらわれかた:「中華若木詩抄」のばあいを出発点に」『中田祝夫博士功績記念国語学論集』勉誠社. 要点 タリ・タについて、中世後期においては、終止形・連体形ではタが優勢であるが、連体修飾の場合にはタルの存在も無…

山本佐和子(2012.6)中世室町期における「ねまる」の意味

山本佐和子(2012.6)「中世室町期における「ねまる」の意味」『國學院雑誌』113(6). 要点 抄物に以下のような~テネマルがあることに注目して、ネマルの語史を記述する。 盆瓶ヲ洗テネマル婦女ノアルマテソ。(四河入海) 本動詞のネマルは名語記に初例が…

中野伸彦(1996.12)Ⅲ型の確認要求の平叙文と終助詞「ね」:江戸語と現代語

中野伸彦(1996.12)「Ⅲ型の確認要求の平叙文と終助詞「ね」:江戸語と現代語」『山口大学教育学部研究論叢 第一部 人文科学・社会科学』46. 要点 「叙述内容を聞き手に対して獲得させようとするタイプ」(僕の勝手でしょ)のⅢ型の確認要求の平叙文について…

中野伸彦(1996.6)確認要求の平叙文と終助詞「ね」:江戸語と現代語

中野伸彦(1996.6)「確認要求の平叙文と終助詞「ね」:江戸語と現代語」『山口明穂教授還暦記念国語学論集』明治書院. 要点 現代語において、聞き手にも既に共有されている事柄を述べる平叙文ではネが必須になるが、ネがなくても、「まともに叙述内容を獲得…

中野伸彦(1993.2)江戸語の疑問表現に関する一つの問題:終助詞「な」「ね」が下接する場合の自問系の疑問文の形成

中野伸彦(1993.2)「江戸語の疑問表現に関する一つの問題:終助詞「な」「ね」が下接する場合の自問系の疑問文の形成」『近代語研究9』武蔵野書院 要点 現代語における自問系の疑問文には、カ・カシラ・ウ・ケなどがないとナ・ネを用いることができない(例…

劉玲(2003.2)情態副詞「セイセイト(清々ト)」の発生:抄物における「X字(原漢文)⇒XXト・ニ(抄文)」という表現法を通じて

劉玲(2003.2)「情態副詞「セイセイト(清々ト)」の発生 抄物における「X字(原漢文)⇒XXト・ニ(抄文)」という表現法を通じて」『日本語と日本文学』36. 要点 抄物に見られるセイセイトは、中国語の「清々」とは意味が異なり、漢語出自とは認められ難い…

金水敏(2012.11)疑問文のスコープと助詞「か」「の」

金水敏(2012.11)「疑問文のスコープと助詞「か」「の」」『国語と国文学』89(11). 要点 前稿(近代語研究16、前記事)で未検討の問題について考える。 カの出現と働き/他の疑問詞との対比/「いったい」「だろう」、丁寧体がノの出現に与える効果 カの出…

金水敏(2012.3)理由の疑問詞疑問文とスコープ表示について

金水敏(2012.3)「理由の疑問詞疑問文とスコープ表示について」『近代語研究』16. 要点 必然的に焦点とみなされる「なぜ」の疑問詞疑問文を用いて、ノダ文の形成史を考える。 以下の、久野・田窪の一般化を踏まえる。 否定辞「ない」と疑問詞「か」のスコー…

徳永辰通(2010.1)「~ヤ-連体形」から終助詞カへの交替:天草版『平家物語』に見る交替の諸相

徳永辰通(2010.1)「「~ヤ-連体形」から終助詞カへの交替:天草版『平家物語』に見る交替の諸相」『人文学部研究論集(中部大学)』23. 要点 原拠本の~ヤ―連体形の天草版への置き換えについて。 まず、対応関係については、ヤで訳される例より、―カ。に置…

磯部佳宏(2000.2)古代日本語の疑問表現(下):要判定疑問表現の場合

磯部佳宏(2000.2)「古代日本語の疑問表現(下):要判定疑問表現の場合」『山口大学文学会誌』50. 要点 古代語の要判定疑問文についての、著者のこれまでの研究の整理。 形式に以下のものがある。 文中のヤにかかわるものとして、 a ―ヤ―。 b ―ヤ。 c ―ニ…

磯部佳宏(2004.2)古代日本語の疑問表現(上):要説明疑問表現の場合

磯部佳宏(2004.2)「古代日本語の疑問表現(上):要説明疑問表現の場合」『山口大学文学会志』54. 要点 古代語の要説明疑問文についての、著者のこれまでの研究の整理。 形式に、以下のものがある。 a Wh(…)カ― b Wh(…)カ。 c Wh―ニカ―。 d Wh―ニカ。 …

于康(1996.11)「いかに」の述語用法

于康(1996.11)「「いかに」の述語用法」『国語国文』65(11). 要点 「いかに」は修飾用法(いかに~。)とは区別される述語用法(~はいかに。)を持ち、 これは、漢文訓読語の用法である。 訓読文では「述格に立つ」用法(築島1963)があり、 平安和文では…

于康(1996.3)『天草版平家物語』における「なぜに」の意味用法

于康(1996.3)「『天草版平家物語』における「なぜに」の意味用法」『広島大学日本語教育学科紀要』6. 要点 天草版平家を中心に、ナゼニとそれまでの不定語との関係性を記述することで、ナゼニの史的位置について考える。 天草版平家では、ナゼニ以外にイカ…