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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

沖森卓也(2018.12)ことばの時代区分とは何か

沖森卓也(2018.12)「ことばの時代区分とは何か」『日本語学』37-13

要点

  • 『日本語学』37-13 特集「日本語史の時代区分」の巻頭論文

さまざまな時代区分

  • なぜ必要か
    • 現在の状況や現象の認識のための歴史に通底する必要性そこに自覚的に区切り目をつけること
    • 差異を概括することで時代を全体的に把握し、歴史の上に位置づけるのは必須の作業
  • 区分の概念としては、
    • 古代・中世・近代:ルネサンス期に用いられたもので、後に産業革命以前が近世とされる
    • 上古・中古・近古:易経に見られるもの
  • 政治体制による日本の時代区分
  • 政権の所在地による時代区分として、奈良・平安・鎌倉・…
    • 政治区分が時代の意味付けを付与するの対し、無機的
  • 文学史においても古代・中世・近世・近代とするが、記紀万葉を区別して上代とする

日本語史の時代区分

  • 従来の区分法として、
    • あゆひ抄:かみつよ・なかむかし・なかころ・ちかむかし・をとつよ・近世
    • 東雅(新井白石):上古・中古・近古・今世(易経に準じたもの)
    • 奈良朝文法史(山田孝雄):奈良朝以前・奈良町・平安朝・院政鎌倉期・室町期・江戸期
    • 口語法別記(大槻文彦):平安朝・鎌倉・南北朝・室町・江戸
  • 現在行われている時代区分は、
    • 三分法(古代・中世・近代):院政時代を中世の始まりと捉える
    • 四分法では、江戸時代が近世、明治以降が近代を指すが、新漢語の形成という観点からは、幕末頃から近代頃とするほうが捉えやすい
    • 五分法は上代語を立てるもので、上代特殊仮名遣を中心とする音韻史的側面から考えれば合理的
    • 二分法
  • 時代区分を細分化する場合、
    • 中世:院政鎌倉時代を前期、室町時代を後期。南北朝時代は揺れがあるが、後期と見る傾向が強い
    • 近世:宝暦を境とする前期上方語・後期江戸語の分類は、地域差による区分である
  • 「時代区分の名称をめぐって」として、
    • 「近代語」はどの近代語を指すのか、文脈によって解釈するしかない
    • 「古代」も同様。また、「古代」という言葉に「古典を創出した時代」という優美なイメージを持ちがたい
    • 「現代」は戦後を指すものの、「現代語」の意味合いは、「今実際に使われている日本語」に傾く
    • 時代区分は便宜的手段であるが、結果的に政治史のと異ならないものと結論づける場合であっても、それぞれの時代を名付けうる実質が求められる

p.10

雑記

  • この論文の次頁のとあるコラムで、ニュースで用いられる「体液」が提喩的に用いられて、(「精子」は言えるのに)それそのものを指す言い方をしないことについて「もしかして、それが「聖域」、だから?」とあって、なんだかデカめのため息が出た