矢島正浩(2018.12)「条件表現史から見た近世:時代区分と東西差から浮かび上がるもの」『日本語学』37-13
前提
- 近世語の時代的位置付けとして、「文語・口語」「江戸と京阪」「方言の対立」「階級的言語の対立」など、二元・対立の時代とされてきた
- 条件表現史を焦点として、時代的・空間的な把握を行う
時代的把握(時代差)
- 古代語の条件表現は、前件と後件に事柄を並べ、その「事柄の並列の中に因果関係の読み込みが可能という方法」をとった
- 総じて、仮定条件と確定条件とは整然と表現し分けられていた
- 中世後期以降は恒常性・一般的な事柄を述べる表現が増える
- たのふだ人のお大名にならせらるれハ、私も似あひにお目をかけらるゝ程に、うれしう存ずる
- 「主人が大名になれば目をかけてもらえる」という、一般認識に支えられる
- 2つの自立的な事柄の並列ではなく、条件節・帰結句あわせて一つの因果関係を持った事柄として捉える表現としての性格が強まる
- これにより、仮定条件と確定条件の弁別が無力化される
- 已バによる仮定条件の増加
- 已バによる原因理由表現が減少し、専用形式ホドニ・ニヨッテを用いる傾向
- 仮定・確定をまたぐテモが増加
- 室町以降、未バはタラバに集中していく
- 近世前期と近世後期は、以下の点で区別する意義がある
- タラバ・ナラバへの集中傾向
- ト仮定バ、ニヨッテ→ヨッテ、サカイ、カラ・ノデ
- タッテ・ダッテ、ガ・ケレドモ
- タラバ・ナラバは近世前期までは古代語としての未然形の機能を残していたが、後期には喪失する
- 「金請取ったら[=っているのなら]はや戻せ」
- 近世後期、接続辞は「後件に対する前件の関係を明示するもの」へと変化したものと捉えられる
空間的把握(東西差)
- 後期江戸語において、上方語的要素を後退させ、江戸語固有の形式を多用する傾向があった(cf.それなら→それでは)
- 言語表現指向の差として、
- 上方語は、相手や先行事情を受け入れるソレナラや、並列的に事柄を並べるソウシタラを用いる
- 江戸語は、相手や先行事情との違いを際立たせるソレデハを用いる
- 東西差による把握は他にも、
- 否定疑問による行為指示が上方に多い
- 否定疑問による事実確認は江戸に多い
雑記
- 体重の増加が止まらない