ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

日本語文法学会第19回大会 2日目(2018/12/16)

日本語文法学会第19回大会@立命館大学

日本語文法学会 The Society of Japanese Grammar

昨日の続き

チュートリアル 野間純平「方言におけるノダ文の機能」

  • 要点:方言のノダ相当形式について、「提示」(私、用事があるんだ)、「把握」(きっと用事があるんだ)の形式分担がある方言(複数のノダ相当形式を持つ方言)のあり方や、いわゆる命令のノダのあり方、標準語との異なり方を示すことにより概観
  • おもしろかった

第19回シンポジウム「歴史的観点から見た日本語文法」

ジョン・ホイットマン上代日本語琉球諸語・西南九州の格類型について」

  • 要点:上代のガ・ノ(・φ)のあり方について、名詞階層の高い名詞句は対格型の、低い名詞句は活格型の格配列が現れることを指摘し、ガ・ノが対立する琉球諸語・熊本方言との比較に及ぶ
  • あんまよく分かんなかった

大西拓一郎「方言から考える動詞否定辞中止形」

  • 要点:否定中止(しないで)の方言におけるあり方三種類、「否定辞+助詞」、「否定辞+補助動詞」(行カンジョッテ<行かんでおいて)、「コナシ」の三種の型の分布と解釈
  • コナシはコソナシ>コナシでなくコトナシ>コナシではないかという聴衆コメントについて、「(っ)こ」の初例は安永頃だが、幕末に「のがれッこない兄弟縁者」(毬唄三人娘)で~コの名詞句を作っていたり、 明治期に入って「そう高く売れっこないさ」(漱石・門)、「喧嘩の起りッこ無い」(たけくらべ)の例(こちらは異分析の可能性あり)があり、コトナシ>コナシが支持される(ただし、これと否定中止のコナシが同源かは別の話)
    • 「連用形なのは名詞句作るからそれでいい」という三宅先生の同調コメントは正しいが、室町の「連用形ゴト」に類似するものが、時代的に連続しない近世後期に(しかも江戸に)現れるのはかなり奇妙

青木博史「「補助動詞」の文法化―「一方向性」をめぐって―」

  • 要点:「てくれる」(補助動詞が先行)、「てござる」(補助動詞が先行)の例から、本動詞→補助動詞という意味の波及の反例を示し、一方向性に疑義を投げかける
  • 補助動詞側で変化が起こるのは当たり前だし、それが本動詞側に波及するのもまあ当たり前で、金水2001の文言を殊更引いて言うことだろうか?という感じはした(本当に誰しもが「本動詞→補助動詞」という意味変化の経路を想定しているのか?という)
    • 「本動詞→補助動詞」は、形式成立時の意味の成立に寄与しているのであって、「補助動詞→本動詞」の事例は形式成立後のあくまでも二次的な段階で起こったことであり、そこも少しミスリードではないか

雑記

  • シンポジウム何回こういうテーマでやんねんと思っていたら、文法学会で「歴史」に焦点があたった回はなんと今回が初めてだったと知る