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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

久保薗愛(2022.1)鹿児島方言史における準体助詞の発達

久保薗愛(2022.1)「鹿児島方言史における準体助詞の発達」『中部日本・日本語学研究論集』和泉書院

要点

鹿児島方言の準体助詞トの発達について、以下の5点を主張する

  1. 18C初頭(ロシア資料)にトは見られるが、コト準体、~ニの環境ではゼロ準体も見受けられる
    • 柿の熟まんとは酸いか、また苦い(日本語会話入門)
    • 寺づい行く∅にふゆうするな(怠けるな)(日本語会話入門)
  2. 近現代の談話(鹿児島県立図書館蔵方言ライブラリ)では、準体のタイプにかかわらずゼロ準体は見られないが、トイウの場合のみゼロ準体を許容する
    • 行列踊りチュ∅ワ珍しいと言って
  3. 現代の老年層は準体助詞の必須性が上がるが、トイウの場合はやはりゼロ準体を許容する
  4. トイウが準体助詞トを必須としないのは近世江戸語(原口1978、坂井2019)に近く、
  5. N1トイウN2が名詞句相当と捉えやすく、準体助詞を明示する必要性が相対的に低かったことによる
    • (複合辞として)「文法化することによって、N1トイウ∅の形で用言句としてではなく全体が名詞+複合辞と捉えられるために、ゼロ準体が最後まで許容されたのだろう」(p.244)
    • なお、関西方言ではトイウにゼロ準体が偏らないが、これは、引用トの非標示(日高2013)が起こる場合に、通常の動詞との連続性が意識される(東京・鹿児島では脱落が生じず、もしくは縮約するので、「動詞らしさが捉えられなくなり」、ゼロ準体が許容される)ことによるか

雑記

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