田中牧郎(2015.5)「明治後期から大正期に基本語化する語彙」斎藤倫明・石井正彦編『日本語語彙へのアプローチ―形態・統語・計量・歴史・対照―』おうふう
要点
- 明治後期から大正期にかけて基本語化する語彙には以下の3類がある
- 口語性の強い語
- 新概念を表す語
- 抽象概念を表す語
前提
- 近代雑誌コーパスの整備によって近代以後の語彙の状況を知ることができるようになってきたので、頻度情報による基本語化の流れを考えたい
方法
高頻度の語を基本語、低頻度の語を周辺語と考えたとき、
以下の範囲に収まる語が「基本語化した語彙」と扱うことができる
以下がその76語の一覧である
基本語化した語彙
- 基本語化した和語と混種語は文体の変化に関係するものが多い
- 口語性の強い語は言文一致により書きことばの口語的な部分に進出したもの:いらっしゃる、すっかり、ちゃんと、何しろ…
- 文語文・口語文によく使われる基本語の類義語が、口語論説文や口語実用文に使われるようになったもの:小さな(←小さい)、太る、明るい、立場…
- 基本語化した漢語は口語率が高いものがそれほど多くない
- 有権、到頭、気分、大変、飛行は和語の場合と同様の変化
- 科学技術や社会制度、建造物など、近代的概念の定着とともに基本語化する一群がある
- 栄養、飛行、生殖、手術、廊下、階段、国有…
- 例えば「国有」は、1901年、日本の鉄道の国有について論じる部分で多く使われるようになり、それが鉄道以外にも広がる
- これらに該当しない語は抽象概念を表す語であるという特徴を持つ
- 例えば「向上」は、「心が上向きになる」意味の名詞から、次第に心以外の「向上」も表すようになり、動詞用法を持つようになる
- 「考慮」は「考える」「慮る」「顧慮」など、類義の和語・漢語との間に使い分けの関係を形成し、新たな語彙体系を構築するし、
- 「努力」「実現」は「つとめる」「あらわす」の意味変化が深く関わる
雑記
- 手首がバキバキで終わってる、どうすればよいのか