青木博史(2013.12)「複合動詞の歴史的変化」影山太郎(編)『複合動詞研究の最先端:謎の解明に向けて』ひつじ書房
要点
- 標題の問題について、
- まず、古代語の複合動詞あるない問題を考える
- ある派:暮れ行く、とり~、敬語など、意味的・統語的に「複合した」と見るべき例がある
- ない派:複合語アクセントがない、連濁がない、助詞介入がある、項の入れ替えが可能な例がある
- 古代語は「複合語化」の萌芽期で、これが現代に至るにしたがって発達したと考える
- 複合動詞として認められるものは「複合」として見てよいが、
- 一方、「V+V」の形式は基本的には(語ではなく)句を作る形式だったと考えられる
- VP[[項+V1][V2]] という構造が次第に緊密になっていく、と考える
- 関による中古語の(厳密な)複合動詞3分類では、a, cが多く、bは極めて少ないという
- a 補助関係(思ひあふ):V1が主
- b 修飾関係(隠し持つ):V2が主
- c 一致関係(あひ語らふ):主従関係がない
- b はいわゆる語彙的複合動詞のうちの「主題関係複合動詞」(手段・様態・原因)で、現代語では生産性があるという点で歴史的変化がある
- 古代語ではわずかであった結びつき VP[項+[V1 V2]] が、現代語へ至ると増加する、という流れ
- 関のデータはかなり厳しいが、判定の基準を変えてもやはり、V1の意味構造が保たれるものばかりが増える
- a のタイプ(補助動詞タイプ)は既に上代・中古の事例の指摘があり、現代へ至っても、意味概念はアスペクト複合動詞であるという点で変わらない
- V2が項構造を失った、 VP[[項+V1] V2] のような構造が想定される(cf. 句の包摂)
- [恋をだに失ひ]果てじ / [涙をそへ]まさる
- 主題関係タイプが抽象化して広義アスペクトタイプになることがあり(歩み入る→寝入る)、歴史的には連続的である
- V2が項構造を失った、 VP[[項+V1] V2] のような構造が想定される(cf. 句の包摂)
- 助詞挿入を手がかりに考えると、中世前~後期が古代語と現代語の境目である
- 横たへさされたりける刀(覚一本) →横たえてさされたかの刀(天草版)
- これは、古代語における連用形の機能が広かったことを示す
- 一方で古代語に特徴的な現象に、接頭語(とり~、ひき~)の存在がある(近代語にはない)
- 統語的複合動詞の概念は歴史研究において有効でないが、選択制限のないものを文法的(助動詞的)なものとして捉えるとき、理論的には以下の流れが想定される
- 語彙的Ⅰ(主題関係タイプ)→語彙的Ⅱ(広義アスペクトタイプ)→文法的 (cf. 青木2011「キル」)
- 「このようにして歴史的観点から見る時、「語彙的複合動詞」と「統語的複合動詞」はやはり連続的」であり、
- 連用形の側から見れば、連用形が修飾法の機能を失ったということになり、
- これを背景として、テ形補助動詞の発達がある
雑記
- まじでswitchを買っておくべきだった