佐佐木隆(2007.3)続紀宣命と『万葉集』に見える助詞「し」
佐佐木隆(2007.3)「続紀宣命と『万葉集』に見える助詞「し」」『学習院大学文学部研究年報』53
要点
前提
- 散文と韻文の構文上の差異を知るために、シを対象として考えたい
大野説
- 大野晋による万葉集のシ5分類
- ①仮定・既定を問わず順接条件を導く。
- ②ユを含む―ー自然的成立を表わすー—動詞を導く。
- ③心情を表わす形容詞を導く。
- ④推量や願望の助動詞を導く。
- ⑤形容詞以外で心情を表わす述語を導く。
- 統一的説明として、「物事を自然的成行きとしてうけとめ、それに対応して自然に内心に生起する情意あるいは推量を言い表わしている」とし、コソと対照的なものと見る
- 続紀宣命は約40例、万葉集は約500例で例数の差に問題があるが、むしろ用例の少ない続紀宣命から検討するのがよい
続紀宣命のシ
- 以下の5類に分かれる
- 1 「することによって」の意を構成するテシにより、事態実現の条件などを述べる
- ヨリテシ、シテシ、並ビテシ、…など、理由・原因を提示する*1
- 2 体言シ・準体句シ・連体形イシが主語を構成する
- 大御言シ、此シ、歓るシ、心成(す)イシなど
- 「~こそが」の意の主格を構成する
- 3 トシ・ニシ・ヲシ…未然形バの形で仮定条件句を構成する
- 試定むとシ言はば、…の如く、呼応するのは仮定表現のみ
- 4 …シが連用修飾成分を構成する
- 似る事をシなも、…所念し坐さくと宣ふ(2)
- 5 副詞シが連用修飾成分を構成する
- 猶シの1例のみ
- 1 「することによって」の意を構成するテシにより、事態実現の条件などを述べる
- 大野は「宣命も基本的に万葉集と同一」とするが、そうとは言えない
- 万葉集のシから離れつつ、細かく見る
- この差はどこから来るのか?
- 大野説はコソと対比し得るシのみを視野に入れている
- 大野説はシが何を「導く」かに重点があり、「心情を表す」ものをベースに組み立てられており、
- 「「…し」に応じる動詞は「心情を表わす」ものでなければならない、という強固な思い込みが、大野の論の前提となっている」
雑記
- 夏休みに入ってようやく余暇が生まれ始めました