ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

小木曽智信(2020.3)通時コーパスに見るモダリティ形式の変遷

小木曽智信(2020.3)「通時コーパスに見るモダリティ形式の変遷」田窪行則・野田尚史(編)『データに基づく日本語のモダリティ研究』くろしお出版

要点

  • CHJを用いて、モダリティ形式の大きな変化を見る
    • 古代語はム・ムズ・ジ、ケム・ベシ・マジ・ラシ・メリ
    • 近現代語はウ・ヨウ、マイ、ダロウ、ヨウダ、ソウダ、ラシイ、カモシレナイ、ニチガイナイ
  • ジャンル差の限界に注意しつつ、時代別の頻度(pmw)の推移を見ると、
    • 上代・中古では、
      • マジ・ムズが中古に現れること、ラシが中古に激減しメリが急増すること
      • 上代で極めて高いムの割合が中古で下がり、ベシなどの他形式がが増えること
      • モ形式の使用そのものの頻度自体には文体差が関わるが、種々の形式を使うようになるのは中古散文も和歌も同様の傾向
    • 中世では、
      • ウ・マイ、ソウダ・ヨウダが多く認められ、ラシは消滅、ジ・ケム・ラム・メリは大幅に頻度を下げる
      • 特に文語形式において、地の文でのモ形式の使用が半減する一方、ムズは増加、ム・ベシの頻度も大きくなる(他の助動詞の衰退傾向が見える)
    • 近世は、ダロウ・ニチガイナイの登場、ソウダ・ヨウダの上昇により現代に近づく
    • 近代では、
      • 口語において、ウ・ヨウが減少、ダロウやその他の現代的モ形式は増加する
      • 一方文語においては、ほぼムとベシだけが用いられる(96%)
        • ただし、口語と同様、近代文語も「いわば近代文語複合辞」がモを担っている
          • ありうべし、か知らず、ざるをえず、ずんばあらず、ならんか、に相違なし、ねばならぬ、べくもあらず
          • 「これらの中には現代口語文のモダリティを表す複合辞・連語に影響を与えたもの、逆に口語のモダリティ形式を文語化したものなどが認められるようである」
    • 現代は、全体の頻度がさらに小さくなるが、これはモの表現そのものが減ったというよりも、調査外の多様な要素(みたいだ、じゃないか、思われる)や文中の副詞によって担われるようになった可能性が考えられる
  • 全体として、
    • 文語助動詞の一貫した頻度の減少傾向と、一つの助動詞が叙法として多様な意味を表す体制から形式と意味が対応した個別形式で表す体制への転換
    • 口語もやはり頻度は減少傾向にある

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雑記

  • 新学期始まったけど結構時間に余裕あるな!→研究してないだけでした