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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

疑問文

林淳子(2023.3)江戸語のノ有り疑問文:多様な形式の使用実態

林淳子(2023.3)「江戸語のノ有り疑問文:多様な形式の使用実態」『日本語と日本語教育』51. 要点 近世の疑問文全体に対する、準体助詞ノの参画のあり方を記述したい。 CHJ江戸時代編・会話文のうち、文末に近い箇所にノが現れる例を対象とする。 洒落本の…

幸松英恵(2020.3)事情を表わさないノダはどこから来たのか:近世後期資料に見るノダ系表現の様相

幸松英恵(2020.3)「事情を表わさないノダはどこから来たのか:近世後期資料に見るノダ系表現の様相」『東京外国語大学国際日本学研究』プレ創刊号. 要点 ノダ文研究の現状の前提として、 ノダ文の典型は〈事情説明〉であり、この機能は〈準体助詞ノ+断定…

長尾光之(2006.10)中国語における文末疑問助詞の変遷

長尾光之(2006.10)「中国語における文末疑問助詞の変遷」『行政社会論集』19(2). 要点 疑問の語気助詞の変遷を、以下の資料を対象として論じる。 論語(春秋松~前漢、「古典中国語」)、史記(前漢)は概ね同一で、「乎」が優勢 p.104 漢訳仏典と世説新語…

井上優・黄麗華(1996.3)日本語と中国語の真偽疑問文

井上優・黄麗華(1996.3)「日本語と中国語の真偽疑問文」『国語学』184. 要点 日本語のPカ、中国語のP嗎による真偽疑問文の対照を行う。 以下の点は2者に共通する。 どちらも、基本的には「文脈と対立しない仮説の真偽」を問題にする文である。 p.17 6-1は…

坂井裕子(1992)中古漢語の是非疑問文

坂井裕子(1992)「中古漢語の是非疑問文」『中国語学』239. 要点 中古漢語(後漢末~魏晋南北朝)の是非(以下、YN)疑問文の特徴を記述する。 上古漢語の乎・与・也・邪などの語気詞はWh疑問文にも用いられる(YN専用ではない)が、 中古の不・否・未など…

西山猛(2005.12)古代漢語における場所を表す疑問代名詞の歴史的変遷

西山猛(2005.12)「古代漢語における場所を表す疑問代名詞の歴史的変遷」『中国文学論集』34. 要点 疑問代名詞のうち、場所を表すものにどのようなものがあるか、資料論的検討を含めて行う。 甲骨文・金文・『書経』は「太古漢語」として古代漢語の枠組みか…

中野伸彦(1996.6)確認要求の平叙文と終助詞「ね」:江戸語と現代語

中野伸彦(1996.6)「確認要求の平叙文と終助詞「ね」:江戸語と現代語」『山口明穂教授還暦記念国語学論集』明治書院. 要点 現代語において、聞き手にも既に共有されている事柄を述べる平叙文ではネが必須になるが、ネがなくても、「まともに叙述内容を獲得…

中野伸彦(1993.2)江戸語の疑問表現に関する一つの問題:終助詞「な」「ね」が下接する場合の自問系の疑問文の形成

中野伸彦(1993.2)「江戸語の疑問表現に関する一つの問題:終助詞「な」「ね」が下接する場合の自問系の疑問文の形成」『近代語研究9』武蔵野書院 要点 現代語における自問系の疑問文には、カ・カシラ・ウ・ケなどがないとナ・ネを用いることができない(例…

金水敏(2012.11)疑問文のスコープと助詞「か」「の」

金水敏(2012.11)「疑問文のスコープと助詞「か」「の」」『国語と国文学』89(11). 要点 前稿(近代語研究16、前記事)で未検討の問題について考える。 カの出現と働き/他の疑問詞との対比/「いったい」「だろう」、丁寧体がノの出現に与える効果 カの出…

金水敏(2012.3)理由の疑問詞疑問文とスコープ表示について

金水敏(2012.3)「理由の疑問詞疑問文とスコープ表示について」『近代語研究』16. 要点 必然的に焦点とみなされる「なぜ」の疑問詞疑問文を用いて、ノダ文の形成史を考える。 以下の、久野・田窪の一般化を踏まえる。 否定辞「ない」と疑問詞「か」のスコー…

徳永辰通(2010.1)「~ヤ-連体形」から終助詞カへの交替:天草版『平家物語』に見る交替の諸相

徳永辰通(2010.1)「「~ヤ-連体形」から終助詞カへの交替:天草版『平家物語』に見る交替の諸相」『人文学部研究論集(中部大学)』23. 要点 原拠本の~ヤ―連体形の天草版への置き換えについて。 まず、対応関係については、ヤで訳される例より、―カ。に置…

磯部佳宏(2000.2)古代日本語の疑問表現(下):要判定疑問表現の場合

磯部佳宏(2000.2)「古代日本語の疑問表現(下):要判定疑問表現の場合」『山口大学文学会誌』50. 要点 古代語の要判定疑問文についての、著者のこれまでの研究の整理。 形式に以下のものがある。 文中のヤにかかわるものとして、 a ―ヤ―。 b ―ヤ。 c ―ニ…

磯部佳宏(2004.2)古代日本語の疑問表現(上):要説明疑問表現の場合

磯部佳宏(2004.2)「古代日本語の疑問表現(上):要説明疑問表現の場合」『山口大学文学会志』54. 要点 古代語の要説明疑問文についての、著者のこれまでの研究の整理。 形式に、以下のものがある。 a Wh(…)カ― b Wh(…)カ。 c Wh―ニカ―。 d Wh―ニカ。 …

于康(1996.11)「いかに」の述語用法

于康(1996.11)「「いかに」の述語用法」『国語国文』65(11). 要点 「いかに」は修飾用法(いかに~。)とは区別される述語用法(~はいかに。)を持ち、 これは、漢文訓読語の用法である。 訓読文では「述格に立つ」用法(築島1963)があり、 平安和文では…

于康(1996.3)『天草版平家物語』における「なぜに」の意味用法

于康(1996.3)「『天草版平家物語』における「なぜに」の意味用法」『広島大学日本語教育学科紀要』6. 要点 天草版平家を中心に、ナゼニとそれまでの不定語との関係性を記述することで、ナゼニの史的位置について考える。 天草版平家では、ナゼニ以外にイカ…

樋渡登(2005.6)洞門抄物から見た疑問詞疑問文について

樋渡登(2005.6)「洞門抄物から見た疑問詞疑問文について」『日本近代語研究4』ひつじ書房(『洞門抄物による近世語の研究』おうふう を参照). 要点 外山(1957)、矢島(1997, 2002)を踏まえつつ、洞門抄物の疑問詞疑問文について検討する。 ① 体言性述…

矢島正浩(2002.3)疑問詞疑問文文末ゾの使用よりみた近松世話浄瑠璃

矢島正浩(2002.3)「疑問詞疑問文文末ゾの使用よりみた近松世話浄瑠璃」『日本近代語研究3』ひつじ書房. 要点 近松世話浄瑠璃の疑問詞疑問文におけるゾの使用状況と、近松世話浄瑠璃の資料性についても考える。 外山(1957)と矢島(1997)を踏まえる。 hjl…

矢島正浩(1997.7)疑問詞疑問文における終助詞ゾの脱落:近世前・中期の狂言台本を資料として

矢島正浩(1997.7)「疑問詞疑問文における終助詞ゾの脱落:近世前・中期の狂言台本を資料として」加藤正信編『日本語の歴史地理構造』明治書院. 要点 疑問詞疑問文のゾの脱落について、以下のことに注目しながら考える。 外山(1957)の「虎明本では第一類…

小林賢次(1996.10)大蔵流虎光本狂言集における疑問詞疑問文:終助詞「ゾ」を中心に

小林賢次(1996.10)「大蔵流虎光本狂言集における疑問詞疑問文:終助詞「ゾ」を中心に」『日本語研究領域の視点 下巻』明治書院. 要点 虎光本(1817写)の諸本の異同について、疑問文のゾに注目して比較する。 古典文庫本の底本・山岸清斎文政6書写本と、対…

外山映次(1957.12)質問表現における文末助詞ゾについて:近世初期京阪語を資料として

外山映次(1957.12)「質問表現における文末助詞ゾについて:近世初期京阪語を資料として」『国語学』31. 要点 16世紀末まで、疑問詞を用いた質問表現の基本的形式は「疑問詞+ゾ」であるが、17世紀中葉に至って、ゾの消滅した形式が多く見られるようになる…

大坪併治(2008.9)石山寺本大智度論古点における「誰……者」の訓法について

大坪併治(2008.9)「石山寺本大智度論古点における「誰……者」の訓法について」『訓点語と訓点資料』121. 要点 石山寺本大智度論[858~]には、「誰…者」の構文が登場し、「たれか…するもの/ひと」と読む。 誰か当に治せむ者[もの]。 これが定着すること…

辻本桜介(2022.4)中古語における間接疑問文相当の引用句

辻本桜介(2022.4)「中古語における間接疑問文相当の引用句」『日本語の研究』18(1). 要点 古代語に間接疑問文は存在しないと考えられているが、間接疑問文に相当する用法を持つ引用句があることを主張する。 まず、間接疑問文の用法を持つことが妥当である…

矢島正浩(1996.3)「疑問表現+しらぬ」の表現:近世前・中期の狂言台本を資料として

矢島正浩(1996.3)「「疑問表現+しらぬ」の表現:近世前・中期の狂言台本を資料として」『国語学研究』35. 要点 近世前・中期の狂言台本に見られる「疑問表現+しらぬ」について、以下3点を主張 ① 形式としては、内容的疑問(Wh疑問)の場合に、ゾを伴う→…

堀崎葉子(1995.3)江戸語の疑問表現体系について:終助詞カシラの原型を含む疑い表現を中心に

堀崎葉子(1995.3)「江戸語の疑問表現体系について:終助詞カシラの原型を含む疑い表現を中心に」『青山語文』25 要点 疑問のうち、「問い」についてはほぼ明らかであるが、「疑い」はそうではない 「疑い」の形式は、「問い」と同形式であるかという点で2…

村上昭子(1981.7)終助詞「かしら」の語史

村上昭子(1981.7)「終助詞「かしら」の語史」『馬淵和夫博士退官記念国語学論集』大修館書店 要点 終助詞カシラの成立の過程について考える 抄物にはないので、虎明本と虎寛本の比較を示す 虎明本では ~しらぬ、~しらず、~ぞんぜぬ があり、まだカシラ…

川瀬卓(2019.8)不定の「やら」「ぞ」「か」の東西差と歴史的推移

川瀬卓(2019.8)「不定の「やら」「ぞ」「か」の東西差と歴史的推移」金澤裕之・矢島正浩『SP盤落語レコードがひらく近代日本語研究』笠間書院 要点 不定のヤラ・ゾ・カの歴史を、地域差を踏まえて考えたい 近世後期においては、上方はゾ>ヤラ>カ、江戸は…

高木千恵(2005.3)大阪方言の述語否定形式と否定疑問文:「〜コトナイ」を中心に

高木千恵(2005.3)「大阪方言の述語否定形式と否定疑問文:「〜コトナイ」を中心に」『阪大社会言語学研究ノート』7 要点 大阪方言における分析的な否定形式コトナイと、否定疑問形式コトナイカについて考える 述語の否定形式は以下の通りで、 p.74 これら…

佐々木峻(1993.11)大蔵流狂言詞章の文末表現法:「……か知らぬ。」「……ぢゃ知らぬ。」等の言い方について

佐々木峻(1993.11)「大蔵流狂言詞章の文末表現法:「……か知らぬ。」「……ぢゃ知らぬ。」等の言い方について」山内洋一郎・永尾章曹(編)『継承と展開2近代語の成立と展開』和泉書院 要点 虎明本・虎寛本の「か知らぬ」系の形式について見る ひとまず、「ぞ…

永田里美(2018.3)『源氏物語』における反語表現:会話文中の「ヤハ」、「カハ」について

永田里美(2018.3)「『源氏物語』における反語表現:会話文中の「ヤハ」、「カハ」について」『跡見学園女子大学文学部紀要』53 要点 いわゆる反語のヤハ・カハの差異を示す ヤハの結びは既実現要素、カハの結びはムなどの未実現要素に偏り、 ヤハは聞き手…

尾上圭介(1983.10)不定語の語性と用法

尾上圭介(1983.10)「不定語の語性と用法」渡辺実編『副用語の研究』明治書院 前提 不定語の語性に「(その物なら物、人なら人、数なら数の)内容が不明、不定であること」という不明性・不定性を求める 「だれか」「なにか」のような不定称者指示を「不定…