ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

砂川有里子(2000.10)空間から時間へのメタファー:日本語の動詞と名詞の文法化

砂川有里子(2000.10)「空間から時間へのメタファー:日本語の動詞と名詞の文法化」青木三郎・竹沢幸一編『空間表現と文法』くろしお出版

要点

  • 空間概念を表す自立語が格助詞・接続助詞・助動詞へと変化する機能語化の類型について(論文では文法化、ここでは狭義の文法化を指すので機能語化としておく)
    • グループ・ジャマシイ編『日本語文型辞典』を資料に

動詞由来のもの

  • 格助詞+テ(接続助詞的もしくは格助詞的):にかけて、にしたがって、をつうじて
  • 連用形:おり、きり
  • 連用形+格助詞:おりから、おりに
  • 附、連用形から接尾辞:10分おき、3年ごし、できあがり、食べかけ、開けっ放し、作りたて
    • 名詞から接尾辞は多くない:死にぎわ、寝入りばな、出会いがしら

名詞由来のもの

  • 名詞単独(接続助詞的):あと、かたわら、すえ、まえ、あいだ、うち、
    • あいだ、あと、まえ、うちなどは主語・目的語になるが(間が・間を)、うえ、かたわら、すえ、そば、などは接続助詞的用法しか持たない
  • 名詞+格助詞(助動詞的):うちに、そばから、ところに、
  • 名詞+ダ:一方だ、ところだ

どういったメタファーか

  • 動詞の場合(p.117)

(a)随伴:にしたがって、にともなって、につれて、をもって。

(b)接触:おりから、おりに、きり、にあたって。

(c)設置:において、にかけて。

(d)存在:にあって、にさきだって、にひかえて、にめんして。

(e)移動:にいたって、にいたっては、にいたっても、にわたって、をつうじて、をとおして。

  • 名詞の場合(p.124)

(a)場所一般:ところ、ところだ、ところで、ところに、など。

(b)相対的位置関係:まえに、をまえに、あと、かたわら、など。

(c)空間の形状:あいだ、あいだに、うちに、すえに、など。

(d)その他:いっぽうだ、いっぽうで、とともに

  • これらは、「上」はあっても「下」がないように、対称的でない

気になること

  • 「おり」「きり」は連用形転成名詞の内部での意味変化と見たほうがよいか
  • できあがり、食べかけ、開けっ放し、なども、接尾辞としての成立ではなく、複合動詞の連用形転成をベースとしたほうがよい?