大塚望(2004.7)「たい」と「たがる」:主語の人称を中心として
大塚望(2004.7)「「たい」と「たがる」:主語の人称を中心として」『新潟大学国語国文学会誌』46
要点
- 「たい」は一人称、「たがる」は三人称という主語の人称制限があるとされるが、実態は異なるので記述し直す
これまでの「人称制限」の原則と反例
- 「たい」は一人称に用いられる
- 星はどなりつけたい衝動を感じたが、それはやめた。
- 別れたいという内儀さんと、別れるのは嫌だと言う熊さんの間に板挟みになった。
- 「たがる」は三人称に用いられる
- (私は)人の集まる所へ顔を出したがる。
「人称制限の原則」改
- モダリティと人称制限の関わりから、どのような場合に人称制限があるか、という観点から見ると、
- 「たい」は主文述語、現在時制、言い切りの形
- 「たがる」は主文述語、言い切りで、
- 状態描写(たがっている)
- 事情描写(たがった)
- 属性叙述(たがる)
「たい」「たがる」の異なり
- 意味格のあり方から見れば、
- 「たい」の主格は願望の主体で、経験者格(Experiencer)
- 「たがる」の主格は願望の動作主格(Agent)
- 語彙的な差から見れば
- 「たい」は形容詞的なので内面的
- 「たがる」は動詞化接尾辞の働きにより内面的感情の表現行為を示す(そのため、描写・叙述しか表現できない)
従属節における人称の違い
- 人称制限が緩和される
- 原因・理由:{私/あなた/彼}が彼女に会い{たい/たがる}ので、
- 連体修飾:{私/あなた/彼}が彼女に会い{たい/たがる}日
- 引用:{私/あなた/彼}が彼女に会い{たい/たがる}と
- 従属節と主節の関係から見ると、
- 原因・理由*1
- {私/*あなた/彼}が(は)彼女に会いたいので、彼女の来る日に休みをもらった。:従属節主語が主節にも及ぶ
- {私/あなた/彼}が彼女に会いたがるので、彼女の来る日に休みをもらった。:従属節主語は従属節内でのみ機能
- 連体修飾:{私/あなた/彼}が彼女に会い{たい/たが
る}日は休みをもらっている
- 限定的な名詞・所謂「外の関係」の場合、二人称・三人称主語の「たい」は接続しにくい
- 引用節のうち、
- 直接話法:{私/*あなた/彼}が「彼女に会い{たい/たがっている}」と言った
- 間接話法:君は山田君に{私/君自身/山田}が家に帰りたいと言ったそうだね。
- 原因・理由*1
まとめ
- 「人称制限」と言われたものは発話伝達のモダリティレベルで関わるもので、
- 「人称制限の例外」はそこに関わらない従属節レベルの違い
- 従属節レベルの違いでは、
- 「たい」は語彙的な要因により、従属節と主節の主語が一致し、
- 「たがる」は語彙的な要因により、従属節と主節の主語が一致しない
気になること
- 直接話法でも「あなたは(確かに)「彼女に会いたい」と言った」などは可能で、このあたり説明が少し不明瞭
- 「この章を参照されたい」みたいな対者的用法がいつなくなったのか(固定的になったのか)ということが気になっている
*1:主節主語の解釈によって容認される、という論法だが(p.52)、主節主語それぞれによって分類するべきところか