ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

小田勝(2012.3)動詞「着換ふ」の格支配について

小田勝(2012.3)「動詞「着換ふ」の格支配について」『 岐阜聖徳学園大学国語国文学』31

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要点

中古における「着換ふ」の格支配の特殊なあり方について

問題点

  • 「着換ふ」の格配置、現代語では「旧服ヲ新服ニ着替える」だが、中古では無助詞でどちらも言えてしまう
    • 新服Φ着換ふ:直衣着換へ給ひて、(うつほ・楼上)
    • 旧服Φ着換ふ:単衣の御衣ほころびたる着換へなどしたまても(給ひても)(夕霧)
  • すなわち、以下の2点が問題となる
    • 補語が無助詞で現れることが常態的
    • 旧服も新服もともに無助詞表示で現れる

実例

  • 補語が旧服の場合、全て無助詞で現れる
    • きたなきもの着換へ侍りつるなり(落窪)
  • 補語が新服の場合もほぼ無助詞で現れる
    • よろしき衣着換へて乗りぬ(若紫)

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  • 新服「を」の例:異水干を着換へて、(今昔)
    • 宇治拾遺の対応箇所:異水干Φ着換へてぞありける
  • 新服「に」の例:御直衣奉り換へつ(橋姫)
  • 「に」脱落と考えると、それ自体がまた特異な事例となってしまうので、「新服Φ」の例は「を」脱落と見る

「着換ふ」の格と「換ふ」の格

  • 「着換ふ」の特殊性は「換ふ」の特殊性に求められる
    • 旧ヲ 新ニ 換ふ:銭換へて(宇治拾遺)
    • 旧ニ 新ヲ 換ふ: 妹の名この瀬能山かへば(万葉集285)

参考

  • 新ヲ旧ニ、の例
    • 肌に着たる小袖わが御肌なる御小袖、しひて、「形見に」とて着替へたまひつつ、起き別れぬる御なごりも、(とはずがたり
  • 『古典文法総覧』では、12.13「格の代換」(395-396)として立項されている