佐藤琢三(2016.5)構文としての「切っても切れない」庵功雄・佐藤琢三・中俣尚己編『日本語文法研究のフロンティア』くろしお出版
要点
- いわゆる「結果キャンセル」の文について、
- 動詞の意味の総和に還元せず、「~テモ~シナイ」という構造自体が意味を持つものとして捉えることの有効性を示す
結果キャンセルと「切っても切れない」
- 池上嘉彦は、動詞の意味構造において、行為の概念化の境界がない(「燃やしたけど、燃えなかった」に「達成」の含意がない)ことに結果キャンセル文が成り立つ要因を求める
- 宮島達夫は動詞の意味における結果性の強弱を論じる
- ころす>おとす>こわす>のむ>ぬく>ぬる>あける>わかす>ひろげる>のぼる>ほる>いれる>うごかす>よわめる>もやす>かわかす>ひやす
- しかし、実例おける結果キャンセル文は、ほぼ「切っても切れない」に特化することを認識すべき
- 「AガBヲ切る」の格パターンを失い、属性叙述の機能を持つ(「切る」なのに事象叙述ではない)
結果キャンセル文のプロトタイプ
- 結果キャンセル文のプロトタイプに、「切っても切れない」を設定
- 述語動詞:「切る」
- 接続形式:「テモ」
- 格パターン:「~ガ」もしくは「~ガ~卜」「~卜~ガ」(ヲ格の非出現)
- 後項述語:「~ナイ」(自動詞否定形)
- あの二人は切っても切れない関係だ。〈容認度91.8〉
- あの二人の関係は切っても切れない。〈77.5〉
- これを示すアンケート事例として、タケドに置き換えると容認度は低下する
- あの機械は壊しても壊れない。〈33.9〉
- あの機械は壊したけど壊れなかった。〈30.2〉*1
- ヲに置き換えると容認度は定価する
- この布は燃やしても燃えない。〈58.9〉
- この布を燃やしても燃えない。〈45.8〉
- 主節形式を置き換えると容認度は低下する
- あの機械は壊しても壊れない。〈33.9〉
- あの機械を壊しても元のままだ。〈28.4〉
気になること
- 「テモ→タケド」の事例で、「関係を切ったけど切れない」を出さないのがやや不審。「切っても切れない」レベルで慣用度が高いものと、これら(燃やしたけど燃えないなどの)キャンセル文を一括してよいのか?という問題が隠されてしまっているような、そんな印象を受けた。
- プロトタイプとして「切っても切れない」があるのではなく、結果性の弱い動詞による「~テモ~シナイ」「~タケド~シナイ」文の中で、「切っても切れない」だけが伸びたと見るほうがよい?*2