高山善行(2010.2)「中古語の<断り表現>について:『枕草子』の場合」『語文』92・93
要点
- タイトルまんま、高山(2009)とセット
依頼・命令と断り
- 古代語には断りの定型的表現は見られないので、依頼・命令に対してどのような行為を行ったかを基準とする
- 依頼・命令に対する対応には以下のパターンがある
- 実行系(承諾)
- 非実行系
- 明示的→断り
- 非明示的→無視・困惑・忘れ
枕草子の断り
- 「詫び」「理由説明」「断りの述部」(尾崎モデル)に基づいて分析
- すみませんが、○○なので、△△できません。
- 機能的要素としては、
- 理由説明(+断り)が見られる
- 「…題取れ」とてたまふを、「さることうけたまはりて、歌よみはべるまじうなりてはべれば、思ひかけはべらず」と申す。
- 理由説明だけのパターンもある
- 「二人ながら、いざ」と仰せらるれど、「いま顔などつくろひたててこそ」とてまゐらず。
- 理由説明をせずに断るパターンもある
- 宮のぼらせたまふべき御使にて、馬の内侍のすけまゐりたり。「今宵はえなむ」などしぶらせたまふに、…
- 理由説明(+断り)が見られる
- 文法的特徴としては、
- 「詫び」が見られない
- 前置き表現が発達していないことと関連
- 理由説明を含むものが多く、これは現代同様、対人配慮の機能か
- 「断り」そのものも根底では「理由説明」と繋がっている(「理る」と「断る」)
- 断りの述部では、不可能表現の使用が目立つ
- 「今日は行きません」は「行こうと思えば行ける」ことを含意する
- 意志表現をとらずに不可能の表現を洗濯することに対人配慮意識の現れがある
- 述部には反語表現も用いられるが、これは断りの意志を明確に示すのに適しているもの
- 「詫び」が見られない
雑記
- どちらかというと断るのが下手でなんでも引き受けてしまうタイプだと思うが、総合的にはそれで得してることの方が多いかもしれない。明らかに損したと思うのは、報酬自体が全くありがたくないときくらい……